第4話
(1)無面
俺はなんてバカなんだ! みすみす相手の罠とも知らずに突っ込みやられるとは。バカバカバカ、大バカ野郎だ! 藤堂は単なる囮。俺を誘き出すための撒餌に過ぎない。誰か知らないが俺を狙っている奴がいるらしい。もしくは奴らだ。
だが奴、もしくは奴らはミスを犯した。犯してはあらぬ過ちを犯した。
俺を狙ったのは最大のミスだ。
俺は復讐する。俺を狙った奴は誰だろうと復讐する。
あぁ、イライラする。ムカムカする、フラフラする……
藤堂の持っていたブリーフケースの中にはほとんどが金だったが、1つだけ気になった書類があった。それは金の流れを書かれた物だ。まあ、裏金の洗浄ってところか、そこに乗っていた顧客の名前。協栄グループ。
ここ自体は大した組織ではない。だがこの親の組織は裏社会の隅々にパイプを伸ばしている。とはいえ、それは俺が潰すまでの話だ。協栄グループもその時に一緒に潰れたとばかり思っていたが……どうやらあたってみる価値はありそうだ。
☆ ★ ☆
扉を開けると、ざわついていた中の連中が静まり返った。
ここは知る人ぞ知る飲み屋の1つだ。まず堅気の人間は近寄りすらしないだろう。そうなれば中で酒を飲んでいる奴らはこの世界のクズと決まってくる。
俺はここにいる連中をパクったりはしない。興味がないからだ。こいつらは警察やヒーローに任せればいい。
俺が口元を摩るように手で撫でながらゆっくりと店内を見渡す。
誰一人として目を合わそうとはそうとはしない。
「協栄グループ。最近、何か知ってる奴は?」
何の前置きもなく俺は言った。数秒待ったが反応は返ってこない。だから、近く座っている奴の胸倉を掴んで、目の前でもう一度ゆっくりと、こいつらの腐った頭でも分かるように言うとそいつは震えあがって「知りません」だってよ。俺はそいつを離して別の奴の胸倉を掴んで同じことをする。結果は同じだった。だが挫けない。俺は何度だって同じことを繰り返す。
すると少しづつ変化が起こる。自然と自分を守りたい奴らの視線が泳ぎ俺が捜してる情報の持ち主に向けられる。
それに気付いたそいつは席を立って裏口へ走る、だが遅い。俺はテーブルの酒瓶を持って投げつける。それは見事に後頭部に当たり砕けた。俺は倒れている男の襟を掴み起き上がらせる。
そいつは起き上がった瞬間に突然発狂したように喚き散らし、手を振り回す。その手にはナイフだ。俺はその手頸を掴み少し捻ると、男はウソのように静かになった。
「お前に聞きたいことがある」
「お、俺は何も知らねぇよ!」
「協栄について言え」
「俺は何も……」
俺は手頸を捻る。力を加えながらゆっくりと言い返すと、男は悲鳴を上げ、涙を流しながら話しだした。
「お、俺は噂を聞いただけなんだ」
「どんな?」
「協栄が…あんたを殺すために腕の立つ殺し屋を雇ったとか」
「どういう奴だ」
「俺が知るかよ……ああー、分かった分かった!」
完全に手頸が折れた。
「素性まではわからねぇ! ホントだ。知ってるのはあんたらみたいな超人ってことだけで。ヒーロー専門の殺し屋だって……」
「それで人数は?」
おかしな方向に折れ曲がっている手頸にさらに圧を加えてねじり切る勢いだ。喚く男はすでに隠す様子もなく口を開く。
「知らない! 知らない! ホントだ。人数まではわからない。でも、何人もいるって言ってた」
「誰が?」
「名前は知らないけど、マスクをしてた。悪魔みたいな不吉なマスクで、常に笑ってる男だった。フリーク街の3番路地、地下にあるバーにいた。あそこは……ヒーロー達は近づかないから」
「俺がその辺のヒーローに見えるか!」
胸倉を掴み、脇のテーブルに叩きつける。テーブルは砕け、男もそのまま動かないが構うことはない。
口を開く者がいない中、俺は深呼吸をしながら口元を手で撫でて、その場所を後にする。
今日もいい月だ。
外に出た俺はポケットからタブレットと取り出し、マスクをずらして直接錠剤を全て流しこむと、噛み砕き飲み下した。カラになったタブレットは握り潰し捨てる。
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