第5話
(1)刑事
月が綺麗だ。
レイは昨日の晩の惨劇があった高層ビルから、2.5ヤード離れた所に建っているビルの屋上に立っていた。
ここから高層ビルは、双眼鏡で見えることは見えるがまるでプラモのようだ。
レイは溜息を吐きながら、首を回し、骨を鳴らす。
「ここから当てるとなると、相当な奴だな」
レイは後ろに現れた男に驚くこともなく言った。
「犯人は見つけてみせるさ」
まるで井戸の底を覗きこんだような暗く冷たい低い声が返ってくる。
「誰の仕業だと?」
レイは暗闇に振り向き訊ねる。
「今、調査中だ」
暗闇の中から月明かりに照らされ、無面が出てきた。
「まぁ、こっから当てられるスナイパーなんざ滅多にいない。その線から当たってみてもいいかもな」
無面は静かに頷く。
「今回の敵は厄介かもしれねぇな」
「なんにしても俺は復讐するだけだ」
「協定グループが絡んでるとか……」
「あそこにそこまでできるだけの力と度胸はない。おそらくはその裏に……」
レイは押し黙り、無面は言葉を切って軽く胸を叩きながら、言葉の後のことを思案する。
「所で、お前、今日は薬を持ってるか?」
無面は手を差しのべながらレイに訊ねる。レイはポケットからタブレットを取り出し投げ渡すと、軽く頭を下げて受け取った無面は、そのまま口を付けて全て流しこんだ。
「ドクターの所に行って、もらって来いよ」
「んー。時間がある時にな」
無面は素っ気なく言うと、背を向けてまた闇に中に消えていった。
(2)ヴィラン
夜も明けかけてきた時、彼女は現れた。
「残りの半分をもらいにきた」
来た途端、女はそう言った。
「用意はできているだろうな」
目の前にいる雇い主に一切の敬意はなしだ。女の問いに雇い主はもちろんだ。と答えると脇にいる部下の1人がアタッシュケースを机におき開けた。中にはぎっしりと札束が並んでいる。
女はその中の一つを掴みパラパラと軽くめくってから、中に投げ捨てる。
「確かに、では頂いていくぞ」
女がケースを閉め持とうとした時、雇い主の手がそれを遮る。
「なんのつもりだ?」
「それはこっちが聞きたい……おい」
雇い主の合図で机に写真が置かれる。そこには無面の姿が。
「これは昨晩、撮られた物だ。奴は生きている」
「……ありえない。確かに私の弾丸が奴を捉えた。あの状態で生きている者などいない」
「だが現に、お前が死んだと言い張る奴が現れ暴れ回っている。奴は自分を狙っている者、つまりは君らや私を血眼になって捜しているらしい。一体、どうなってる」
雇い主の言葉には怒りや戸惑い、それに怯えが混ざっていた。女はしばらく写真を見つめると、ケースから手を離した。
「……認めたくはないが、どうやら私の誤りのようだ。仕事を続行するとしよう。このような状況。経験がないわけでもない。奴は化け物だな」
初めて見せる笑みはとても冷たいものだった。
「安心しろ。私達が今度こそ、無面を殺してやる」
女はそう言って入ってきた扉から出て行った。
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