第17話 調査開始

「でも付喪神じゃないなら、雪乃はどうやって探すつもりなんだ?」



 困ったように眉を下げる一条くんに、少し胸を張る。


 付喪神が宿っていないからといって、別に探せなくなったわけじゃない。

 ちょっと大変になるだけで。



「付喪神は、大切にされている仲間・・に敏感なんだ。60年もそばに置き続けていたら、きっと他の付喪神の印象に残ってるはずだよ」

「まあ、つまりは聞き込みだね」



 屋敷を回りながら寄木細工を呼ぶという方法を考えていたけど、目当てのものに命が宿っていないのなら仕方ない。幸いこの屋敷に古い物はたくさんあるし、手間はかかるけど成果は得られるだろう。



「雪乃、頼めるか?」

「――うん、任せて」



 目を閉じて、深呼吸する。

 そのまま眼鏡をはずして、手探りでウエストポーチに入れた。



「なるほど、眼鏡で見えなくしていたのか」

「!だからあのとき、眼鏡をかけてなかったんだ!」

「静かにして」



 三人のやり取りを聞き流しながら、私はそうっと目を開けた。



『やっとその忌々しい目隠しをとってくれた!』

『聞こえる?聞こえる?もう聞こえてるよね?』



 彼らの姿が見えたとたん、たくさんの声が耳に飛び込んでくる。

 彼らは特に好奇心が強くて弱い子なのだろう。ただ自由に動けることが楽しくて、その命がどれほど得難いかわからない。だから本体から離れていられる。


 今ここいるのは十ほどだが、がこれだけいれば強い付喪神はもっといるだろう。それだけ長い間この家にいるなら、寄木細工を見ているかもしれない。



「いたか?」



 黙り込んでいる私を心配して、一条くんが声をかけてくれた。心なしか少し目が輝いている。



(そうだ、いつもみたいに自己完結しちゃだめだ。一条くんたちにも分かるようにしなきゃ)



 どう説明すべきか悩んで、私は見たまま話すことにした。



「予想よりいっぱいいるよ。大広間の方から来てる子もいるみたい」



 長い尾を持つ金色の鳥がそうだ。つぶらな瞳でこちらを見上げる姿がかわいい。

 ほかにも絵本に出てくる妖精のような子もいれば、ころころとした小人のような子もいる。



「へえ。……だめだ、カメラには映らないや」



 スマホを持ったまま、白鳥くんは残念そうにつぶやいた。

 それを横目に、私はひとまず目の前の子たちに声をかけてみる。



「この部屋に住んでいた人のこと、わかる?」

『わかる!わかる!優しくて綺麗な人だった!』

『アタシたちを大切にしてくれていた!』

『でも、ちょっと前に亡くなったのよ』



 きゃらきゃらとまるで幼稚園のように騒がしい声が部屋に広がる。

 ここまで騒がしければこの家の人から苦情が来そうだが、別に止めようとは思わない。この声は、私にしか聞こえないからだ。少し前まではこの力がそんなに好きじゃなかったけど、今は彼らの助けはとても心強かった。



「その人、千代さんが一番大切にしていた物があったんだけど、見覚えある?」



 金色の鳥に尋ねる。子供のような会話の中で、一番はっきりとした物言いをしていた子だ。



『ええ、寄木細工でしょう?彼女、いつも肌身離さず持っていたから、置物である私もよく見かけたわ』

「!本当!?その寄木細工が見つからないみたいなの。どこかで見かけたりしないかな」



 一条くんたちが息をのんだ。

 期待を込めて金色の鳥を見つめるけど、帰ってきたのは申し訳なさそうな言葉だった。



『ごめんなさい、きれいな目をした子。私は鳥の姿をしているけれど、飛べるようになったのは最近よ。大広間の外にはあんまり詳しくないの』

「雪乃、付喪神はなんて?」



 分からないと答えると、一条くんは少し悲しそうな顔をした。でもそれは一瞬で、すぐにいつもの朗らかな笑顔に戻り。



「まだ最初だしな!付喪神も、ありがとう」



 私が見ていたところに向かってお礼を言った。金色の鳥はじっとそれを見つめたかと思うと、ふわりと飛び立った。



『椿の間に行って。右奥のタンス、三番目の鍵付きの中に仲間がいる。彼女ほどの古株なら、きっと力になれるはずよ』

「え!?あ、ありがとう!」



 金色の鳥はどれだけいうと、今更鳥のように鳴いた。ピイ、ときれいな声が響き、騒いでいた他の付喪神はぴたりと静かになる。そして名残惜しそうに私を見上げるが、金色の鳥の後に続いてぞろぞろと部屋から出て行った。


 よくわからないが、どうやら古い付喪神の居場所を教えてくれたらしい。私は教えてもらったことをそのまま一条くんに伝えた。



「椿の間か。確かにひいばあちゃんがよく使ってた部屋だが……」

「だが?」

「その、鍵がかかっているんだ。鍵は母さんが持ってて、今家にいないんだ」



 アキくんが聞き返せば、一条くんはものすごく溜めて後にそういった。

 本日何度目かの申し訳なさそうな表情に対して、アキくんは不敵な笑みを浮かべる。



「実はぼく、隠してることがあるんだよね~」

「このタイミングで?まあいいや。隠し事って何」

「ふふふ。実はぼく、ピッキングが得意なんだよね」

「「……は?」」



 数秒の沈黙の後。

 一条くんと白鳥くんは、まったく同じタイミングで間抜けた声を出した。



 

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