第99話 クリスマスの悪魔
ダンス部とその周辺の人間を集めた、クリスマスパーティー。
金持ちの部員が自分のタワマンにメンバーを集めて行うという、まさに分かりやすい陽キャのパーティーであった。
桜盛は陽キャではないが、陰キャでもない。
強いて区分するなら、どちらからも超越している。
基本的に生きてきた年月や経験が違うので、ある程度は孤立してしまうのだ。
それが好きなわけではないので、積極的に絡みに行こうとはする。
ただどうしても、経験の蓄積による、ものの見方というのは変わってしまうのだ。
桜盛とちゃんと感性が合うのは、それこそ蓮花ぐらいである。
単純に好意を寄せてきていた美春などは、つれない桜盛を見限って、他に彼氏を作ったらしい。
だがすぐに別れてしまったあたり、適当にそんなものを決めるべきではないな、と桜盛は思ったりする。
考えてみればこちらに戻ってきて以来、精神年齢が釣り合っていると感じる相手は、そうそう多くもない。
また精神年齢の他に、価値観も重要ではあろう。
茜などは精神年齢も、また警官というハードな仕事をしていることからも、実は相当に相性はよくてもおかしくないのだ。
だが茜は完全に体制側であり、その守護者である。
桜盛は自分の都合によっては、体制を普通に無視してしまい、法律などは完全に気にしない。
このあたりの価値観がどうしても、合わないのだと考えてもいい。
もしも二人がくっつくとすれば、それは茜が警察を辞めた時になるであろう。
桜盛は勇者世界において、とんでもない勝気な女とは、それなりに知り合ったことがある。
よって茜程度の男勝りならば、充分に許容範囲ではある。
だが仕事によって二人の関係はつながっている。
なので優奈の予知にも、そのルートは薄かったのだろう。
パーティーは未成年が多いのに、普通に酒が出ている。
煙草は場所の提供者がうるさいため、禁煙となっている。
小賢しいのは受験を控えた三年生は、しっかりと飲酒をしていないところだ。
このあたり性質の悪さは、暴走する馬鹿よりもいいと言うべきか悪いと言うべきか。
桜盛は普通にワインなどを飲んでいるが、全く酔うことなどはない。
そもそも勇者世界では、別にアルコール摂取に年齢制限などなかったのだし。
友達の多い蓮花は、自然と人の輪の中心にいる。
桜盛も実は、そこそこ視線は向けられているのは感じているのだが、むしろ恐れられていると言ってもいいだろう。
だいたいは美春が広めた武勇伝が問題であろうが、昨今の日本人は暴力に対する耐性が強すぎる。
そう思うのは桜盛が、存分に暴力を振るえる強者であるからかもしれないが。
しかしそう言うのだとすれば、この場にいるようなガキどもは、全てが金持ちの息子である。
おそらくほとんどはハングリー精神が足りないし、飢えるというのがどういうことかも知らないであろう。
蓮花と自分との間に、そんなにフラグの立つ余地があるのか。
ヤクザの娘だと言われても、別に桜盛は全く気にしない。
そんなもの魔王だの、モノホンの国家権力だの、あるいは武装グループに比べれば、まだしも話が通じるだけマシである。
本当に、ヤクザよりも話の通じない日本人が、この世にはそれなりに多い。
他、志保と自分は仲がいいが、中途半端な距離感にはなってしまった。
やはり鉄山に義理立てしている、というところがあるのだろう。
もちろん根本的には、桜盛が自分からガシガシ行かないという、ヘタレたところが一番の問題であるのだろうが。
蓮花はそのあたり、割とその気になったら積極的だろう。
もっともその気になるには、もう少しイベントが必要だろうが。
そして年末に行われる、コンサートにおける現役トップアイドルとのフラグ。
本当にそんなものが立つのかとも思うが、予知されているのなら立つのだろう。
ただそこからどう発展させていくか、それもまた問題ではあるが。
その気になれば桜盛は、別に相手がアイドルであろうがヤクザの娘であろうが、いくらでも関係性を発展させることは出来る。
しかし弱点とも言えるべきところはあり、それが現実の家族なのだ。
それでも、もしも選ばなければいけないとしたら。
桜盛は状況次第だが、家族を見捨てることが出来る。
優先順位を間違ってはいけない。
勇者世界において、桜盛が何度も選択させられたことだ。
状況次第ではあるが、大きな犠牲のために、小さな犠牲を出すことをためらってはいけない。
また下手に命の価値に、自分特有の価値をつけると、敵は次からそこを集中的に狙ってくる。
なので余計に、勇者は動きづらくなるのだ。
「飲んでるねえ」
「水みたいなもんでしょ、こんなの」
ワインやシャンパンをぱかぱかと空ける桜盛に、感心したような口調で蓮花が絡んできた。
見ればいつの間にか、床に寝転がって潰れている者が多数。
あるいはもう、パートナーを見つけてどこかへしけこんだ、という者もいるらしい。
桜盛も絡んできた上級生などから、普通に盃を干していた。
勇者の肝臓は、アルコール分解能力も、常人をはるかに上回る。
「大学、合格したらしいけど、どうすんの?」
「在学中に、プロになれたらいいんだけどね」
蓮花は本気で、これで食っていきたいとは思っている。
だがそうそう需要のある世界でないのも確かなのだ。
大枠で分けてしまえば、彼女の進路も芸能界となる。
昔から芸能人の地方巡業などは、ヤクザとの関連が大きかったものだ。
いまだにそのつながりは切れていないが、蓮花の求めるジャンルに関しては、家の影響力などは関係ない。
自分の肉体一つで、表現の世界に入る。
それは絶大な力を持つ桜盛でも、出来ないことである。
来年の夏、邪神の侵攻が始まる。
その規模がどのぐらいのものであるのか、桜盛は詳しくは知らされていない。
ただ優奈の様子を見るに、そうそう甘いものでもないのだろう。
蓮花がやっているようなことが、果たしてその状況で許されるのか。
まあ体を鍛えておくのは、生き残るためにも悪いことではないが。
「君は相変わらず秘密主義者だね」
「そうかな?」
確かに言えないことは、相当に多いのだが。
こうやってまた、話す時間がある。
それを幸福なことだと感じていた桜盛だが、彼の鋭敏な感知能力は、それを察知した。
「……ちょっとコンビニ行ってきます」
「お巡りさんに捕まらないようにねえ」
ぷらぷらと手を振った桜盛であるが、感知したのは瘴気だ。
(邪神の兆候かよ!)
優奈もこれぐらいは教えておけ、と舌打ちをする桜盛であった。
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