第14話 出発!

 入学した最初の一週間は持ち上がりの内部生も忙しいみたいで、よく一条くんたちが先生に用事を任されるところを見かける。そのおかげというか、一条くんたちに校舎で話しかけられることはなかった。


 というか、クラスが違えば顔を合わせる機会はぐっと減る。どっちかが会いに行かないかぎり、廊下ですれ違うこともないのだ。私たちも付喪神の縁がなければこの程度の距離だって思うと、少し寂しい気持ちになる。


 あれから、私も一度は花凛さんたちに囲まれた。「一条様とどんな話をしていたの?」って。それも最初みたいに教室じゃなくて、一人になったところを狙われた。きっと、警告だったと思う。これ以上一条くんたちと仲良くするのは許さないよっていう意味。


 小学校の頃は正直になんでも言って失敗したから、お礼に学校を案内してもらっただけだと誤魔化した。それがたまたま蘭の館っていうだけで、私は行き先を聞かれなかったから答えなかっただけ。

 そう自分に言い聞かせるけど、やっぱり罪悪感に負けてちょっと目をそらした。

 でもおかげで、最初は怖い顔をしていた花凛さんたちはいったん私を解放してくれた。そして、あれから一条くんたちが私に声をかけてないのを見ると、何事もなかったように追っかけに集中していた。


 きっと、毎回一条くんたちが声をかけた子にはみんなそうやって問い詰めてきたんだろう。そうやってお互いにお互いをけん制しあって、抜け駆けをしないように。



(いいところのお嬢様ってみんな従ってたけど、花凛さんは英蘭会じゃないんだ)



 そう考えると、そこまで恐ろしい存在じゃないように思えた。けど目を付けられたくないのは確かなので、一条くんたちと少し仲良くなったことは黙っておこう。




 そしてついにやってきた土曜日。

 アキくんと友達の家に遊びに行くというと、お母さんはとても嬉しそうにした。



「まあ、もうそんな仲いい友達ができたの?あんた、小学校の時は全然そんな話なかったから心配してたのよ。……って、なんで制服着てるのよ」



 話が長くなりそうな感じだったから、待たせちゃうからと言って急いでウエストポーチをつかんで家を出る。


 ポーチはおばあちゃんの蔵を探検するときにも使っていたやつで、かわいらしい赤色が気に入っているんだ。中にはルーペとペンライト、ピンセットといった鑑定に使うものから作業手袋まで入れている。あんまりたくさんは入らないから、ここ数日悩みながら選んだ大事な装備品だ。

 白鳥くんは手ぶらでいいって言っていたけど、それじゃさすがに心もとない。


 電車に乗って、学校に向かう。

 アキくんは美術部に用があるって早めに出発していたから、今日は一人だ。いつもよりガランとしている電車に乗っていると、まるで違う世界に行ってしまいそうな気持になる。



(内部生はもう部活始まってるけど、外部生はこれからなんだよね。必須じゃないけど、一通り見学だけしてみようかな)



 アキくんは美術の腕を見込まれて入学した特待生だから、強制で美術部に入っている。ただ他の部員と扱いは違うようで、専用のアトリエが用意されているらしい。さすが英蘭だ。スケールが違いすぎる。


 そんなことを考えながら学校に向かう。

 校門をくぐれば、あっちこっちで部活に励んでいる生徒の声が聞こえる。


 そういう生徒に姿を見られないように、私はそそくさと蘭の館に向かう。

 だけどそんな私の目立たないための努力は、館の前で立っている三人で台無しになってしまった。



「おーい、雪乃!こっちだ!」



 私の姿に気づいた一条くんが声をあげる。その隣にはスマホを触っている白鳥くんがいて、少し空間を開けてアキくんが手を振ってくれた。その足元にはボストンバッグがおいてあり、妙に膨らんでいる。



(うわああ、そんな大きな声で名前を呼ばないでっ!)



 今すぐ回れ右して帰りたかった。でも私がなにかアクションを起こすよりも先に、一条くんは駆け寄ってきた。その後ろから白鳥くんと少し遅れてボストンバッグを持ったアキくんが続いている。よく見たら、白鳥くんも小脇に小さい鞄を抱えていた。



「あれ、ユキも用意してきたの?言ってくれれば、全部ソウが準備したのに」

「それは申し訳ないかな……」



(準備してきてよかった!)



 何も持ってこなくていいって、そういうことだったんだ。てっきり、付喪神を見るだけだから何もいらないってことだって思ってた。



「頼んだのは俺だ。気にしないでほしいんだが……他に必要なものがあったらいつでも言ってくれ。すぐに用意する」

「ありがとう。その時に言うね」



 何が必要か、実際に見てみないとわからないからね。



「ユキも来たし、ちょっと早いけどもう行く?」

「そうだな。日が暮れたら見えにくいし。車は裏門で待たせてるから、このまま向かっても構わないぞ」



 確認するようにこちらを見る一条くんに頷き返す。



「よし、じゃあ行くか」


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