<第二章:降竜祭> 【15】
【15】
ハティを拘束している枷を切り、粗末なベッドに寝かせる。
美しい金髪が広がる。重力にやや負けして乳房が傾いた。頬の鱗、黒い2つの角と、蛇のような尻尾は残ったまま。
念のため、怪我がないか確認。
俺が斬った肩口。そこには、わずかな傷跡もない。
念の念のため、全身を確認。
両乳房を揉みしだき、脚を開き、尻尾を持ち上げ、うなじや脇も見る。色んな体勢をとらせ、視覚と触覚でまんべんなく確認。
傷一つない。それどころか、肌艶が増している気がする。
竜の力とやらが原因か?
「何をしていますの?」
子猫のようにハティの太ももをこねていると、彼女は目覚めた。
「答える前に聞きたい。お前は誰だ?」
「ハティですわ。フィロさん………フィロさんですわよね?」
「そうだ。間違いなく」
「なんだか、また印象変わりましたわね。野性味があるというか」
太ももに触れることを野生と呼ぶのか。
「って、お尻が痛い。え? 裸? え? 何これ! なんですのー!」
ハティは、自分の尻尾を見て仰天した。
感情と連動して、尻尾が垂直に伸びた。
「角もあるぞ」
「ふぁっ!?」
驚きながら角を掴み、抜こうとして『ぎゃー!』と悲鳴を上げる。
「痛ったいですわッ!」
「神経が繋がっているのか」
となると、斬り落とすのは危険か。時間経過で自然と落ちるだろうか? まさか一生このままなのか? 俺は別に構わないが、色々と不便だろ。
「はっ、フィロさん。鉄鱗公は?」
「色々あった」
「つぶさに全て説明してくださいまし」
「その前にいいか?」
「ええ、構いませんけど。………何を?」
ハティに背を向けさせ、尻尾を抱える。ひんやりとして、つるつるな鱗の手触り。
「もう少し腰を上げてくれ」
「ちょっと!」
「怒る気持ちはわかる。だが俺も、生死の境を反復横跳びしてきた後だ。それでいて、魅力的な体を撫で回したものだから、正直我慢できん」
ギンギンだ。
「こんな体になっても、魅力的と言ってくださるのは嬉しいですけど、ってここ牢ですわよね?」
「またしても王女に入れられた。現在、経過観察中」
「説明してくださいまし」
「説明するから、とりあえず1、いや2回ほど頼む」
ベルトに手をかけた。
「そなたたち、何をやっておるのだ」
呆れた声が牢の外から聞こえた。
エルフがいた。
ショートの金髪に長い耳、白いドレス姿で、日本刀のような刃物を帯びている。
「白鱗公!? いついらしたのですか!」
驚くハティ。
俺は無視してマントを脱ぎ、ベルトを外す。
「おい、そなた。こなたを無視して交尾しようとするな」
「うるせぇな! こちとら、お前ら竜のせいで死ぬほど大変な目にあったんだよ! 色々限界なんだ!」
このエルフが白鱗公だろうがどうでもいい。
俺の脳みそは性欲しかない。他に考える知能がもう残されていない。
「フィロさん、落ち着いてくださいまし。目が怖いですわ」
「本当に申し訳ない。でも、竜が悪い。全て竜が悪い。竜滅ぼす」
「やめてください」
ハティは体勢を変えた。
正面を向いて、俺の頭を胸に埋める。
「よしよし、よくわかりませんけど大変でしたね。………白鱗公、少し時間をください。鎮めますので」
「はぁ~仕方ないのぅ」
白鱗公は、牢から去った。
ハティは、俺を押し倒す。
「前々から思っていたのだが――――――」
上に乗るの好きだよな? と口にする前に塞がれる。
長い舌が口中で暴れて絡む。
その後は、いつになく情熱的でとても良かった。
「で?」
俺はハティに膝枕をしてもらい。かったるそうに白鱗公を見た。ハティは素肌に俺のマントを羽織っている。
「そなたら、どれだけ待たせるのだ」
2時間程度でうるさい奴だ。
「すみません、白鱗公。彼、大変だったようで」
「そうだそうだ」
ぼやく俺の頭を、ハティは苦笑しながら撫でる。
「竜を待たせて交尾とは、聖女にあるまじき行為であるぞ」
「反省します。でも、私はまだ聖女なのですか? こんな体でも」
「聖女の中には、そなたのように人から竜となる者がいる。力に慣れていないから、獣人のような姿になっているだけだ。角も尻尾も、じきに消えるだろう」
「では、私も竜の姿になれると?」
「うむ」
「つまりは………」
「普通なら、我々の姉妹の1人となってもらう」
なんだと?
