第二章 大切なもの
第12話 第一回ミーティング
「よし。そうと決まれば、一回話を整理しよっか」
そう言って空気を変えたのは白鳥くんだ。
パンと注意を集めるために手をたたいたその前には、いつの間にかノートパソコンが用意されていた。パソコンは部屋にあるプロジェクターと繋がっており、見たことのないメモ帳のようなアプリが立ち上がっていた。
そこにはいろんな項目があり、”消えた寄木細工”というタイトルとともに私たちの名前があった。リーダー一条颯馬、書記兼経営顧問白鳥桜二、鑑定士七瀬雪乃、技術顧問三葉秋兎と書いてある。……これ、白鳥くんが作ったのだろうか。
「準備いいじゃん?昨日の今日でしょ」
「オレってば天才だから、これくらいすぐに作れちゃうんだよねー。まさかこんなデカい話になるって思わなかったけど、昨日のオレナイス」
作った?
首を傾げる私に、アキくんが説明してくれた。
「今朝、白鳥が電子機器に詳しいって言ったでしょ?機械いじりが好きでさ、結構実用的なアプリとかも作れるの。さっき付喪神の証言って項目追加してたから、この管理アプリは白鳥が作ったもので間違いないと思うよ」
アプリって自分で作れるんだ!
驚いて白鳥くんを見れば、ばちりとウィンクが帰ってきた。実に様になっている。
「無計画に探して痛い目にあったから、今度はちゃんとしようって思って。それになんだか探偵団みたいでワクワクしない?」
「そっちのが本音だろ」
「情報は慎重に扱うから安心してね。――さて、さっそく第一回ミーティングを始めるよ」
そういうと、白鳥くんは文字を打ち込み始めた。
「まず、僕らの目的は千代さんの消えた寄木細工の行方を探すこと。なくなってから半年も経つから、見つからない可能性も十分にあると思う。それは、オレもソウも分かってる」
「でも、せめて寄木細工がどうなったのかを知りたい。ひいばあちゃんが処分したのならそれで納得するし、盗まれていたら取り返したい。……それは、また別の話だが」
二人の話にうなずく。ここまでは昨日聞いた話だ。
「それで問題の寄木細工なんだけど、秘密箱って言われるタイプだったんだ」
それなら、私のおばあちゃんの蔵にもあった。箱の面と中に仕掛けが施されていて、決まった手順で操作することで開くんだよね。ちょっとパズル要素を楽しめるけど、中にはすごく難しい仕掛けになってるものもあるとか。
「てっきり置物だと思ってたんだけど、箱だったんだ?」
「ちょうどいい写真が見つからなくて、こんな古いやつしかないけど」
白鳥くんはそういうと、参考資料というところを開いた。
すると、おばあちゃんが小さな箱を持っている写真がスクリーンに表示された。紺色の着物がよく似あっていて、凛々しい雰囲気のおばあ様だ。彼女が千代さんだろう。一条くんが少し目を細めた。
でも、白鳥くんはきっと彼女が大事そうに持っている寄木細工を見てほしかったんだろう。
「意外と小さいんだね」
「ああ。十センチくらいで、二十回動かさないと開かない」
「うーん、ぼやけてて模様がよく見えないや。どこで作られたかわかる?」
「……悪い、それはわからないんだ」
白鳥くんも首を振る。アキくんは画像を拡大したりしていたが、収穫はなさそうだ。
仕方ないか。こういうのが好きじゃなきゃ、わざわざどこで作られたかなんて聞かないもの。
「ユキはどう思う?」
「ごめん、私も分からない。直接物を見ないと付喪神は見えないの」
「まあ、そう虫のいい話はないか」
白鳥くんに特にがっかりとした様子はなさそうで、少し安心する。
「でも、この寄木細工のからくりは回数のわりに難しいと思うよ」
「回数のわりに?」
「それくらいの大きさなら、操作できる回数は五回から十回くらいが普通なの」
箱が小さいと、その分仕掛けを作る場所が少ないからだ。
結局は中に入れた物を盗られないようにするための物だから、物を入れるスペースがなければ意味がない。
「でもこの寄木細工は二十回も動かせるんでしょ?模様もたくさん入ってるし、特定な人しか開けられないようになってる特注品だと思う」
「そっか、特注品!どうりで見たことないデザインなわけだ」
「確かに、ひいじいちゃんならやると思う。……ずっと不思議だったんだ。なんでひいじいちゃんは最初の贈り物に、普通の寄木細工を選んだんだって」
「百回も操作しなきゃいけない寄木細工もあったから、ぜんぜん気づかなかったよ。毎回付喪神に教えてもらってるだけって言ってたけど、ちゃんとユキの知識になってるじゃん」
手放しに褒められて、顔が少し熱くなる。こんな風に工芸品の知識が誰かの役に立ったのは初めてだ。
もう少し役に立ちたくて頑張って写真の隅から隅まで見たけど、新しい収穫はなかった。
写真には本当に最低限の情報しかなく、こんな見た目をしているっていうことしかわからない。これで保管場所を当てろというには無理がある。
さっそく行き詰まってしまった。
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