10話 謁見
……どこだ……ここは。
薄暗い。室内のようだが……視界がはっきりしない。
──マリーナはどこだ? 彼女は逃げ切れただろうか……?
唐突に吐き気が込み上げてくる。姿勢を変えようとした僕は、あることに気がついた。両手と両足を、鉄製の器具で拘束されている。立つことは愚か、動くことすらできない。
一体何なんだ、この状況は。
……視界がようやく、明瞭になってきた。
どうやらここは──謁見の間のようだ。薄闇の中にきらびやかな装飾、座る床には赤の絨毯、そして眼前には…………一際異彩感を放つ、玉座。
そしてそこには──誰かが座っていた。
「ようやく目覚めたか……」
玉座から女性の声がして、直後指を鳴らす音が、耳鳴りのように響いた。その音に共鳴するかのように、空中にいくつかの炎が現れ、漂い、ひたすらに辺りを照らしていく。
────腰まで伸びた、深紅の長髪の女が。
足を組み、玉座に佇んでいる。その頭頂には歪んだ王冠を乗せ、その全身を彩る赤の服装とは裏腹に氷のように冷たく、鋭い眼光をこちらに向けて。
誰だ、あの人は?
「よく見えないな……」
そう微かに聞こえた直後、僕の体全体をあの女の元へ引き寄せようとする凄まじい力を感じた。
……っ、抵抗できない……! 全身を強打し、転がりながら僕はあの女の眼下に辿り着いた。
「そのローブ……! アンリは大賢者になったのか……」
女がにんまりと笑うのが見える。何が目的なんだ?敵であることには違いないとして……この悍ましい魔力は……この圧倒的威圧感の正体はなんだ?
「お前は……誰、だ……?」
引きづられたときの痛みでまともに声が出ない。かろうじて出たそれは、かすれ、小さなものだった。
「近いうち、この大陸を滅ぼそうと思っている」
……質問に、答えない……!?
そしてこの女は自分が言っていることの意味を分かっているのか……? マライスカを筆頭とする、全ての国と全面戦争を行うということだぞ……!
「それは無理な話……」
そう言いかけて僕は、あまりの苦しさに声を出すことすらできなくなった。先ほどのような不可視の力で、腹部を圧迫されている。これも……なにかの魔法なのだろうか……?
「無理なんかじゃない。現に最高戦力の君もこうやって簡単に無力化することができただろ?」
苦しさが、引いていく。
「お前は一つ勘違いをしている……今の僕は最高戦力でもなんでもない……。」
あのにやけ面、崩してやる。これは負け惜しみなんかじゃない。
「今の僕は魔法が使えないからだ」
そういった途端、女は無表情になり、怒りにすら近い、複雑な表情を浮かべた。
「どういうことだ……?」
周囲を漂う炎が弾け、その勢いを増してゆく。
「……分からない。ただ、こんな状態の僕を捕らえて、喜んでいるようじゃお前も大した──奴じゃないってことだ。」
啖呵を切り、反応を待つ。しかし挑発に乗らず、再び女の顔には余裕が生まれ始めた。
「そんな挑発に乗るような私じゃないぞ、アンリ。」
「……そういえば、先程の質問に答えていなかったな……。私の名前は、イ…………いや、メルラス=ファイラ。『魔物を統べる魔族の王』だ」
メルラス。そして一つ、聞き慣れない言葉。
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