アルベド=オレンジ
前任者は失敗した。けど、あたしは上手くやれる。
大丈夫、その為に練習してきたんだ。準備は万端なんだ。あたしはやれるんだ。
それに、もし失敗しても、あたしは奴の好みのタイプらしい。だから愛嬌向ければ許してくれる、そう思おう。
光の反射、奴がきた合図、よし。
深呼吸、落ち着いて、パンを咥えて、走り出す。
「いっけなーい遅刻遅刻!」
口に物を咥えたままで話す訓練、一番苦労したけど一番上手くなった。
後はこのまま角を飛び出し、奴とぶつかって出会いを演出するだけ、大丈夫、こんなのに何の魅力があるかわかんないけど、やらないといけない。
前だけ向いて、あたしは飛び出す。
ドッシーン!
強すぎず弱すぎず、練習通りの衝撃、上手くいってる。
「ちょっと! どこ見てるのよ!」
何度も何度も反復したセリフ、大丈夫、上手く言えた。
後は奴の反応次第、止まらない鼓動に押されるように顔を上げると……悪くなかった。
「すみません。ちょっとぼーっとしてて」
「あ、はい」
……だめ、上手く言葉が出ない。
あれだけ怖い怖い言われてた奴、酷い見てくれで力がなければ誰も近寄ろうとはしない、あっても誰も愛さないとまで言われてた、奴は、思ってたよりも、悪くなかった。
「大丈夫ですか?」
「あ、あの、すみませんでした」
これまでの練習を忘れて素のあたしで、差し出された手を掴んでた。
暖かくて優しい手、これなら、この人なら大丈夫、大丈夫できる。
「ごめんなさい。あたし慌ててて」
「それでも飛び出しちゃダメですよ。俺だからよかったものの馬車とかもここは通るし、それにホラ、奴らもたまに通るらしいし」
「……え?」
奴ら、はこちら側しか使わないスラング、奴らは奴らを奴らとは呼ばない。
つまりこの人は奴らじゃなくて……間違えた。失敗した。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。
何で合図が、そんなことよりここを離れないと、奴に見つかったらお終い、だめど今ならまだ、大丈夫、やり直して誤魔化してまた新しく……あ。
初めて見たのにわかる。一目でわかった。
奇抜な服装、それに何の意味があるかはわからないけど、似合ってないのはよくわかる。顔とかスタイルとかの問題じゃなくて身嗜みの問題、ここまで臭ってきそうな髪、何よりその、目が、人じゃなかった。
「フザケンナよ」
奴が、呟く。
「イチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャ見せつけやがって、リア充が。イケメンじまかよ。目障りなんだ。消えろゴミが」
意味のわからない言葉、ただ怒ってるのはわかる。わかってしまう。
「おら、リア充、爆発しろ」
パチン。
ギャ!
あ、あぁ、ああああああああ死んだ。死んじゃった。殺されちゃった。
本物、あたしも、殺される。いえまだ、まだいける。大丈夫、あたしはあいつの好みのタイプ、まだチャンスは残ってる。
「……ふん」
目の前に立たれて、だけど見た目よりも臭いが先に来る。
顔をしかめちゃダメ、笑顔、愛想よく、気に入られなきゃ、生き残れない。
「うーん、好みのタイプ」
大丈夫大丈夫まだ大丈夫。
「あー勿体ない」
え?
「これでそこらの男に見境なく会話するようなビッチでなきゃなー」
いやそんな、その程度で、いや待って待って待って待って!
パチン。
ギャ!
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