11話 覚醒①
「魔物って……なんだ?」
「ふふ……一体、使いを送っただろう……少しは対抗できたかな? まあ、できていれば今ここにアンリ、お前はいないわけだが」
また、質問に答えない。あるいは、今の物が答えなのか。さっきの赤いゴブリンが、魔物なのか?
そして、次いで送られたのは、耐え難いほどの侮辱。これまで魔法を発展させてきた先人たち、歴代の大賢者、何より僕への。
……許せない。大賢者としてのプライドが、この女を許しておけない。
──そもそも、僕一人の命など問題ではないのだ。
何かの奇跡が起きて、魔法が使えたとしたら、僕以上の脅威が大陸にいることを奴が悟り、大陸を滅ぼそうなどという考えは無くなるだろう。メルラスの頭が相当弱いか、揺るぎない信念を持っているかでもない限り。
あるとすれば後者だ。 しかし、そう都合よく魔法が使えるなどある訳が……。
瞬間、僕は気付いた。
──全身に、魔力がみなぎっていることに。
理由は分からないが、そんな物この際どうだっていい。目の前で彼女がなにか言っている。きっと挑発するようなことを言っているようで、気味の悪い笑みを浮かべながら口を動かしているが、僕の耳には届かない。
滾る魔力。
それはこれまでの十余年生きてきた中のどれよりも心地よく、言うなれば、絶好調、だった。不思議だ。こんな状況でありながら、なぜか心が躍る自分に驚いている。
今魔法を使ったら、どれほどの物が出せるだろうか。──試してみたい。
まず邪魔になるのは、この手枷と足枷。炎の持つ性質、光と熱の内、熱のみを取り出し、鉄製の枷を繋ぐ鎖を破壊した。これで四肢は自由だ。
奴はまだ、気づいていない。僕は再び、注意をメルラスに向けた。
「この大陸を滅ぼす、その前に私を殺しに来い……アンリ」
「殺しに来い……だと? 何が目的なんだ!」
「私はただ…………そうだな、退屈なのだよ。大陸を滅ぼすのもただの、暇つぶしに過ぎない」
退屈? 暇潰し? そんな……馬鹿げた理由で、平和を終わらせてたまるか……!
「そうか、ならばその退屈、終わらせてやる! お前は今、僕が殺す……!」
「ふふ、魔法を使えないお前がどうやって──」
その時僕には、見えた。空気中を漂い、流れる光の粒子が。こんなことは初めてだが……どうするべきなのか、僕には分かっていた。
そして空気中を流れる光の粒子に導かれ、僕は右手をメルラスへ向ける。生涯幾度となく繰り返してきた動きは流麗で、自分の目から見ても洗練されていた。
彼女の驚く顔が見える。目を見開いた、メルラスの
『障──』
障壁の詠唱よりも、
『炎弾』
僅かに僕の詠唱速度が勝った。
静かに構築されていく半透明の壁をすり抜け、巨大な球状の炎は凄まじい速度で前進する。
目の前の玉座めがけて……。
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