第8話 ドランカー

「お前また飲んでるのか!」


 夫の佳祐がどなる。


「だって……」


「だからお前には財布を預けられないんだよ。クレジットカードを出しなさい!」


 小夜子はおずおずと財布からクレジットカードを取り出した。


 しかしカードを固く握りしめ、ぼそりと言う。


「これがないと……みんなから仲間ハズレになるの。やっぱりわたせない」


「何を言っているんだ?わたしなさい!」


 夫婦喧嘩が始まったのを敏感に察知し、3才のきららが泣き始める。


「公園で知り合ったママ友とたまにランチを食べにいくのよ。女にも付き合いってものがあるの!あなただってたまに後輩誘って5千円も6千円も使うでしょ。それと同じでしょ?」


「そんな友達なんか、相手にしなけりゃいいじゃないか!」


「ダメよ!それこそ公園で居場所がなくなっちゃうわ!そもそもあなたの稼ぎが悪いからこんな事になるんじゃないの!」


 バシッ!


 佳祐が小夜子にビンタをする。


「DVよDV~!」


 そして小夜子は外へ出て行った。


 佳祐は泣きわめく幼子と共に取り残された。



 真夜中、小夜子は帰ってきた。コンビニで酎ハイを買い、夜の公園でさらに飲み、ふらふらに酔っての帰着だ。


 佳祐は知らぬふりを決め込み、ベッドで寝たふりをしていた。


 小夜子がシャワーを浴びている。しかし長い。一時間を過ぎても出てこない。佳祐は心配になり浴室を覗くと、血だらけの小夜子がうずくまっていた。


「ど、どうしたんだ!」


 小夜子が持っていた包丁を取り上げ、左腕を見る。幸い動脈には達していないようで、ほっとする佳祐。


「なにバカなことやっているんだよ!今から病院に行くぞ。とにかく服を着なさい」


 佳祐は救急車を呼んだ。二人で救急車に乗り込むと夜間診療を受け付けている、精神病院に到着した。



「奥さんは境界性人格障害の可能性が高いですね」


「なんですかそれは?」


「難しい病気です。ご家族のサポートが必ず必要です。まず、一月ほど入院してみてはいかがでしょう。落ち着けば快方に向かうと思いますよ」



 一月後、小夜子は退院した。鬱状態も晴れていた。


 次の日曜日、小夜子は公園に復帰した。


「あら珍しい、どうしてたのかと心配してたのよ佐伯さん」


 ママ友のボス、小杉がそう言いながら近寄ってきた。


「今日は今から回転寿司に行こうとしてたのよ、さあ、佐伯さんも行きましょう」


「わ、私は用事があるので……」


「でも公園に来たってことは用事がないってことじゃないの?」


「え、ええまあ……」


 いらないことには知恵がまわる。仕方なくいつもの回転寿司に連れていかれる。


 百円均一ではない、大トロなどそれひとつで三百円もする、高級な回転寿司屋だ。


 小夜子が寿司を取らないでいるとボスが、勝手に小夜子の前に高級魚をおいていく。


 鬱憤が溜まる。しかしなにも言えない自分が腹立たしい。


 また散財した。輝の分と合わせると、四千円以上になってしまった。



 次の日曜日、公園に行かないでいると輝が「公園、行きたい……」とぐずり始めた。


「行きたい、行きたい!」


 小夜子は台所へ行き、酎ハイを一本あけた。


「うわ~ん!」


 輝を包丁で滅多刺しにし、玄関を出た。


 酎ハイを飲みながら小夜子はボスに突進した!


「うわ~ん!」


「キャーーー!!!」



[……えー次に、福岡県○○市で……]





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