第17話 神様のミサンガ
そしていなりを食べ終わったミミハ様は、満足そうに僕に話しかけてきたんだ。
「それでじゃな、春! お主がおらん間、ウチが絵馬を見繕っておいたんじゃ! そこで今日はこの願いを叶えていこうと思うんじゃよ!」
言ってミミハ様は、僕に絵馬を手渡してきた。僕はそれを受け取って確認する……そこには小さな文字で、こう書かれていたんだ。
「『友達が欲しい』ね……なんともタイムリーな願いだな」
「えっ、別に狙って渡した訳ではないぞ!? ただ、この中の願いで、ひときわ簡単そうじゃったから……」
はぁ……友達を作ることが簡単ねぇ……どうも神様ってのは、まだ人間のことをよく理解していないらしい。
「そりゃ、喋るのが得意な人にとっては簡単かもしれないけどな。それが出来ない人からすれば、友達を作るのってとても難しいことなんだよ。こんな場所でお願いしてるのなら尚更、相当悩んでるってことなんだろ」
「む、確かにそうじゃな……やはり春は、友達がおらん人のことをよく理解しておるな……流石じゃ!」
「褒めてねぇだろ」
まぁ……悲しいかなミミハ様の言う通り、その辺の人よりかは僕は友達が作れない人の気持ちは分かってやれると思うんだ。僕だって以前は、友達作ろうと努力していたのだから……。
「そうじゃったのか……すまんな」
「勝手に覗いて謝罪すんなって……あともう一度言うけど、今の僕は友達を必要だと思っていないからな?」
「……そっか」
「何だその憐れむ目は」
ミミハ様は優しいから、僕を心配してくれてるんだろうが……それは余計なお世話と言わざるをえない。今の僕は、独りでいることが一番楽だと結論づけているのだから。
「まぁ、お主の考えは否定はせんが……この絵馬を書いた人は、友達を欲しがっておるのじゃ。じゃから、お主はそれに協力する必要があるのじゃよ」
「それは分かってるって。それじゃ……こっからまた捜索パートに入るのか?」
「そうなるの。とりあえず名前を確認してみるのじゃ」
「はいはい……」
言われて僕はもう一度絵馬を確認する。これを書いた人の名前は……。
「『
「本当か! 有名人なのか?」
「いや、そんなんじゃなくて。確かウチのクラスにそんな人がいた気がするんだ」
「え、同じクラスなら、もっと確信持って言えるはずじゃろ?」
「……」
僕は何も言い返さなかった。いや、クラス全員の名前とか、普通覚えないよね? 女子なら尚更……いやまぁ、僕の場合誰とも話さないから、男子も女子も変わらないか……そもそも、まだ5月だしさ。全員の名前覚える時間も無いもんな……。
「……春。そんな必死に言い訳せんでも良いぞ?」
「してない。事実を述べてるだけだ」
「……」
ミミハ様はまた、憐れむような瞳を見せてきた……だからやめてくれ、それ。
「……ともかく、明日学校で雪丸に絵馬のこと聞いてみればいいんだな? だから今日はもう解散でいいだろ?」
「うむ、それで構わんが……ちょっと待っとくれ。お主に渡したいものがあるんじゃよ」
そう言ってミミハ様はゴソゴソと服の中を漁り……きつね色の丸い紐のような物を取り出したんだ。
「これは?」
「知らんのか? これはミサンガじゃよ」
いや、流石に存在は知ってるけれど……もしかしてこれを付けろって言うのか?
「そうじゃ」
「ええ、何でだよ……僕はサッカー部じゃないんだぞ?」
「別に誰が付けても良いじゃろ?」
それはそうだけど……でも、イメージってのがあるじゃん。「アイツ帰宅部なのに、ミサンガ付けてるじゃん、ウケるー!」って言われそうじゃんか。
「春って意外とネガティブなんじゃな……これにはな、ウチの魔力的なモノが備わっておるんじゃ。じゃからお主がこれを付けておれば、ここから遠くにおっても目の前にいるように、お主の五感や、思考がはっきりと読めるようになるんじゃよ」
「ええ……学校にいても、神様から離れられないの?」
「不満か?」
不満と言うか……なんかずっとミミハ様と一緒にいると疲れそうなんだよな。絶え間なく話しかけてきそうだし……恋人とかでも、ずっと繋がっておくのはキツイって言うじゃん……。
「こっ、恋人!?」
「変なところだけ抜き出すなって。僕は例えばの話をしただけだ」
「そ、そうじゃよな! すまん、えっと、それで、じゃな……!」
ミミハ様は言葉に詰まる……何を動揺してるんだよ、全く……。
「分かったよ。これを付けてれば良いんでしょ?」
言って僕はミサンガを手首に装着した。一応構えておいたが、意識がフラフラするとか、そういった現象は特に起こらなかったんだ。
「はい、付けたよ。これで遠くにいても話したり出来るってことでいいんだよね?」
「そ、そうじゃ! これで更にお主と繋がったってことなんじゃよ!」
なんか言い換えたのが気になるけど……ここはスルーしておこう。
「分かったよ。じゃあ明日雪丸と接触するから……またね、ミミハ様」
「うっ、うむっ! またな、春! 期待しておるぞ!」
「……ああ」
僕は手首に付けたミサンガに視線を向けながら、神社を後にするのだった。
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