<第三章:死と呪いの花嫁> 【03】


【03】


「お湯貰いますわね」

「あ、新しいのを淹れ――――――」

「今更、何を気にしているのですか」

 ハティは、桶を手に取りバスタブからお湯をすくう。

 吊るした籠からバス用品を取り出し、体や髪を洗い出す。

 水を弾くような張りのある肌だ。艶やかな濡れた金髪、一種の芸術品に見える背中、肉感的な脚、椅子からはみ出た尻をガン見しながら、つくづく綺麗な女性だと実感した。

 てか、どうする?

 2人は狭いし出るか?

 いやいや、そりゃ失礼だろ。俺がいるってわかって入ってきたわけだし。入ってきたということは、そういうことだよな? 違う? 待つべき?

 も、悶々とする。

 下半身で沸いた血が頭まで登って来た。ポンプのレバーを引いて冷水を頭から浴びる。湯が冷めたので温め直した。のぼせそうになったので冷水、温め、冷水と、20分くらい繰り返していた。

 すると、ハティは、濡れた髪をまとめてバスタブに入って来た。

 溢れたお湯が流れ出る。

 背を向けて座って来るのだと思ったが、対面で俺に抱き着いてきた。彼女の両手は俺の首に、彼女の頭は俺の肩に、遠慮なしに全体重を預けてくるのが嬉しい。

 みっちりと2人でバスタブに収まる。

「ふ~今日は疲れましたわぁ」

「お疲れ様」

 つい頭を撫でようとして止めた。洗ったばかりの髪に触れるのは憚られる。代わりにハティの尻を撫でた。

 胸とはまた違うプルンプルンでホヨホヨの感触だ。ずっと撫で続けていたい。

「フィ~ロさん」

「ん~」

「お仕事の調子、聞いてもいいです?」

「順調だ」

「なら安心ですわね」

「心配無用だ」

「ちょっと目を離すと死にかけるのに?」

「そこは、まあ、すまん。頑張る」

 努力はするが、無理かもしれない。努力して治るものかも不明。努力だけは続けるつもりだが。

「ところで。心臓の音、凄いですわよ?」

「男の子の体は正直なんだ」

 聞かないようにしていたが、脳に響くほど心臓がうるさい。こんな豊満な体と裸で密着したら誰だってこうなる。

「心臓よりも正直な部分がありますけど?」

「そっちは、まあ一番正直な部分だ」

 ハティの金の瞳が蛇のように怪しく輝いた。

 気がした。

「します? ここで」

「できれば、すぐに」

 ハティは、俺の両肩に手を置き、双丘を揺らしながら上体を起こした。

「では、誓って。『もう死にかけない。我が神に誓う』と」

「死なない。我が神に誓う」

 変な肝を食わせた神に誓う。たぶん、まだ食卓でビクンビクンしてると思う。

「死にかけもダメですわよ」

「頑張るが、難しいな」

「………冒険者である以上、仕方ないのかもしれませんわね」

「努力はする」

「良いですわ、死にかけで止まるなら構いません。許します治します」

「そっちも誓ってくれ」

「?」

「俺を置いて死ぬな」

「死にませんわよ。たぶん、私の方が長生きするかと?」

 また女に先立たれたら、自分がどうなるかわからない。目に入るもの全部壊すか、素直に自死するか、どっちなのやら。

「誓ってくれ」

「誓いますわ。あらゆる神に。あ、死ぬ時は同じとかにします? そういう神もいますわよ?」

「それは………やめとこうか。お互い心変わりもあるかもだし」

 今のこれが、不変な関係と決めつけるのは浅はかだ。

「心変わり? 今する話ですかそれ?」

「ごめんよ」

「許します」

 笑顔が眩しく見ていられない。ハティの胸に顔を埋めた。石鹸と甘い匂いに包まれ、脳が溶けそうになる。

 彼女の尻肉を掴み、腰を落とそうとすると、

「ダーメ」

 焦らされた。

「まだ何かを誓わされるのか?」

「誓うというより、確かめる言葉をお願いしますわ。毎日毎秒、人のいない場所でなら常に言ってもよいのですよ?」

「………………君が好きだ」

 精一杯の気恥ずかしい言葉。

「私も、あッあ」

 限界だ。

 無理やりハティの腰を落とす。繋がる。もどかしい動きで彼女を突きあげる。俺の頭を抱いて彼女は踊る。

「あっッ、ッあ!」

 甘い声が響く。溶けるような甘い声だ。それが俺の脊髄を痺れさせる。熱く、きつい肉に包まれ、絡み、結び、天国を見た気がした。

 お互い欲望で動く獣だ。聖女も冒険者もない姿だ。

 短いようで無限にも続くような熱に浮かされた陽炎のような時間。

 興奮のピークが迫る。

 彼女の体は限界まで熱く火照り、息を乱し、一際深く俺を飲み込む。背中が反り、腰が震えた。

