第16話
(1)
「お前は……」
列車の荷台でスナイパーは殴られ鼻血を流しながら目を見開く。そこには先ほどまで狙っていたはずの無面がいるのだから。
「5年前。ある男が死んだ。彼は昔、ヒーローだったがある時、事故で全身に火傷を負う。しかしそんな彼に世間は厳しかった。それは、酷いものだった。しかし他の仲間達の心配をよそに彼はヒーローの道へ戻ってきた。だが、昔の彼ではなく。『顔のない男』として」
無面は淡々と話し出す。
「彼は言った。『人間はヒーローに守られている。ならばヒーローは誰に守られる? 市民か? いや違う。誰もいない。ヒーローは自分達で守らねばならない。だから俺は考えた。俺がヒーローになると。俺はヒーローを守るためのヒーロー』と。そして彼は宣言通りに動いた。行いがあまりに非道であり、世間から彼は酷く罵られたが、ヒーローの中には彼の考えに共感する者達もいた……」
「それがお前達か?」
スナイパーの問いかけに、無面は答えない。
「俺は無面……」
「どうりで2度殺しても死なないわけだ」
「俺達は、ヒーローを害する者を許さない。俺達は、『俺』を殺す奴に復讐する」
無面は口元を軽く撫でる。
スナイパーはライフルに飛び付く、しかしそれよりも素早く無面は踏み付け阻止するが、スナイパーは腰からハンドガンを取り出し引き金を引いた。
が、命中することはなく、弾丸は壁に当たる。
無面はスナイパーを掴み、壁に投げつける。彼女は受身を取ってうまく着地しながら、近づく無面に足払い。
無面は飛びあがり避ける。スナイパーは足払いの勢いのまま回転し、空中の無面に再度回転蹴り、踵が無面の脇に当たる瞬間。彼の手刀が膝の関節を逆に曲げた。
スナイパーの悲痛の悲鳴が荷台に広がる。
ヘたれこむスナイパーの残った右足の膝も踏み砕く。さらに上がる悲鳴。
「ま、待って……」
動けないスナイパーが手を上げ言った。
「降参。降参よ。私を殺しても何もいいことなんてない。だって私は頼まれて仕事をしただけだから。どう? 5年前、誰が私にあなた達の殺しを依頼したのか知りたくない?」
スナイパーの言葉に無面は少し止まる。
「今回は神崎カルマの復讐。でも昔は違う」
「興味深いな」
「でしょ。私からはまだ聞き出すべき情報があるはずよ。私と取引しましょう」
少し沈黙ののち、無面はスナイパーの手を取る。一瞬、安堵の表情を浮かべたスナイパーだが、その顔は凍り付いた。
「……残念だが、俺は取引しない」
スナイパーの手は無面によって握り潰される。
「まだ駅まで時間がある。ゆっくり聞かせてもらおう。
お前は最後に。神に祈りたいか?」
(2)
カルマのショットガンの銃身を握る無面は首を回し鳴らすと、力を加える。するとまるで粘土細工のように銃身が曲がった。
銃から手を放し後ずさるカルマ。
「どうなってるんだよ!」
理解できない様子のカルマは、ショットガンを捨てる無面に喚く。
「頭が悪いようだ。見たまんまだ」
無面は滑るようにして近づくとカルマの胸倉を掴み持ち上げた。
「俺がなぜ『無面』なのか知っているか? この白いマスクを被っているから? 素顔を明かさないから? 違う。俺には元々、正体なんて無い。このマスク(顔)が俺自身。この顔だけが俺自身。だから俺は、俺達は『無面』。
最後に。神に祈りたいか?」
無面により宙に浮きながら小刻みに頷くカルマ。
「そうか。だが、そんな時間はない。お前に代わって俺が祈ってやる」
無面は胸倉を掴んだまま背負い投げするようして、カルマを床に頭から叩きつけた。床が抜けてしまいそうなほどに叩きつけ結果、あっけなくカルマの首は砕け絶命した。
無面はガラスに体を預けるもう1人の無面を見る。マスクはほとんどぼろきれの様になっており、素顔が見える。静かな顔で眠っているように動かない。
「後のことは任せておけ」
☆ ★ ☆
匿名の電話で警察が家に駆けつけた時、そこは酷い有様だった。誰一人五体満足の者はいない。死んでいる者も、死んでいない者もごろごろと横たわっている。
撃たれた者、斬られた者、潰された者、捩じられた者。
ここで一体何が起こったのか。
それは断片的に生き残った者から話は聞けた。
しかし、一つだけ、
――……そこには無面の死体はなかった。
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