第13話
(1)神父
「神よ。お許しください。私は罪を犯しました」
南島(なしま)シズルは懺悔室の隣で呟く。神父である彼が、懺悔を聞く側の場所で懺悔をしていた。
「私は罪深き男です。また私は人を傷つけてしまった」
「神は今、聞いてくれているか?」
急に隣の懺悔室から声が聞こえてくる。低い低い、どこまでも底のない深く暗い男の声だった。
「主は常に我々と共にあります」
シズルは声だけで相手を判断すると、壁越しに挨拶する。
「神はいつだって見てるだけさ。でなけりゃヒーローなんざいらない。たまには手を貸してくれてもバチは当たらねぇだろうにな」
男は自嘲気味な笑み混じりに笑いながら言った。
「神は人々を試しているのです。私を、そしてあなたを」
シズルは目を瞑り、胸を叩きながら言った。男はその答えに小さく笑ったが、それ以上は何も言ってこなかった。代わりに話題を変える。
「5年前の事件を覚えているか?」
「姿なき殺し屋……ですか?」
「ようやく尻尾を掴んだ」
「スナイパー。十祭司。一体、何者ですかね」
「さあな。誰であろうと、分かっているのは奴らは駆除する害虫であることだ」
「連絡なら刑事から聞きましたよ」
「そうか。俺も明日動く。あいつらは準備してるだろうからな」
「わかりました。ではそのように。神の加護があらんことを」
「お互いな……薬をここにおいて置くぞ」
そう言い残し、男は懺悔室から出て行った。
隣の懺悔室を覗くと、中には新品のタブレットが置いてあった。
(2)ドクター
ミダレは渋い顔をしながら口元を手で撫でながらレントゲン写真を見る。
「う~ん。俺は、こっちは専門じゃないから。まぁ、手術するほどではないが……無茶し過ぎだな」
肩を摩りながら無面へ向き直り、口を開く。
「仕方がないだろう」
無面の言葉にミダレは溜息をつく。
「しかし厄介だな。透過能力なんてな」
「ああ、それに映画スタント顔負けに車に引っ張られてダイブだ。よく生きてたな」
「運だけはいいみたいだ。それで? 俺はどうすればいいんだ?」
「当分、安静にしてろ」
「他ならぬ、ドクターの言うことだ。極力、努力はしよう。そんなことよりも薬をくれ」
「飲み過ぎだ」
「薬が切れると痛くてゆっくり安静にもできん」
そんな無面に、ミダレは引き出しからタブレットを取り出す。
「いいか。お前は不死身じゃないんだ。安静にしてろよ」
薬を取って出て行こうとする無面の背に向かって強い口調でミダレは言った。
「こういうことをしてると。得ること以上に失うことが多い。慣れてるつもりだ。つもりだが、それでも知り合いがいなくなるのは辛い」
「……わかってる。俺も同じだ」
無面は振り向くことなく部屋を出た。
(3)無面
俺は用意する。
テーブルの上に置かれた多くの道具。専用の道具。
それらを1つ1つしっかりと確認し、ポケットに入れ、ベルトに挟む。最後に薬のタブレットをポケットに入れた。
俺は同じくテーブルに置かれたマスクを付け、ハットを被った。
今日はいい月だ。
仕事にはちょうどいい。
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