第11話
(1) ヴィラン
エスパーとダンサーは騒然となっている警察署内を駐車場に向け歩いていた。
角から警察官が二人出てくる。ダンサー達を見ると、慌ててホルスターに手をかけるが遅い。ダンサーはまるで流れるように近づき、顔を挟むようにして掴むと飛びあがり、まるで体操の選手のように倒立する形を取ると体を回転させる。それに合わせて警官の首が回転し括れ曲がる。
もう1人はエスパーによって脳を潰され死んだ。
そして2人はゆっくりと歩き出す。悠然と。
「無面はどうなったと思う?」
エスパーが無面に殴られた顔を摩っているとダンサーが聞いてきた。
「俺の攻撃で内臓にダメージだ。当分は動けまい。今頃捕まっている……っ!」
目前の壁が砕け、警官数名が壁にぶつかり力なく落ちる。砕けた壁から瓦礫を踏みしめて現れるはハットの位置を直す無面。
「動けないねぇ~」
ダンサーが非難気味にエスパーを見る。
「やっと見つけたぞ。ゴミクズ野郎ども」
無面は首を回し、骨を鳴らすと歩み寄る。ダンサーが動いていた。先ほどとは比べ物にならない速さで近づき、体に絡みつくように掴みかかると、勢いよく回り始める。普通ならそこで終わる。頭に手を巻きつけ、遠心力を付け、さらに自身の重みを加えて捻ることで、首が捻じり切れるばかりに折れ曲がるはずだった。
しかし、今回は悪かった。何が? もちろん敵が。
無面は自分の上で回るダンサーを掴むと、回転に合わせて自身も回り、そのまま壁に体当たりした。壁と無面に挟まれたダンサーは潰れたカエルのような声が漏れる。衝撃に耐え切れず崩れる壁の上で、ダンサーが悶えていると、無面は冷淡にそれを見下ろし、無慈悲に踏み潰す。まるで虫でも踏むように。ただ、衝突音のような音を聞けば、その威力が計り知れないものだったことを物語る。
ダンサーの足が一瞬、痙攣して浮かび上がるが、すぐに力なく落ちて、動かなくなった。
無面は振り返ると、すでにエスパーの手が体に入ってきた。
「この化け物が!」
先ほどと同じく、それ以上に痛みが来る。
「言ってろ。このミジンコ野郎!」
殴り飛ばす無面。今回はなんとか膝を付くのを耐え、胸倉を掴み殴りつける。1発、2発、3発目で拳が抵抗なく頭を通りぬけ、掴んでいた胸倉も外れる。バランスを崩した無面の顔の前にエスパーの手、必死で頭を逸らし躱したが、エスパーの前蹴りを避けることはできなかった。
不思議な感覚だった。蹴りが体を貫通していき内部から衝撃が湧き上がってくるような。
無面は壁に衝突し砕く。視線を上げればエスパーはバックを持って壁を通りぬけていた。無面は立ち上がり壁に向かって走り出す。
壁は脆くも崩れ、エスパーの背中が見える。
エスパーは曲がることもなく真っ直ぐに進み、部屋から部屋へと壁を通りぬけていく。その後を壁を突き破りながら追う無面。
ようやく駐車場。強化ガラスを通り抜け、エスパーは一番近くのパトカーにドアも開けずに乗り込むとエンジンをかけ、タイヤを軋ませ発進させた。
そのすぐ後に無面が強化ガラスを突き破り現れる。パトカーは駐車場を出ようとしている。
無面は銃を取り出し切り替えるとフックを取り付けパトカーに向け撃った。フックはパトカーの助手席側に引っかかる。ワイヤーが巻かれ引っ張られ、勢いよく飛んだ。宙を舞う様にパトカーに接近する。
パトカーは駐車場から大きな道に出るとハンドルを切り、急転回。エスパーにも無面の存在に気付いていた。
引っ張られ宙にいる無面はパトカーの急転回により大きく振られて横を走っていた大型バンプカーに衝突する。側面がへこむダンプカーだが、無面は手を離さなかった。そしてついにワイヤーが巻き終わる。無面の手が助手席の窓ガラスを砕く。
「お前、不死身か!」
驚きで目を丸くしているエスパーはさらにハンドルを切り、ドリフトさせると電柱に側面をぶつけた。その衝撃で無面の手が外れ、宙に飛ばされてしまった。しかし寸での所で手がバックを掴んでいた。
そのまま走り去っていくパトカーの後に、無面は何度か地面に叩きつけられ転がるように着地した。
左手にはバックがしっかりと掴まれている。
よろよろと起き上がると、ポケットからタブレットを取り出し、直接中身全てを口に入れる。噛み砕き飲み下すと、苛立ちを隠しきれない様子で呻きながら首を回して骨を鳴らした。
落ちたハットを被り直し、乱れたトレンチコートを整えるとバック片手に去る。
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