白髪の老人は意気揚々として言葉を発していた。

 人間がたどり着いた究極のエネルギーについて。

 この世の物質の構造を説明し、原子核について言及し、そこから発せられるエネルギーの膨大さを熱弁した。それは最後を飾るにふさわしいものを装飾する葬式のようだった。

「いいか、今人間が恩恵を受けているマイスべレナーは不完全なエネルギー資源だ。私の発明こそが完全なエネルギー資源であり、人間がたどり着くべきものなんだ。なぜそれを理解しない?なぜ私のすごさがわからない? 愚かなものどもめ、これから私のすごさをこの世界に示すのだ」

 彼の熱弁はもはやアダンたちに向けられたものではなかった。

「やれやれね、多少は見直したと思ったけど、やっぱり人間てまだまだ未熟ね」

 エルフの発言は彼の感情を逆なでするのに十分だった。

「くそ、貴様たちも、俺を侮辱するのか。だが私はもうそんなものに屈したりはしない」

「なあ、なんであの爺さんはあんななんだ?あんた、知り合いだろう? 」

 間の抜けた声色でアダンが科学者に尋ねた。

「彼と私はかつて、同じ科学者ギルドの同期だった。新しいエナジーを開発して人の役に立とうと、互いを高めあっていた。しかし、彼の研究していたエナジーは人間には到底制御できるものではなかったんだ。事故が起こってね、彼の付き人が数人亡くなってしまった。彼の研究は危険すぎるとギルドは判断し、研究を中止するように通達したんだ」

「なるほど、大方、爺さんは自分が否定されたと感じて、復讐のために研究を続けていたとでもいうわけだ」

「うるさい、貴様らに何がわかる。すべてを賭けて打ち込んだものがあっけなく否定され、見捨てられる苦しみがわかるものか。いや、もうそんなことはどうでもいい。私こそがこの世界に革命を起こすににふさわしいんだ」

「もういいわ、聞いていられないわ」

 エルフはしっしと手を振りながら侮蔑を含んだ言葉を投げかけた。

「なあ、私と君は一緒に人々のために取り組んだんじゃないか。人々のためにやったことは変わりがない。少なくとも、私は君を認めている」

「あなたはどうなの?アダン」

 アダンは先の気の抜けた表情から変わって、深刻な顔をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る