12話 覚醒②
メルラスの体、中心部に直撃する炎弾。肉体に穴を開けた炎は、瞬く間に延焼し、奴の全身を灰にした。
部屋が燃えないように炎を消す。その玉座付近には灰の山ができていた。
やった、のか? それにしては余りにも、呆気なさすぎる。
回避行動すら取らず、近づく自らの死に怯える様子すらなかった。最期に少し笑みを浮かべ、静かに、燃え尽きていった。
僕の炎は、その全てを灰と化すまで止まない。
余りにも不便な性質、それを抑えるのにも魔力を使う燃費の悪さに幼い頃からいらいらしていたが……。
その性質に感謝したのは、生まれて初めてかもしれない。あの女の死に顔など……見たくないからな。気分が悪くなるだけだ。
命を殺めることに慣れているわけではない。 生来モンスターを殺すことで生きてきたが、人の形をしたもの……奴の言葉を借りれば、『魔物』を殺すことが……ここまで気分の悪いものだとは。
予想していたが、上回るものだった。世界を救ったといえば聞こえは良いが、心のわだかまりが消えることは、しばらくないだろう。
しかし、どうやって帰れば──
──その時、僕は見てしまった。そして現実から逃避しようとして、それが通用する状況ではないことを悟るまでそう時間はかからなかった。
密閉されたはずの室内に、突如として風が吹く。それは静かに、しかし確実にメルラスの遺灰を運びそして、僕を取り囲んでいく。
一体何が起こっている──!?
「やはり血は……争えないか」
背後に奴はいた。僕の肩に右手を乗せ、振り返った僕の顔に、顔を近づけて言った。
「私に嘘を吐くだなんて……ふふ、悪い子だ」
そう言うメルラスと目があった瞬間、氷に包まれたかのように、背筋に悪寒が走る。この女と僕たちではきっと何万年たっても相容れることはないだろう。
メルラスが気にしているのは、攻撃されたことじゃない。
──僕が魔法を使うことができないと、言ったにも関わらず、『炎弾』を放ったことなんだ。
異常だ。度を越して。
「はぁ……もう良い。退がれ」
手を乗せられた肩が、熱い。目をやるとそこには、僕の体を燃え広がる炎があった。
用済みになった僕は始末される。そういうことなのか。ただ最期に……とどめを刺したはずの奴が蘇った理由を……知りたかった。
炎がどんどん燃え広がり、顔にまで迫ってくる。重度の火傷を負った為か、不思議ともう痛みはない。
「お前は僕たちが……人類が必ず殺す……!」
「ふふ……楽しみにしてるよ、アンリ」
死ぬのは怖くないが……最期にマリーナと会いたかったな……。
僕が遠ざかる意識の中で最後に見たものは、深紅の炎、そしてメルラスの余裕を含んだ笑みだった。
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