九
そこにいたのは年老いた、しかし意志の力を振り絞った風体の男だった。白髪でやせた風貌を持ち、目には復讐の光が宿っていた。彼の背後には大掛かりな実験装置があり、何本もの管がそれにつながって、一つの生き物のようだった。その前方には、ドアの取っ手のようなものがいくつも付いた大きな壁上のものが立っていて、それもまた実験装置につながっていた。実験装置は静かに時が来るのを待っているように見えた。
「だれかね、君たちは」
白髪の男は低くくぐもった声を発した。
「誰だっていいだろ。あんた、いったい何を」
アダンがそこまで言ったところで、科学者が声を上げた。
「エヴゲニー、君なのか」
その声には懐かしむものではなく、困惑と不安が混じったものだった。
「知り合い? 」
エルフは怪訝な声で科学者に聞いた。
「懐かしいな、いったい何年ぶりだ?あの時から」
口を開いたのはエヴゲニーと呼ばれた男だった。
「かつて研究を異端視され、科学者ギルドを追放された時以来か」
「いったいなぜこんなところに?まさかあの研究をまだ続けているというのか」
「いい質問だ。基礎的な研究も終わり、ちょうどこれから本格的な実験を始めようとしていたところだ。貴様の研究、マイスべレナーをはるかに凌ぐ、アトムエナジーの時代の幕開けだ」
「やめるんだ、それは人間が手を出してはいけない領域だ。人間だけではない、この世界において許されるものじゃない」
科学者の声は必死だった。
「おいおい、あんたら二人で何を話しているんだ。俺たちにもわかるよう説明してくれ。察するに、あんたの研究が世界を終わらせる予言で間違いなさそうだが」
アダンの口調から危機感はなく、ややけだるさが混じっていた。
「いいだろう、お若いのと、そこの麗しきエルフよ。せっかくなのだ、君たちは歴史の生き証人となれる。聞かせてあげよう」
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