第94話 イベント管理
世界を救うために恋人を作ってと言われたでござる。
言われて出来るなら苦労はないのである。
46年物の童貞を舐めてはいけない。
「何をどうしたら上手くいくとか、そういうアドバイスはないの?」
「え~と……頑張ってください!」
「マジかよ……」
絶望するしかない桜盛である。
説明は出来ないが必要である、というのは予知能力者からすれば仕方のないことなのかもしれない。
だがあまりにもこれは、難題である。
ただ選択肢四つのうち、二つは分からないでもない。
志保は一番仲のいい女子と言えるだろう。
そして蓮花は、確かに桜盛にとって、美しさを感じる存在である。
幸いと言うべきか、優奈の物言いからは、それが早急に必要であるという響きはなかった。
鈴城有希とのイベントの発生を、わざわざ告げていたからだ。
即ち優先すべきは、地球の能力者たちの戦力の結集。
とりあえず地元日本に関しては、五十嵐の方から話を通すべきだろう。
また崑崙の天仙たちに、アメリカの国家管理下の能力者。
他にも世界各地に、能力者は国家に管理されているものもあれば、能力者の隠れ里もあるのだ。
こういった場合に関しても、優奈の選択式という予知能力はひどく便利だ。
「予知って言っても未来の全部が分かるわけか?」
「基本的には動画の場面を自分で飛ばしていく感じです」
なので前後関係を詳しく知るには、それなりに時間がかかるらしい。
経過を飛ばして結論だけを出す、というのはこういうものなのか。
それでもこれは、自分がやらなければいけないし、自分にしか出来ないことだ。
そう桜盛が考えていると、また優奈の表情が変わった。
「あの、恋人を作ってほしいという話、また後回しでもいいです」
ズコー。
「いや、なんで?」
「未来を知っている私が行動することで、どんどん未来は変わっていくから」
「それはそうなのか……」
それはそれで本当に面倒なことである。
おそらく優奈との関係を深めても、それはそれで上手くいくのではないか。
むしろ彼女の能力を考えれば……いや、そうとも言えないのか?
喋りすぎたと思ったのか、優奈はそこからは、桜盛の質問に答える形に会話を変えた。
予知能力とは諸刃の剣なのかもしれない。
五十嵐に対しては、さすがに打ち明けないといけないだろうな、と桜盛は決断した。
また優奈の言葉通りであるなら、おそらく茜との関係が深まっても、それもありだと思うのだ。
ただ、ここで邪魔してくるものがある。
日本の法律である。
正確には違法ではないが、桜盛は現在、本当ならまだ16歳である。
それと23歳の茜が恋人関係になれば、それは事案である。
よく勘違いされるが、未成年者との性交渉は、普通に男だけに適応されるわけではない。
女が年上でも犯罪になるのである。
またセックスが絶対に犯罪になるというわけでもない。
具体的には両親の認識があって、将来を具体的に考えている、という関係であれば問題はないのだ。
これが教師と生徒であれば、それはまた違う問題になるが。
そんなわけで大忙しの五十嵐を、またも連れ出した桜盛である。
連日の捜査に憔悴している様子の五十嵐だが、ポーションを飲ませるべきだろうか。
もっとも10本しかない上に、疲労にまで効果があるかは分からない。
神様の判定が雑なのは、今更言うまでもない。
異世界とそこでの戦争、そして帰還という事実をざっくり聞いて、五十嵐はぐしゃりと顔を歪めた。
人気のない緑豊かな公園で、男が二人ベンチに腰掛けているというのは、休日昼間には想像しづらい光景である。
桜盛の正体を完全に教えたわけではないが、これである程度の秘密は打ち明けたことになる。
「異世界に勇者で、魔王退治に邪神ね……」
苦笑を浮かべているが、否定はしてこない。
そんな前提があったとすると、今までの不審がある程度は整合性が出てくるからだ。
「それを俺に信じろと?」
「別に信じなくてもいいけど、これで俺の力に納得はいくんじゃないか?」
「それは……確かに……」
桜盛という存在が、突然日本に現れたのは、本当にずっと謎ではあったのだ。
そして桜盛は、邪神の存在についても、詳しく説明する。
「核兵器でも効果なしかあ……」
「なんというか、魂だけの存在というか、エネルギーとそれに方向性を与える意思が本質で、純粋な破壊エネルギーでは足止めにしかならないんだ」
神々の加護を全力で受けた桜盛が、どうにかエネルギーを消耗させた。
そこにまた神々が力を注ぎ、どうにか封印をしたわけなのだ。
なるほど、過去のことは分かった。
だがこの地球で、どうすればいいというのか。
「そもそも封印の手段自体は、この地球でもそれなりにあるだろ」
「確かにそれはあるな」
桜盛が解除してしまい、えらいことになった鯤も、封印されていたものの一つだ。
しかしあの程度の封印では、邪神の力を抑えることは出来ない。
なのでまずは世界中に問い合わせて、強力な封印の手段を見つけるべきだ。
「簡単に言うが、こちらの言葉を信じてくれるとは限らないし、信じてくれたとしてもそれを主導するのは持ってる組織になるだろうな」
そもそもあるのかどうか、という前提の問題もあるが。
「アメリカなんかそういう、ヤバそうなの色々と持ってないかな?」
失われたアークのように、普通に管理していそうなのがアメリカである。
ただ桜盛は、確かに五十嵐の言うとおり、こちらの路線では無理なのだろうな、とは思っていた。
優奈の言葉によると、必要なのはまず桜盛である。
そして桜盛が恋人を作らないと、どうにもならない。
また桜盛自身が、出来れば使いたくはないが、切り札を持ってはいる。
優奈が何かを隠しているのは確かで、しかしそれは桜盛に教えれば、問題になることでもあるのだ。
未来を変えないために、未来を教えることが出来ない。そんなところだろう。
邪神の封印までには、おそらく現在の地球の全戦力を使っても、充分とは言えない。
だが足止め程度にはなるので、協力関係を築くのは意味がある。
もっとも全世界の危機といっても、世界が連帯することはありえないだろう。
その意味では邪神が、どこに現れるのかは重要なことである。
ミレーヌの時間移動、桜盛の異世界転移が、邪心を呼び込むことの遠因だとする。
すると二人が移動してきた場所に、邪神も現れるのではなかろうか。
ある程度はずれるにしても、かなり似たような位置に。
つまり東京都心か、東京近郊までの範囲。
東京を舞台とした最終決戦など、日本のマンガやアニメであれば見栄えがするのだろうが、実際はとてつもなく困る。
邪神は物理的な破壊力も持っているので、その力を使えば東京都心を破壊しつくすだろう。
来年の夏までに、首都機能を他に移す必要がある。
ただ邪神の力がどこまで及ぶかも、考えるべきだろう。
ぶっちゃけると桜盛としては、日本以外のところに、邪神のやってくる門を開けたい。
西の方に邪神が現れると、偏西風で悪い影響が起こる。
すると太平洋上などがいいのではとも思うが、するとそれはアメリカの力を弱めてしまうことにもなる。
太平洋の南、あのあたりが一番被害は少ないのではないか。
ただそうするとロシアや中国の戦力を持っていくのに、日本の領海や領空を通っていく必要が出てくる。
(そこまではまだ、考えすぎか)
とりあえずは、五十嵐への話は出来た。
次は玉蘭であるが、最近は用事もなかったので、上手く連絡がつながらないのだ。
「あ、アメリカとの交渉もよろしく」
「キャリアとはいえ、俺普通の警察官なんだけど……」
それを言うなら桜盛は、元勇者だが今は普通の高校生である。
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