ランドルト=サーク
前任者は失敗した。けど、私は上手くやれる。
だが、このようなこと、試みてる段階で、私は死んでるも同然、地獄に行くのは確定だった。
理性では、確率では、これが一番とはわかっている。
奴らが現れて、殺戮が日常になった今、一番生存率が高いのは、皮肉にも奴らの庇護下に、つまりは気に入られるのが最も有効だった。
その中で一番有名で確率高いのは、奴らの言うハーレムだった。
名目上は一夫多妻制の婚姻関係、実際は奴隷を、いや珍しいペットのコレクションしているに過ぎない。
奴らに愛などない。
それでも、気に入られればその身の安全は絶対だった。
少なくともどこかのハーレムに属せれば、他の奴らと関わる可能性が低くなる。
この滅びに向かう世界で僅かに安全そうな地獄へ、私は父親でありながら幼い娘を突き落とした。
半分は仕方ないこと、奴らに見染められた段階で残る道は自害しかない。
だが残り半分は、これを好機と捉え、安楽な生活ができると、私は説得したのだ。
奴らを軽蔑しながら媚を売り、隷属する私は、きっと同じぐらいに汚れているのだろう。
そして、それ以上に弱かった。
月明かりの下、ただ広い敷地を囲う壁を乗り越え、刈り込まれた庭園を抜け、巨大な屋敷を伺う。
この中に娘がいる。
安全安心、安楽な生活で少しは幸せになれている、そう信じたかった。
いや、そうではない。
ただ一眼、寂しさと罪悪感から、遠目でいいからその姿を見たいのだ。
それだけのこと、だけどもこれは命懸けだった。
……奴らは裏切りを、浮気を絶対に許さない。
それが本心からの愛であっても、あるいはただ道を尋ねただだけであっても不貞を働いたとして殺される。
それも楽な殺され方ではないのは、常識だった。
だからもし見つかったなら、私だけでなく娘も危なくなる。
わかっていて、だけども引き返せない私は弱かった。
「こんばんは。ステキな夜ですね」
一声、終わりを告げた。
奴の登場、事前に気配もなく、見られた見つかったとの意識も持てぬままに目の前に、現れた。
超常なる存在を前に後悔、それ以上にやるべき義務感が走る。
「い、いや待ってくだせぇ! あっしは怪しいもんじゃあ」
慌てる振り、同時に背負ってた荷物を揺らして中身を零す。
ギャルのパンティ、買い集めたもの、慌てて隠せば下着泥棒の完成だ。
……理解不能な奴らでも、それでも一定のパターンは見える。
冷酷無比で呼吸するように殺戮する奴らだが、奴ら特有のパターンに、シナリオに近い話の流れを提供するとその通りに行動するとわかってきた。
その中の一つ、下着泥棒パターン、見つかって大騒ぎ、みんな集まるも下着姿でキャーエッチーと叫ばれ、ボコボコにされて外へと追い出される。
生存確率が比較的高くて娘に会えるかもしれない一手、上手くいった。
「なんの騒ぎでありんすか」
「ぷにゅーねむいぷにゅ」
「どうなされましたご主人様!」
ハーレムの女の子たちがぞろぞろと現れる。
みなやつれていて、目に下にクマがあって、幸せそうに見えない。
「見てくれレディたち! こんなところに変態が」
「お父さん!」
聞きなれた声、聞きたかった声、娘の姿、ようやっと見れた。
「まってご主人様! この人お父さんなの!」
あぁだけど、ダメだ。私に構ってはダメなんだ。
「なぁにぃ〜。つまりこいつは、自分の娘の下着を盗みに来たのか! 許せねぇ! この場ではっ倒してやる!」
やめろ! やめろ!
死ぬのはいい。覚悟はできてる。だが娘の前ではダメだ。トラウマができてしまう。それだけは回避せねば。
「やめてご主人様! お父さんに酷いことしないで!」
「てやんでえべらぼうめ!」
グシャ!
あ。
「え?」
「う」
「ちょっとなんでよ」
あああああああああああああああああああああ!
「あぁまたかよどんだけ弱いんだよこいつらは。まぁ色被りだからいいけどさ」
なんでだ?
私が? 私が弱いからか?
ただ一眼娘に会いたい姿を見たいを思ったからか?
だったら私に罰を下せ!
なんでこんな、優しい娘が、こんな惨たらしい最後を迎えなければならないんだ!
「それよりこっちだ。落ちないんだよな。おい。洗濯しといて」
違う。悪いのは、奴ら、こいつだ。
こいつさえいなければ、こんな、こんな、こんな、こんな!
「許さない。絶対、お前を、殺してやる」
「あーはいはい怖い怖い」
パチン。
ギャ!
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