第1章: 復讐者の行進

第3話

(1)


 こじんまりとした場所に墓がある。

 名前は佐野メルト。

 その墓の前に男が1人立っていた。

 何を思っているのか。ジッと見ている。

 男は小さくため息を吐くと、胸を軽く叩きながら、持ってきた花束を置く。

 そして、目を閉じた。

 何も言うこともなくしばらく目を閉じ立っていた男。

 目を開いても口は一切に開かずにシャベルを持って歩き去っていった。


(2)刑事


「無面……本名不明。年齢不明。指紋、毛髪データ無し。マスクの下の素顔不明。身元不明。性別、男。約20年前から現れる。653件の殺人。障害は1500以上…か。いつ見ても化け物だな。こいつは」

 刑事の片山レイは自分の机に足を置きながら言った。

「で? 昨日の事件も奴の仕業ですか?」

「そうだ。藤堂は前々からうちの逮捕リストに名前が載っている人物だ」

「でも、証拠は全く見つからず。全ては上から圧力が……ですよね」

「うむ……片山。いい加減に足を下ろせ」

「課長。硬いこと言わないで下さいよ」

 下ろす気のないレイに課長は溜息をつく。

「まあ、いいんじゃないですか? 藤堂はうちじゃあパクれなかったでしょうし、ちょうど良かったじゃないですか!」

「おい、片山いい加減にしろ! そんなことだからお前はここに流されたんだろ!」

「ここはいいですよ。気楽で」

「お前はなぁ……無面もうちの逮捕者リストに載ってるんだぞ」

「その件は、目下捜査中でーす」

 やる気なく、無面の資料を机に放った。

 その様子に課長はまた溜息を吐くが、たいして怒ってはいない。

 未解決事件処理課。

 この課にはめったな仕事は入ってこない。解決ができない、手も足も出ない事件がここに回される。この部署は片山と課長の杉下を合わせてほとんどお茶くみのカナちゃんで三人。

 この課が設立されて解決した事件は0件。

ここは警察署の墓場と言っていい。

「片山さん。コーヒーがいいですか? お茶がいいですか?」

 カナがいつものように聞いてくる。小さく可愛らしい子だが、どうにも要領が悪く何もない道路でパトカーを3度事故らせていることからここに来たらしい。

「カナちゃん。お水もらえる?」

 レイはポケットからタブレットを取り出し錠剤を2つ口に放った。

「っで? 課長。なんか用ですか?」

「そうそう。仕事を頼まれてたんだった」

 カナの持って来た水で薬を飲み下す。

「まさか、あのいけ好かない一課の連中が俺らに捜査協力なんて頼んでくるわけないですよね」

「ああそうだ。交通整備だ」

「嫌ですよ」

「嫌ですよ。じゃないんだよ! 仕事なんだから」

「俺の仕事はここで資料を整理することです!」

「真面目にやったことないだろ! 屁理屈はいいからほら行った行った!」

 杉下にせかされ渋々立ち上がるレイは「はいはい」とやる気ない感じで出て行く。

「いってらっしゃーい」

 間の抜けたカナの声を背中に受けながら、レイは部屋を出た。

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