第13話 これからの予定

「俺が手に入れられた写真はこれだけだし、やっぱり話だけじゃ限界があるか」



 少しの沈黙のあと、一条くんは申し訳なさそうに口を開いた。



「そもそも今は情報共有の時間だからね。目的の明確化に調査範囲と方法の決定、これは捜査の基本だよ」

「何しろ半年も見つからなかった物だし」



 あんな小さい寄木細工じゃ、他の荷物に埋もれていたら簡単に見つからないだろう。しかも今倉庫整理で頻繁に配置変わっているというし。

 ……うーん、改めて考えてみても大変そうだ。自信満々に出ちゃったけど、ちゃんと見つけられるかな。



「そうだな。よし!七瀬、秋兎。お前ら、今週土曜……日曜でもいい、どっちか空いてるか?」

「えっ、私はどっちも空いてるけど……」

「ぼくも。でもできれば土曜の方がいいな。日曜だと月曜日が辛いもん」



 突然変わった話の流れについていけなくて首をかしげる。

 反射で答えたが、休日の予定を聞いてどうするつもりなんだろう。



「わかった、じゃあ土曜日に俺んちに集合な」

「えっ!?」



 俺んちって、一条くんの家に行くの!?私が!?



「何驚いてるんだ?俺んちでなくなった物を探すんだから、俺の家に来るのは当然だろ?」



 一条くんは心の底から不思議だというように私を見た。

 確かにその通りなんだけれどもっ、だとしてもいきなり同級生の女子を家に上げるかな!?



「ユキちゃん、一条は日本でもトップの企業本筋の長男だよ。頻繁に家に人が来るから、ぼくたちとは感覚が違うの」



 上手く説明できない私に、アキくんが小声で耳打ちしてくれた。耳元でしゃべられるとくすぐったい……。



「というか、七瀬はどうやって探すつもりだったんだ?」

「え、一条くんが持ってきた骨董品の付喪神から話を聞いていくつもりだったけど……」

「俺に何往復させる気だ。効率悪いし、俺は付喪神見えないからハズレを持ってくることだってあるだろ」



 う。無意識のうちに一条くんの家に行くっていう選択肢を消していたから、私が考えたのは遠回しな方法ばかりだ。



「それに、百年間大事にされるのが付喪神が宿る条件だろ?たいてい、そういうのは価値がある物でもあるんだ。一つ二つならともかく、そう何個も学校に持ってこれないぞ」

「一つ二つなら持ち出せるんだ。……そんなんだから寄木細工が見つからないんじゃないの」

「む、今まで我が家で骨董品がなくなったことはないんだぞ」

「本当かな……。気づいてないだけじゃない?」



 白鳥くんが冷たい視線を向けると、一条くんはゴホンと咳ばらいをした。自信ないらしい。

 私はほんの少しだけこの話を受けたことに後悔した。



「と、とにかく!捜索メンバーはここにいる四人。俺、桜二、それから七瀬と秋兎だな」

「勝手に技術顧問にされたときも思ったんだけど、やっぱりぼくも頭数に入ってるんだ」



 アキくんは遠い目でスクリーンを見ている。



「秋兎の芸術センスは本当にすごいからな!」

「本音は?」

「人手が足りないんだ」



 切実な問題だった。

 一条くんのお家、話を聞いてるだけでも大きいって分かるもんね。



「ユキちゃんのお手伝いだけするつもりなんだけど」

「それ、オレたちの手伝いと同じじゃない?」



 それは私も思う。



「モチベーションが違う」

「へえ~、アキは過保護だね~?」

「そういうところだよ!だいだいなんだよその呼び方!気持ち悪いんだけど」



 にやにやと笑う白鳥くんに、アキくんは地面に落ちたセミを見るような目をした。



「何って、仲間になった記念?休日に遊ぶ仲になったし、一人だけあだ名じゃないのさみしいかなって」

「ぼくたちは探し物をしに行くのであって、遊びというか仕事だよ。一ミリもさみしくないから今すぐ適切な距離をとって」



 一息で言い切ったアキくんに、白鳥くんはすんっと真顔になった。



「ふぅん、友達じゃないなら言うこと聞く必要ないね。アキ、よろしくね?」

「今決めた。ぼくは一生お前の友達にならない」

「桜二、そうやってすぐ人をからかうのやめろ」



 悔しそうなアキくんに、からっと表情を変えた白鳥くんは声をあげて笑う。

 空気が悪くなる前に一条くんが間に入る。



「でも、呼び方を変えるのはいい考えだと思うぞ。俺も今更よそよそしいって思ってたんだ」



 とても爽やかな笑顔で、一条くんは私を見た。

 あれ、話の雲行きが怪しくなってきたような。



雪乃・・、俺のことは颯馬って呼んでくれ」



 心臓が飛び出るかと思った。

 若干鼻にかかった甘い声に名前を呼ばれた瞬間、私は息をすることも忘れて固まった。

 でもすぐに我に返って、誤魔化すように勢いよく頭を左右に振る。



「む、無理だよ!」



 というかできれば七瀬って呼んでほしい。

 校舎で一条くんが私のことを名前で呼んだ日には、破滅まっしぐらだ。



「無理ってことはないだろ。確かに内部生には名前を呼ばれたくないってひねくれた奴いるが、俺は嬉しいぞ」



 一条くんは喜ぶかもしれませんが、ほとんどの女子は怒るんです。

 喉元まで出かかった言葉を飲み込んで、助けを求めようとアキくんを見た。アキくんはまだ白鳥くんと何か言い合っている。

 しかもなぜか白鳥くんが私の視線に気づいてしまい、にこりと笑顔を浮かべた。だが、もしかして助けてくれるのかも、という期待は一瞬で砕かれた。



「あ、オレは桜二って呼んで。あんまり苗字で呼ばれるの好きじゃないから」

「えっ、いや、」



 断りにくい理由をつけないでほしい。

 なんとかこの場から逃げる方法を考えていると、十分前を知らせる予鈴がなった。ら、ラッキー……!



「あれ、もうこんな時間か。俺たちは戸締りとかあるから、先に言っていいぞ」

「ありがとう!アキくん!行こう!」



 ここぞとばかりにアキくんの手をつかむ。昨日とは真逆だ。



「それじゃ、また土曜日だな。午前十時、この部屋集合するぞ」

「ここ一応学校だから、制服で来てね。手ぶらでいいよ」



 ひらりと白鳥くんが手を振ってくれた。

 それにうなずいて、私は周りの目につかないように教室に向かう。

 ……一条くんたち、次に会う時には全部忘れてないかな。また学校が始まったばかりなのに、問題が多すぎるよ!


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