第8話

(1)無面


 1人目を流しつつ擦れ違いざまにラリアットを食らわせると、男は首を中心に空中で一回転して落ちる。殴りかかってきた男の拳に正面から拳をぶつける。相手の拳が砕ける鈍い感触、俺がさらに拳を捻り圧すと相手の肘から骨が飛び出してきた。

「ここが地獄だと? 生ぬるい。地獄なら俺が見せてやる」

 俺は手当たり次第に殴り、蹴り、投げる。相手の骨を砕き、肉を引き千切る。店内はすでに耳を塞ぎたくなるほどの悲鳴の嵐。誰一人五体満足でここから出す気はさらさらない。殺さない程度に痛めつける。自分達の存在の罪の重さを思い知らせてやる。

 混乱状態の中でようやく1人、俺の前に立つ男。両腕に固定してある刃が出る。下げた腕から滑り出た刃は床に当たり音を立てる。

 どうやらここからが本番だ。こいつがリッパーだろう。ミラーとは正反対にギラツク殺意だけ向けてくる。

 リッパーの動きは速かった。両手から延長しているような刃は恐ろしく素早く斬りつけてくる。俺はバックステップで距離を取りソファーを投げつけるが、リッパーの刃はまるで柔らかいバターでも切るかのようにソファーは4つに。

 なるほどこれは超人だ。俺の反応速度が追い付かなくなってきた。そばにいた男が哀れにも巻き込まれ、見事に脳天から股間まで真っ二つにされた。

 そろそろ下がるのにも飽きてきた頃。

 俺は前に出る。どんなに速くても刃が2本であることには何ら変わりはない。

 俺は身を逸らす。1本の刃は顔の上スレスレを通過していく。そしてもう1本は俺の肩口を捉える。刃が肩口から肉を裂いて入ってくる、それとはほとんど同時に俺はリッパーの踏み込んでいた右足の膝を蹴り込んだ。嫌な音をたてて逆に折れ曲がる。バランスを崩し、刃が肩から離れるとリッパーの胸倉を掴み持ち上げ、テーブルに叩きつけた。

 砕け潰れるテーブルの上に倒れるリッパーの折れ曲がった右膝を鷲掴みにすると、握り締めて振り回す。遠心力で速度の着いた状態で頭が柱に当たり、テーブルに当たり、駒のように回り振りまわして手を放す。リッパーは勢いよく飛び、店の壁に衝突して落ちた。

 俺は転がるリッパーに近づいたが、奴はもう頭が潰れて死んでいた。

 ミラーは……どうやらテーブルをうまく避け、そそくさと逃げたらしい。

 荒れ果てた店をいったん見渡し、俺は口元に手を持っていき溜息をつくと外へ出る。肩を見れば思ったよりも出血しているが、まあ大丈夫だろう。

まったく、俺はバカだ。リッパーは生かしておくべきだった。

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