第14話


(1)無面


 町外れの山に囲まれた古びた家。豪邸だ。庭にはプールもある。注意深く捜しても見つけることは困難な場所。

 俺は鬱蒼と生い茂る葉を掻きわけながら進み、レンガ造りの塀を飛び越えた。

 辺りは暗く物音一つしない。だが俺には分かる。奴らは、俺が無防備に来るのを今か今かと息を殺して潜んでいることが。

 庭を素早く移動して俺は首を鳴らしてからドアを蹴破る。

 激しく音をたてて倒れるドア。

 前に広がるは……。

 おっと、こいつはやばい所に来ちまったみたいだ。


(2)無面


 玄関口のホールで、耳を塞ぎたくなる轟音と共に弾丸の嵐が俺に襲いかかってくる。カルマの部下達だ。姿勢を低くして柱に隠れる。

 止まることを知らない弾丸。

 俺は銃を取り出すと、軽く深呼吸をして胸を叩き飛び出す。

 止まることなくジグザグに走り、弾丸を躱していきながら銃を発砲。相手の頭を弾き、肩を、胸を食い千切っていく。

 接近戦になると銃をしまい、相手の顔に蹴り込む。

 構えられた銃を払い落し、拳をぶつける。すぐに体を回転させ肘をもう1人に。

 男達は次々と倒れて行く。パニックに陥った者達はなりふり考えずに発砲。結局仲間を傷つけていた。

 そして最後の1人が背を向けて逃げる。

 俺はナイフ状の物を取り出す。

 それを振るとまるで扇のように刃が広がった。

 その特殊な刃物を投げつけると、回転しながら飛んでいき、背を向け走っていた首を落として帰ってきた。受け取ると血を掃うようにして2、3回振り、刃を元に戻した。

 死んだ者、死んでない者。大勢をホールに残し歩いていく。


(3)ヴィラン


 スナイパーは暗闇で目を開ける。定期的に小刻みに振動を体に感じる。

 遠くで塔の鐘の音が聞こえてくる。

 スナイパーは大きく深呼吸をすると、脇に置いたケースから対物狙撃銃である巨大なライフルを取り出す。禍々しく大きな鉄の塊のような銃だ。

 重たいライフルを軽々と抱え、扉を開ける。

 強い風が中に吹き込む。外の光景が勢いよく通り過ぎていく。

 ここは鉄橋を走る貨物列車の荷台。

 遥か遠くに森に囲まれた家が見える。

 スナイパーは右目にスコープを取り付けると片膝をつきライフルを構える。


(4)無面


 屋敷の1階を歩くとエスパーが前の壁からすり抜けてくる。

 しばらく睨みあっていたが、俺は溜息をつき首を鳴らし前へ出る。

 エスパーの手を掻い潜る。蹴りを受け流す。顔に拳を出すが手応えはない。それでも攻撃を続ける。まったく実感のない戦い。幽霊を相手にしているような錯覚を覚える。

 片足を軸に回転して背後を取ると、エスパーの服を掴み投げた。

なるほど、意識の外なら当たる。

 エスパーは壁をすり抜けて消えた。

 壁を蹴り壊し、後を追う。

そこはキッチンだ。エスパーの姿はない。

 俺は意識を集中しながら、透過能力について考える。

 透過能力は集中力を使う能力。そしてもう1つわかったことがある。


 気配に振り向いたが遅かった。壁から出てきたエスパーに首を絞められ、冷蔵庫に押し付けられる。だが俺は慌てない、落ち着いてポケットに手を入れる。

「このまま殺してやる」

 エスパーの腕が体の中に入ってくるのが分かった瞬間、俺は冷蔵庫を蹴り、エスパーが動作を起こす前に、奴の体を一気に通り抜けた。そして、去り際にエスパーの背中を蹴る。

奴は冷蔵庫に頭から突っ込んだ。

「無駄だ。無駄な足掻き」

 通り抜けた冷蔵庫から顔を出して奴は笑うが、もう興味はない。ハットを直し、首を鳴らして背を向けた。

「どこに行く!」

「8……9……10秒だ」

 冷蔵庫が爆発した。規模こそ小さいが冷蔵庫は跡形もなく砕け散る。そして奴の姿はすでに消滅していた。

 持っていた小型の爆弾。10秒で爆発する仕掛けにした。

 戦って分かった。透過能力で物質を透過する際、エスパーの肉体とその物質は融合しており、その物質の与えられた衝撃を回避することはできない。つまり、その物質が衝撃を受ければ、同じように同等の衝撃を受けるのだ。

 俺は少し焦げたキッチンを後にする。


(5)無面


 俺は2階を歩いている。

 ほとんど寝室らしい。たくさんある部屋は全て繋がっており、テラスも見える。俺は1室ずつ虱潰しにドアをあけ移動していくと、前にレスラーが立っている。リベンジに燃える目を向けてくる。

 俺は鼻で笑いながら、挑発するように軽く胸を叩いて近づく。するとレスラーは両手を出してきた。掴めと言っているのだろう。指1本1本が丸太のように太い。

 いいだろう。その挑戦、受けて立つ。

 がっしりと両手を掴む。瞬間、レスラーが力を入れる。万力の握力が俺の手を潰そうと握ってくるが、残念。

 俺もレスラーの手を握り返す。初めは均衡していた力だったが、次第に俺が有利になっていく。レスラーも顔を真っ赤にして力むが、俺はそのままレスラーの両手を握りつぶした。トマトのように赤い血が飛び出し弾ける。

 悲鳴を上げるレスラー。そんな奴を俺は見下し、両手を広げ渾身の力で頭を挟む。グシャリという嫌な音と感触、眼球が飛び出し頭蓋骨が粉砕。穴という穴から血を拭き、頭の原形をとどめることもなくレスラーは崩れおちる。

 次の部屋に入ろうとドアに手をかけた……。

 俺の体に何かが突き刺さった。

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