第8話 想像力がある人でないと(願い事を叶えるのは)難しい

 そして少女はホログラムを閉じ、僕らは絵馬の飾られている方へと移動した。


「それで神様、どの願いを叶えるつもりなんだ? 別に何でもいいって訳じゃないんだろ?」


「そうじゃな。条件としては『まともな願いであること』と『名前が書いてあること』じゃな。これを満たせば、基本は引き受けられるぞ」


「名前?」


「名前が書いてなきゃ、誰の願いか分からんじゃろ」


「ああ、なるほど」


 確かに名前が無きゃ、書いた人すら見つけられないもんな。


「じゃあ、まともな願いって?」


「それはウチらの主観になるが……まぁ何となく分かるじゃろ。宝くじ当たりますようにーとかな。そういうのは基本的に却下じゃ」


「何で? 出来ないから?」


「いや、なんか腹立つからじゃ」


「あ、そう」


 まぁ……金儲けのために神社を使ってほしくないってことだろうか。僕もその考えには同意するところがあるから、その辺りで揉めることは無さそうだ。


「あと世界平和とか、そういうのも無理じゃ。流石のウチも、世界中まで力は及ばないし……そもそも、平和になっても誰もウチのおかげだと思わんじゃろ?」


「それはそう」


「じゃろ? じゃからちゃんと、この神社にお願いしたから叶った、と思わせるような物を選ばなければならんのじゃ」


「なるほどね……」


 そう言いながら、僕は飾られている絵馬の内容を軽く見ていった。


「じゃあ……例えばこの『高校に合格しますように』とかは?」


「それも微妙じゃ。その手の願いはシーズンが決まっておるし……それに合格したからと言って『絵馬に書いたおかげだ!』とはそこまで思わんじゃろ?」


「確かに」


 ま、合格祈願なんて、気休めみたいなものだからな……。


「ふぅん、そうじゃな。ま、今回がウチが選んでやろう……ほれ、この願いなんかどうじゃ?」


 そして少女は1つの絵馬を取った。それを見た僕は、気になっていたことを彼女に聞いてみたんだ。


「今更だけどさ、神様って基本他の人には見えないんでしょ? そしたらこの光景って他の人から見たら、絵馬が浮いてるように見えるんじゃないの?」


「ああ、それは大丈夫じゃ。ウチが触れてるものも消すことは可能なんじゃよ……たまに消えなくて、怪奇現象みたいに思われることもあるがな」


「へぇーそうなのか。それで、どんなのにしたんだ?」


「うむ、これじゃ」


 僕は少女から絵馬を受け取る。そして内容を見てみたんだ。


「どれどれ……『腰の調子を治したい』か……病院行ったら?」


「春、わざわざこんな風に絵馬に書いてお願いしてるということは、それなりの理由があるはずなんじゃ。病院に行っても治らなかったとか、そもそも行けるような状態じゃないとかな……その辺りを想像できんと、願い事を叶えるのは難しいぞ?」


「なるほどねぇ……」


 ○ろゆきっぽい言い回しだったが、確かに神様の言う通りだ。僕らはこの文面から中身を読み取って、願いを叶えていく必要があるのだから。


「じゃあとりあえず、これを叶えていくってことでいいんだな?」


「うむ! 早速この願いの主を探しにいくぞ!」


「え、探しに行くって……どうやって?」


「だから名前を見るのじゃ。端か裏かどっかに書いておるじゃろ」


 言われて僕はもう一度絵馬を見る……確かに端っこの方には、書いた人のであろう名前が書かれてあったんだ。


「『大里源三郎』か……。誰だ?」


「その人物を探すところからじゃな。ウチはここから出られないから、必然的にお主に探してもらうことになるぞ」


「ええ、冗談キツイってば……」


 そんな1人を探すために、どれだけ探し回らなきゃいけないんだよ。そもそも、この村に存在するかも怪しいし……。


「そこはウチの力を使えば良い。契約したんだし、色々使えるはずじゃ」


「そうは言ってもなぁ」


「……まぁ、最悪ウチが絵馬からサイコメトリーを使って、書いた人物の行方を探すことも可能じゃが……結構時間がかかるし、何より物凄い疲れるんじゃ。じゃから基本的にはお主が、書いた人を見つけてもらうことになるんじゃ」


「そうかよ……ま、やれるだけやってみるか」


「うむ!」


 そう言って僕は神社から出ようと、歩いて行くのだった。


 ……でもなぁ。ああ言ったけど、まだ僕は神様の能力なんか使いこなせないだろうし。大人しく聞き込みをしていくべきなのかな。そう思いながら僕は、さっきの大里商店に向かおうとしたんだ…………ん、大里? あっ、まさか!


 僕は足を止め……振り返って、神様にこう伝えたんだ。


「神様! 僕、その人知ってるかもしれない!」


「ええっ、本当か!?」

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