第15話 (ホントは名前で呼んでほしいんじゃ)

「……」


「……」


 店主が去ってから、僕らは黙ったままでいた。きっと互いに、色々と思うことがあったのだろう……僕は店主のあの言葉になんて返すのが正解だったのか、未だに考えていたんだ。神様も花さんのことを考えているのだろう……まだちゃんと、彼女の死を受け止めきれてないだろうしな。


 そんな時間が数分間続いた。普通の人だったら気まずい雰囲気になるだろうが……神様が相手だからか、そんなことは一切無かったんだ。


「……長生きしたくない人間もおるんじゃな」


 神様はぽつりと呟いた。神社に来る人しか見てこなかった神様にとって、そんな人を見るのは珍しいことだったんだろう。


「それだけ奥さんのことを愛してたんでしょ。早く会いたいって言ってたしさ」


「そうか……なんじゃか羨ましいの」


「羨ましい?」


 予想外の神様の返答に、僕は聞き返した。そして神様は頷いて。


「うむ。死してもなお、そこまで愛してくれる人物がおるのなら……きっと花ちゃんも喜んでると思うんじゃ」


「いや、そうかなぁ……僕は残された人は他の人を見つけて、幸せにやってくれたほうが嬉しいかもしれないけど……」


 ……ここまで言ったところで僕は正気に戻った。どうして僕は神様なんかと恋愛トークをしているんだ? 修学旅行か? 


「春?」


「……いや、何でもない。それより神様、これで願い事は解決したってことで良いんだよね?」


「うむ、最初から変則的な形にはなったが、解決したのには間違いないじゃろう……よくやったぞ、春! 本当に助かったのじゃ!」


「ああ、いいよそんなの……」


 言いながら僕は神様から視線を逸らした……あまり褒められ慣れてない僕は、素直に神様の言葉を受け止めきれずにいたんだ。そんな僕を見た神様は、笑みを浮かべて。


「ふふっ、なんじゃ春。照れとるのか?」


「別に……そんな見んなって」


「おーおー。春も年相応の可愛いところあるんじゃな、ちょっと安心したわい」


「はぁ? どういう意味だよ……」


 年相応って……じゃあ今まで高校生に見えてなかったってことか? いやまぁ……神様からすれば、高校生も赤子みたいなものだという認識なんだろうか。


「じゃからー。そうやっていちいち考えるところが、高校生らしくないと言っておるのじゃー」


「まーた勝手に心覗きやがって……」


「契約しとるから仕方ないじゃろ。お主の心はもう常時ダダ漏れなんじゃ」


「……それは聞きたくなかった」


 じゃあもうずっと神様に見られていることを意識しながら、考え事をする必要があるってことなのか? なんて苦痛を味合わなきゃいけないんだ……。


「まぁ、じきに慣れるから安心せい」


「慣れるかどうかはこっちが決めることだろ」


「ああ、それもそうじゃな」


 なんて適当な会話なんだ……本当に考えて喋っているんだろうか?


「失敬じゃな。お主の思っておる10倍は考えておるぞ」


「あ、そう」


「それよりじゃな春、早速次のお願いを叶える作業に取り掛かるぞ!」


「ええ……? 流石にペースが早すぎじゃないか? もう夕方だし……今からやっても、絶対中途半端に終わるだけだって」


 現在の時刻は午後5時を過ぎていた。もう学校も終わっている時刻である……それで時間を確認した神様は、僕の言葉に同意したみたいで。


「んー。確かにそうじゃな。じゃあ明日にするぞ! じゃから春、明日も絶対ここに来るんじゃよ?」


「えっ? いやいや、流石に明日は学校に行かないと。2日連続でサボったら、どうなるか分からないし」


 今日丸1日サボった僕だが、学校の様子を見るまでは学校に向かうつもりだったんだ。まぁ何が言いたいのかというと……今日サボったのは、ほんの気の迷いだったってことなのである。


「そうか……じゃったら学校終わりに来るんじゃ! 待たせるんじゃないぞ!」


「ええ……それはそれでめんどくせ」


「春、ウチと契約結んでること、くれぐれも忘れるんじゃないぞ?」


「はぁ……はいはい、分かったよ」


 半分脅しのような神様の言葉に、僕は渋々承知するのだった。


「うむ! それで良いのじゃ!」


「そーっすか……じゃもう今日は帰るよ。疲れたしさ」


「ん。疲れとるなら、ウチが癒やしてやるのに」


「えっ?」


 もしかして神様、回復魔法みたいなものも使えるんだろうか? そんな便利な物が使えるのなら、お願いするのも手ではあるが……。


「よーし、ほれ! ウチのもふもふの尻尾でお主を癒やしてやるぞ──」


「帰る」


「ちょ、待たんかっ!!!!」


 神様は帰ろうとした僕の肩を掴み、むりやり引き止めてきたんだ。


「何だよ? 期待したものじゃなかったから、帰ろうとしただけなのに」


「いや、そんな興味ないんか!? ウチのこのふわっふわの尻尾触りたいとか、そういうのは全くないんか!?」


 いや……まぁ。ないと言ったら嘘になるのかもしれないけど。


「犬とか猫とかの方が癒されるし。それに神様に触るなんて、気遣うもん……『変なとこ触ったじゃろ!?』とか言われても嫌だしさ」


「言わんわ! ウチを何だと思っておるんじゃ!?」


「かわいい女の子の格好した神様」


「……そうじゃが?」


 何この会話。


「ともかく……一旦今日は帰るよ。サボってるのに加えて、夜まで外出してると思われたら、親になんて言われるか分からないしさ」


 今日怒られるのは確定として、怒りのレベルを少しでも下げるには、大人しく家に帰るのが1番だろう……そしてこの考えを読み取ったのか、神様は納得してくれたみたいで。


「そうか……分かったのじゃ。じゃあ明日、待っとるからな! 絶対じゃぞ!」


「はいはい、分かったよ。それじゃあね、神様……」


「……ミミハじゃ」


「えっ?」


「聞こえんかったか? ウチの名前はミミハじゃ」


 ……はぁ。そうやって呼んでほしいなら、素直に言えばいいのに。まぁ……お望みなら言ってやってもいいけどさ。


「……じゃあな、ミミハ様」


「うむっ! またの!」


 そして神様……改め、ミミハ様は今日1番の笑顔で僕に手を振って、見送ってくれたのだった。


 ────────

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