第7話 こっちの方が断然楽しそうだ

「いや、何だよこれ!?」


 僕は混乱しながら少女に詰め寄る……そしたら彼女は得意げな表情で。


「これはウチとの契約の印じゃ! これでお主はウチから絶対に離れられなくなったのじゃよ!」


「いやだから、意味が分かんねぇって!」


 契約という言葉に、更に僕は困惑してしまう……そんな僕を見た少女は、若干困ったように。


「んー……あまりお気に召してないようじゃの?」


「当たり前だろ!」


「まぁまぁ、とりあえず落ち着くのじゃ……ほい」


 少女は指を鳴らす。そしたらじわりじわりと、僕の手の甲に浮かびがっていた狐のキャラクターは消えていったのだった。


「一応この印を見えない様にすることは可能じゃ。でも契約が切れた訳じゃないから安心せい」


「だから契約って……お前これ、僕に何をしたんだ?」


「まぁ簡単に言えばウチとお主を繋ぐ儀式をしたんじゃよ。これでお主はウチのパワーを使うことが出来る。これで願い事が叶えやすくなるはずじゃ!」


 いや、パワーって何だよ……?


「んーそうじゃな。例えば何メートルもジャンプしたりだとか、千里眼を使ったりだとかじゃな。テレパシーとか瞬間移動とかはお主には難しいじゃろうが、特訓すれば出来るかもしれないぞ」


「特訓って……」


 バトル漫画じゃねぇんだから。でもまぁ能力強化してくれるのなら、この契約も悪いものじゃないのか……?


「あ、ちなみにじゃがこの契約はお主が死ぬまで続くんじゃよ」


「……は?」


「正確に言えば、どちらかが死ぬまでなんじゃが。まぁウチは長命種じゃからな。しばらくは死ぬことはないわい……いや、神社が潰れたら死ぬことになるのか?」


 おい……待て待て待て。それじゃあ……この契約って。


「一生続くってことか……?」


「まぁお主にしてみれば、そういうことになるな」


「……どうしてそんな大事なこと黙ってたんだ?」


「じゃって……そんなこと言ったら……」


「契約を結んでくれないと思ったのか?」


 その言葉に少女はこくりと頷いた。同時に僕は頭を抱える……。


「はぁ……最悪だ……」


「えっ、そんなに嫌じゃったか……?」


「……いきなり一生消えない契約結ばされて、嫌がらない人間がいると思うか?」


 僕はキレ気味に問い掛ける。そしたらようやく事の大きさに気づいたのか、少女は申し訳なさそうに謝ってきて、こう提案してくるのだった。


「そ、そっか……ごめんなのじゃ。ウチの力が入って喜ばぬ者なんて、おらんと思っとったんじゃ……じゃあ印は浮かび上がらないようにして、なるべくウチのパワーが流れ込まない様にしておくのじゃ」


「……なるべく?」


「一度結んだら、完全には切り離せないんじゃよ。ウチも久々に人間と喋って、少しテンションが上ってたのかもしれん。本当にすまんのじゃ……」


 少女は涙目で僕に謝ってくる。はぁ……まぁ、完全な悪意で契約結ばせようとした訳じゃないみたいだし……。


「……もういいよ。そんなことしなくて」


「え?」


「確かに不意打ち食らった感はあるけれど、願い事に釣られた僕にも原因はあるし。神の力が自分に入っているのも、悪くないのかもしれないな」


「は、春っ……!」


 涙を引っ込めた少女は、僕に飛びついてこようとしてきた……が、僕は冷静にそれをかわして。


「でも完全に許した訳じゃないからな。そこはマジで勘違いするなよ」


「う、うむ……分かったのじゃ」


「それで……千里眼ってどうやって使うの?」


「……お主、どこを見るつもりじゃ?」


 せっかく神の力が入ったのだから、使ってみようとしただけなんだけど。まぁ適当に学校の様子を見るって言えば教えてもらえるかな……いや、どうせ心を読んでくるから、ここは正直に言っておくのが吉か。


「女湯だ」


「開き直れとは言ってないわい」


 少女から軽く小突かれる。そして少女は、少し頬を赤らめながら。


「あのな……一応言っておくが、契約を結んでいればお主と五感を共有することが出来るんじゃよ。じゃからお主が変なモノを見ようとすれば、それがウチにもすぐ伝わるんじゃ」


「やっぱり最悪じゃないか……」


「……あと、お主が力を使って本当に変なことをしようとしたら、ウチが身体を奪うから気を付けるんじゃよ」


「こ、怖っ……」


 こんなフランクに話していると忘れがちだが、彼女は僕なんかよりも遥かに力を持った神なんだ。だから僕を潰すことくらい、朝飯前なのだろうな……。


「まぁー普通に過ごしてたら何もせんから、安心するといい」


「そ、そうか……」


「じゃあ早速、絵馬の願いを叶えていくぞ、春!」


「え、今から?」


「うむ、善は急げと言うじゃろ!」


「でも僕、流石に学校行かなきゃいけないんだけど」


 現在の時刻は午後1時。流石にもう学校に来てないのがバレて、問題になっている頃だろう。だから面倒なことになる前に、早く学校に行かなきゃならないのだけど……。


「んーじゃあウチが見せてやるのじゃ。どうせ学校って伏高じゃろ?」


「えっ? ああ、そうだけど……」


 知ってるのか? まぁこの辺の高校なんて、伏川高校くらいしかないんだけど……。


「おっ、出てきたぞ」


 そして彼女の声に顔を上げると、そこにはホログラム……というのだろうか。学校の映像が宙に浮かんで見えたんだ……いや、最近の千里眼ってハイテク過ぎだろ!?


「ふふ、驚いたか?」


「そりゃ驚くよ」 


「そうかそうか。それで、お主のクラスは何処じゃ?」


「えっと……2-4だけど」


「そうか、ほい」


 そして少女は映像を動かして、2-4の教室に移動した。画面に現れたそのクラスは、紛れもなく僕の所属するクラスだったんだ。やっぱすげえな、神の力って……。


「ん。お主の席はどこじゃ?」


「一番前の左の席だ」


「ほいほい」


 言われた通り、少女は画面を動かす……そこに現れた光景とは。


「今は昼休みの様じゃが……誰も気にしてなさそうじゃの。何なら椅子使われてるし、机にも座られておる」


「…………」


 普段と何ら変わらない光景が広がっていたんだ。そしてそれを見た途端、何だか急に全てが馬鹿らしくなって……奥の方から笑いがこみ上げてきたんだ。


「ふふっ……あははっ」


「は、春?」


「あははっ! あー。やーめた。学校なんか行くよりも、こっちの方が断然楽しそうだ。なぁ、神様?」


「……! ふふっ、春! 素晴らしい判断じゃよ!」


「何でそんな嬉しそうなんだよ」


 まぁ、そんな訳で……ここでやっと正式に、僕は神社復興の協力をすることに同意したんだ。

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