「あああッ!」

 叫ぶ彼女の口を口で塞ぐ。

 驚いた舌を甘噛みしながら、達した彼女を芯から味わった。

 脱力したハティは、くてんと体を預けてくる。

 まだ、唇は離さない。にちゃにちゃと舌が絡み合う音が響く。彼女は半覚醒で、ぼんやりと俺の動きに合わせていた。

 強めに胸を揉む。尾てい骨に指を這わせ、悪戯にその先を突くが反応は鈍い。

 唇を離して言った。

「ハティ、俺まだ」

「はぁ、はぁ、は、ひゃい」

 いつになく、しおらしい彼女に被虐心が芽生える。

 狭い浴室じゃなかったら、無茶苦茶にしていただろう。

「ご、ごめんなさい。フィロ、さ――――――なんだか………せ、世界が、なんだか回りますわぁ~」

「マズっ」

 ハティの目が回っていた。

 顔も赤く、のぼせている。思っていたよりもお湯が熱かったようだ。

 ぐったりとした彼女を抱き上げ、浴室を出た。

 タオルを引っ掛け、地下室のベッドに寝かせて体を拭く。

 自分の体も拭き、ハティに水筒の水を飲ませた。

「うう、面目丸つぶれですわ。良い雰囲気だったのに………」

「風呂場でやる時は、温度に気を付けないとな」

 勉強になった。

 まだ乾いてないハティの髪にタオルを巻く。

「君の部屋まで運ぼうか?」

 こっちの方が近いから連れてきたが、自室の方が落ち着くだろう。

「今日は、ここで寝てもいいです?」

「いいぞ」

「明日は、私の部屋で寝ましょうね」

「ん、まあいいけど」

 ハティって、付き合いだしたら結構ベタベタするタイプだったか。

 俺もベッドに横になる。

 彼女は俺の腕に抱き着いた。

「そうだ。模様替えして、仕事部屋と寝室を別けましょう。ベッドは大きいのを買いましょうね。正直、手紙で部屋がいっぱいいっぱいですわ」

「俺は、別に狭いベッドでも構わないけど」

「くっついて寝れるから?」

「いや、粗末な寝所で寝るのに慣れ――――――その通りです」

 男の急所を掴まれた。

 聖女様、それはいくらなんでも駄目だろ。

「冒険者なんだから、体は大事にしないといけませんわよ。手足をぐっと伸ばせる大きいベッドを買いましょう」

「置く場所あるか?」

 そもそも、この家にダブルベッド入れられるか? バラして中で組み立てるとか?

「それは確かに………………もう、引っ越ししちゃいます?」

「ここ割と気に入っているんだが。そうだなぁ、俺の稼ぎがもうちょい良くなったら考えよう」

「むむっ、お給料の増額を希望ですの?」

「違う。冒険者としての稼ぎだ。今のままじゃアレだし」

「私は構いませんわよ」

「俺が構う」

「では、お小遣いを差し上げますわ。聖女の活動費とは別に、実家からの仕送りがありますのでそこから捻出して」

「気持ちだけ貰っておく」

 そんなもん貰ったら、一切言い逃れができない完全なヒモになる。

「もしかして、私にプレゼントとか考えています? ありがたいですが、聖女はアクセサリーや貴金属は身に着けられませんのよ。活動費の一部は寄付でなりたっていますし、清貧でなければ反感を買います。つまらない女でごめんなさい」

「見えない所に着ければいいだろ」

「え? 例えば………乳――――――」

「よし違う」

「まさか、陰――――――」

「違う!」

 エロ聖女の胸の谷間に手を差し込む。

「こことかに、首から下げたもの隠せばどうだ?」

「バレますわよ。特に女性は目敏いですから、同僚にあったら一発ですわ」

「俺らの関係もバレたらマズいか?」

「い、一応、先輩の結婚と出産を知っているので、そこから口止めはあると思いますけど………普通は除名ですわね」

「その時は、そうなったら考えよう。大丈夫さ」

 ハティが聖女をクビになっても、俺が女1人養える程度に稼げるようになればいいだけ。

「大丈夫ですか………」

「そうだ」

 ハティを抱き締める。温かいし、良い匂い。

 眠たくなってきた。

「寝ましょうか。明日も早いですから」

「だな」

 ベッドの傍に置いたカンテラの明かりを消す。

 傍に温もりがあると、闇を恐れる理由がなくなる。

「おやすみ、ハティ」

「おやすみ、フィロさん」

 目を閉じて真の闇を迎える。

 だが、ところで………………割と生殺しで下半身が治まるどころかバキバキなんだが、寝込み襲って構わないよな?

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