2章 絵馬のお願い解決編

第16話 待ちわびたぞっ!

 ──そして次の日の放課後。僕は神様のいる新葉神社に向かっていた。いつの間にか元通りになっていた石畳の階段を登り、大きな鳥居をくぐり抜けた先には……。


「おおっ、来たか春! 待ちわびたぞっ!」


 僕を見てとっても嬉しそうに微笑んでいる、ミミハ様の姿があったんだ。やれやれと僕は彼女の元へと近づき、声をかけたんだ。


「はいはい、来ましたよ……これ、土産な」


 僕はビニール袋に入ったそれをミミハ様に手渡した。彼女はその中身を確認したのち……ガクガクと震えながら。


「……なっ!? ま、まさかこれはっ!!??」


「いちいち大げさだってば……いなりだよ。ここに来る道中、大里商店に寄って買ってきたんだ」


「こっ、こんな素晴らしい物、ウチが貰っても良いのか!?」


「いいからやったんだろ。それに店主がサービスしてくれたから、そんなお金はかかってないんだ」


 本当はタダで貰ってくれって言われたんだけど……流石にそこまで特別扱いしてもらう訳にはいかないから、僕が無理やりお金払ったんだよな。ま、払ったと言っても、ほんと数十円なんだけど。


 そしてミミハ様はいなりを掲げて喜びを見せて。


「やったのじゃー!! 本当にありがとうな、春っ! お礼に耳をもふもふさせてやっても構わんぞ!」


「いや、それはいい」


「何でじゃ!? 人間は皆、ケモ耳が好きだって聞いたぞ!?」


 何だその偏った知識は……まぁ別に自分は嫌いではないけどさ。


「……ああー。分かったぞ。春は女子に触れるのが怖いから、触れないんじゃろー。こーんなスカしておるくせに、本当はピュアピュアなんじゃろー?」


「……」


「あっ」


 ……僕は神様の手からビニール袋を奪い取った。そして買ったパックのいなり寿司を開け、それを口に含むのだった。


「ああーっ!!? 何をしておるんじゃ春!?」


「……僕だって怒るときは怒るんだ」


 食べながら僕は言う。それで神様は反省したのか、少し視線を下げて。


「……すまんのじゃ。しばらく人間と会話しておらんかったから、未だ距離感が掴めておらんのじゃよ……」


 ……距離感どうこうの問題ではないと思うんだけど……まぁ実際、それは事実だし。僕は女性に触れるどころか、喋ることも殆どないもんな……いやこれ、単に僕の友達が少ないだけじゃないか?


「春は友達がおらんのか?」


「まーた心を覗きやがって……僕は友達は必要ないから、作ってないだけなんだ。分かるか?」


「…………」


「何だその、何か言いたげな顔は」


 ミミハ様は物凄く唇を噛みしめていた。どんだけ堪えてんだよ……まぁどうせ「友達作れないから強がってるだけじゃろ」みたいな事が言いたいんだろうけどな。


「……!!」


「『それだ!!』みたいな顔するのやめーや」


 隠し事出来ないのかよ、神様のくせに……つーか僕なんかよりも、ミミハ様の方がピュアなんじゃないのか?


「そうなのかもしれんな……ウチは純粋無垢で良い子なのじゃから……!」


「自分で言うな」


 ……はぁ。ま、神様が悪い人じゃないってのは、もう分かりきってるんだけど。


「……ほらよ」


 僕は再度、余っているいなりを彼女に渡したんだ。


「えっ、い、良いのか?」


「ああ。ただ、次はないと思えよ」


「春……ありがとうなのじゃー!!」


 そう言ってまた奪われないようにと、ミミハ様は急いで残りのいなりを口にするのだった。


 ……はぁーあ。何だかんだ、僕も相当彼女に甘いよなぁ。そんなことを思いながら僕は、美味しそうにいなりを食べる彼女の横顔を眺めていたんだ。

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