「それで、その青い光とマイスリナとの関係は分かったのか」

 アダンは腕を組んで壁にもたれかかりながらエルフと科学者に聞いた。

「まだ核心には迫れていない。けれど、国が滅亡してしまうことについては可能性が大きい」

「煮え切らない言い方だな。てっきりマイスリナから青い光が出て国を焼き尽くすのかと思ったよ」

「私もそうならどれほど楽かと思うよ。けれど、科学に楽な道は存在しない。どこまでも地味で、淡々として、気長で、退屈なものだよ。成果が出るまでというのは」

 科学者の声にはわずかに自嘲が混じっていた。

「そうそう。人間の思考が生み出した科学は、本当に面倒くさくて、地味なものです。しかし、それらの積み重ねによってなし得る成果の大きさを、エルフは一定の評価をしています」

 エルフは科学者を慰めるように言った。そこには鳥のくちばしほどには慈愛がこもっていた。

「とにかく、エルフに協力を仰いだんだ。植物の精霊が何かメッセージを送ってくれていないかとね。エルフとしても、精霊たちが尋常じゃないことを伝えてきていたらしく、協力的だった。そして、原因究明の助手としてアナスイアを派遣してくれたんだ」

「なるほど、それで、高明なエルフ様は、何かわかっているのか?」

 アダンは科学者からアナスイアの方に向き直った。そこに向けた眼差しに込められていたのは少なくとも期待ではない。

 はあ、と短いため息をついてアナスイアは話し始めた。その口調には少しの侮蔑と、多少の焦りが詰められていた。

「森の精霊が騒がしいの。この世の終わりが来ると言っているの。でも、その詳しい内容はわからない。エルフのみんなはパニックだった。どうしていいのか誰もわからない。そこに、マイスリナの研究者のエラストが現れた。エルフが人間に助けを乞うなんてプライドが許さない。それでも、すがるように彼の研究に賭けたの」

 アナスイアはそこまで言うと不安げに顔をそらし、窓の外に目をやった。初夏の日差しは少々強く、真実を照らすには明るすぎた。アダンは組んでいた腕をより一層強く組んだ。

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