「普通なら、とは?」
「そなたは一時的とはいえ邪竜を宿した。他の姉妹たちに穢れと揶揄されるであろう。命を狙われるやもしれん」
「すいません。あの邪竜を私が? 鉄鱗公が封じたはずでは?」
「俺が説明する」
ベッドにかけた槍を手にした。
「鉄鱗公は俺の力が欲しかったようだ。で、ハティに邪竜を入れて俺の隙を突いた。あと、力を完成させるために竜の血とやらも必要だったとか、その辺りはわからんが。ともあれ、鉄鱗公は俺がぶっ倒した。倒して、奴の中に邪竜を封じて、今頃は地下だ」
白鱗公は深いため息を吐く。
「嘆かわしいことだ。幼い竜とはいえ、あのような愚行に走るとは。時折、人に魅かれる竜は現れるが、これはあまりにも愚かだ」
「鉄鱗公は、何かに怯えているようでした」
ハティの声に、鉄鱗公への恨みはない。憐れみすらある。
「彼女は、片翼を失っていた。何者かと戦ってな」
「竜の翼に傷を付けるとは、一体誰が?」
「こなたは知らん。――――――ということにしておく。知りたければ、そこの男に聞け」
「そのうち話す」
別の夜のピロートークにでも。
俺は白鱗公を睨みながら言う。
「ハティの中に邪竜が残っている、なんてことはないな?」
肌を合わせた感じでは、完全にハティだった。
しかし、疑惑は残る。
「奴の気配はハティの中にない。経験がある故、奴の匂いには敏感なのだ」
「鉄鱗公の中から出て来て、またハティに入る可能性は?」
「距離を離せば問題ない。寄生先から離れれば、短時間で思考を失い漂う無能になり下がる。奴は普通の竜とは違う存在なのだ。穴の開いた水瓶に似たもの。それ故、他者に寄生し力を奪う術に聡くなった」
邪竜に関しては安心か? 確信は持てないが、気になることは他にもある。
「今回の件、逆恨みで別の竜が来ることはないのか?」
恨みは数珠つなぎなのだ。
竜の結束はしらないが、1匹倒したら次が出て来る可能性もある。1匹、2匹ならともかく、数で来られると、王女が俺を裏切る可能性が出て来る。
「物語を流布する。『鉄鱗公は英雄の手を借り、目覚めた邪竜と果敢に戦い自らに封じて消えた』とな。姉妹たちはそれで騙せるだろう。世はこともなしだ」
「ふざけるな。お前らの愚行は世間に広めるべきだ」
「人と竜が戦争になっても構わないのか? ハティも巻き込むのだぞ」
「ぐっ」
それは困る。
だがしかし、
「鉄鱗公の犠牲者も邪竜のせいか? 憎しみの矛先を変えたところで、真実はいつか明らかになる。その時になって、犠牲者に頭を下げても遅いぞ」
「こなたにそれを言われても困る。人の歴史とは、事実ではなく聞こえの良い言葉の並びであろうが。大体これは、こなたではなくランシールの企みだ。文句はそっちに言え」
「あんにゃろ」
竜と戦争も辞さないってアレは嘘か。
「ランシールは賢王だ。任せておけば、人と竜の関係はこれからも変わらん」
二枚舌を賢いというのは納得いかない。
「白鱗公。この話の流れ的に、邪竜は復活したのですね?」
「ほんのわずかな間であるが、復活したと言っていい」
「“東の果て、古き船の元、冒険者の王が封じた巨悪が蘇る”私が受けた託宣の『巨悪』を『邪竜』とするのならば、私の託宣は終わったことになります。聖女の任は、解かれるのですか?」
「『巨悪』が邪竜だけならばな」
「他にも、あのような存在がいると?」
「邪竜だけが世界の脅威ならば、世界はどれほど平和だろうか」
「世界の安寧を憂うお気持ち、お察しします」
本当に白鱗公は、人の世を心配しているのか?
鉄鱗公を見た後だ。竜の全てが疑わしい。そんな竜にハティがなると思うと、心中複雑だ。
「では、こなたは帰る。此度の降竜祭は混乱を極めたが、新たな英雄は現れた。それで良しとせよ」
そう言って俺を見る白鱗公。
「竜狩りの英雄でも良しか?」
「そなたが勝ったのは竜か?」
あれを人とするのならば、言い返す言葉はない。
白鱗公が去り、俺はハティの尻を撫でる。
「フィロさん、元気ですわね」
「すまん。君の魅力を再認識したら、元気が止まらない」
「まったく、しょうがありませんね。英雄様にご奉仕して差し上げますわ」
また、ハティは俺の上に。
「疲れただろ? 今度は俺が」
起き上がろうとすると、両手で胸を押さえ付けられた。
「いいから、私に、んっ、全部任せてくださいましっ、あっ」
多幸感に包まれる。
艶やかな踊りが始まった。
美しい金髪と、汗ばむ肌が薄暗い牢でも輝く。双丘が揺れる。尻尾が揺れる。
この世のものとは思えない快楽と絶景だ。
脳髄に直接、麻薬を注ぎ込まれるよう。
「なーに、やっているんですか。はぁぁぁぁぁぁ」
誰かのため息が聞こえた。
アリスが牢に前にいた。
「どうした?」
「聖女様の着替えと食べ物を持ってきたの」
「あっ! あ! いいっ!」
ハティは、アリスを見向きもしないで夢中になっていた。
「うわぁ、聖女様って本当に邪竜抜けたの?」
「気にっ」
聖女様が夢中に俺の唇を奪う。
舌を絡ませ合いながら、俺も腰を動かす。
「アリス、ちょっと待っててくれ」
盛り上がりまくっているので、竜が来ても中断しないと思う。
しばらくして………………
「心底呆れていますが」
「アリス、嫉妬はよくないですわよ♪」
牢のベッドに腰掛けながら、3人でカツサンドを食べていた。
ハティは俺の肩に頭を預け、甘々な表情でとろけていた。
「心配して損したぁ。アタシの心配返してほしぃぃぃぃ」
げんなりするアリス。
俺は、カツサンドを全て口に頬張り、ワインで流し込む。
そして、アリスの肩を抱いた。
「今まで悪かったな」
「ふぁっ! 何!?」
「お前を妻として扱っていなかった。だが、それも今日まで。俺も夫としての務めを果たそうと思う」
「え………もしかして今?」
「そうだ」
「ここで!?」
「おう」
「聖女様もいるのに!?」
「3人でやろう。ハティもいいよな?」
「いいですわ~♪」
「アタシの最初は、こんな牢の中で、しかも複数で!?」
「ガタガタ言うな、抱かせろ」
「アリス、あなたも妻なら腹を括りなさいな」
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
2人でアリスを押し倒した。
前に誰かが言ったことだが、3人で愛し合うのは中々良かった。
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