アグレット=バタフライコード

 前任者は失敗した。けど、ワシなら上手くやれる。


 何度も見直した。何度も手直しした。


 これで完成、完璧なダンジョンの完成だ。


 徹夜前提、過労死ボロボロの強行軍、それでも完成できた。


 ……いや、完璧など、ありえるのだろうか?


 そもそもダンジョンとは何だ?


 奴らが言うには地下に広がる迷宮のような施設で、危険な罠とどう猛なモンスターが守っていて、秘められた謎を解いたその奥にはお宝が眠っているという。そしてそのモンスターが時折出てきて悪さをするから冒険者なる奴らが冒険してて討伐し、お宝を持ち帰るのだとか。


 訳がわからない。


 そもそもそのような施設を作る意味がない。古代王族の墓場だとの説明も受けたが、だとしても入り口塞いで死者を静かに眠らせるものだ。


 譲歩して盗掘され、モンスターの住処になったとして、その討伐はその地を管理する組織、国か貴族が軍を派遣して行うものだ。


 更に譲歩して民間委託にするにしても監視は絶対必要だし、ましてやお宝を盗み出すのを黙認するなどありえない。


 奴らは訳がわからなすぎた。


 モンスターもそうだ。


 初めはどう猛な獣だと解釈して狼や猪を用意してたがそうではないという。じゃあ何かと聞けば動く石像か蘇った死体、巨大な虫に、邪悪な種族と答えられた。


 奴らは頭がおかしい。


 石像は動かないし死体は蘇らない。巨大な虫も拳を超えることはない。


 唯一まともそうな邪悪な種族でさえ、奴らがこれまで虐殺してきた少数民族を指してるにすぎなかった。


 彼は我らと同じ人だと説くも聞く耳持たず、ならばどう違うのかと問うと殺された。


 奴らは奴らにもわからないものを求めていた。


 …………だがそれでも、ワシは、ワシらはやり遂げた。


 鉱物採掘の技術を応用した地下道、程よい罠、適度な謎解き、灯とりのロウソクも設置して、お宝もバッチリ用意してある。


 そして一番の目玉、苦労したのがモンスターだ。


「うごごごごご」


 言葉の代わりにヨダレを垂らすは、正しく死体だった。


 但し蘇ったのではない、死にぞこなったのだ。


 麻薬中毒者、奴らが跋扈する現実に耐えきれず薬に逃げた者たちの末路、最早獣にも劣る知性しか残されておらず、それさえも新たば薬入手に特化している。


 彼らをモンスターと呼ぶのはワシらの弱さ、そして罪だ。


 だがお陰で、このダンジョンは完成し、ワシらは一時の猶予が得られる。


 ……鑑賞に浸るのは完成させてからだ。


 最後の仕上げ、最深部にお宝を安置して鍵を閉め、その鍵を途中の牢の中へ、白骨死体の手に握らせて謎解きとする。


 難しくはない。だが時間は稼げるだろう。


「た、大変です!」


 いきなり飛び込んできたのはスタッフ、見知った顔だった。


「や、奴らが! もう奴らが攻略に来ています!」


「な、まだ早すぎる! 避難は!」


「できてません! 唯一の出口を押さえられて一方的に、スタッフもモンスター扱いされてます!」


 足元から、崩れ去っていく。


 ……いや、まだだ。まだ生き残れる。


「中へ、早く!」


 牢の扉を開けてスタッフを、その後に続いた何人かを入れ一緒に入り、鍵かけて、奥へと投げ捨てる。


「いいか? ワシらは攫われ、ここを作らされた。助けてくれた礼にお宝の鍵とヒントを、白骨の役割を担う。口裏を合わせろ」


 こくりこくりと頷くスタッフ、そこへ遅れてもう一人入ってくる。


「あ、あぁ!」


「落ち着け! まだ間に合う。そこに鍵が」


 パチン。


 ギャ!


 ……間に合わなかった。


「こっちも行き止まりかよ」


 その死体を踏みつけながら奴が入ってくる。


「おぉどなたか知りませんがお助けを。ワシらは」


「黙れ」


 言われて、黙る。


 奴らを刺激してはならないのは、基礎中の基礎だ。


「ステータスオープン。あぁやっぱりあそこが隠し通路、で鍵、これならスキルで行けるな」


 ぶつくさと独り言、半分の意味はわからなかったが残り半分、謎解きは解かれたらしい。


「で、お前らな。鍵持ちで、何だよあライフバー赤色じゃんか」


「いやワシらは」


 パチン。


 ギャ!

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