第19話 異能と魔道

 以前からわずかに、この気配は感じていた。

 警察関連から尾行された時のみならず、たとえば街中の神社や寺などでも。

 この世界でも桜盛が魔法を使えるのは、果たして特別なことなのか。

 ただ勇者世界に召喚された時、桜盛が言われたことは、最も勇者としての適性に優れている者、ということであった。


 そして質問権で、ある程度は確認してある。

 地球にも魔法に近い、色々な呼ばれ方をしている異能は存在する。

 またこういったオカルトは、主に三つに分かれているらしい。

 現象として存在する怪異、属人的な異能、そして系統だった魔道である。

 もちろんそれぞれの呼び方は世界各国で違うし、さらに細かく分けることもある。


 おおよそは国家の管理下にあることが多く、世界の安定に寄与している。

 ところがこれが、世界の歴史的に見ると、面白いことが分かる。

 宗教とある程度同化するか、逆に迫害されて流浪することになるのだ。

 近代以降はおおよそ、国家の範囲内に入っているらしい。

 だがそのオカルトを排除してしまったのが、宗教を否定する国。

 即ち共産主義国家である。


 もちろんそれはあくまでも、国家の体制に入らない場合。

 唯物主義的な共産主義でも、現実を見えていないわけではない。

 ただ管理されることに抵抗したオカルトに属する一族は、多くが自由主義陣営に亡命した。

 当時は亡命という言葉ではなく、アメリカへの移民という形が多かったが。


 アメリカが世界最強の国家である理由は、その時代のリードがいまだに続いているからであるという。

 そして日本が本格的な植民地化されなかったのも、その部分では国家の中に大きな組織があったからだとか。

 もっともたいがいのオカルトは、科学の発展によって、その代替手段を手に入れている。

 なので中途半端な能力などは、もはや必要とされていないのだ。

 すると能力を持っている人間などは、不法行為に手を染めることになる。

 それを防ぐために、国家の側も最低限は、異能の存在を抱えている。

 これが桜盛の質問権によって手に入れた、現在の世界のオカルト事情である。




 情報が正しいのならば、北朝鮮にはほぼオカルトの人員はいないし、いたとしても完全に国家に管理されている。

 だが桜盛はそのあたり、もう一度質問権で確認してみた。

 するとそもそも朝鮮半島には、そういった存在がほとんどいないらしい。

 かつては同じ大陸の大国だった清王朝などへ。

 そして近代は併合された時に日本へ、もしくは日本から他の地域へと移動してしまったらしい。

 ならば今、湾岸部から情勢を見守る、この存在はいったい何者なのか。


 桜盛は勇者状態に変身して、魔力を撒き散らしながら、その場所へ向かった。

 湾岸地帯のポートには、大きなクルーザーが停泊している。

 この地下には排水溝があり、ここから進めばホール近くの地下に出られることは分かっている。

 ただそれは誰もが警戒していなかったらの話。

 警察があちこちを封鎖している今、海上保安庁も海から封鎖をしているだろう。

 しかし確かに50人は乗れそうなクルーザーだが、沖合いで検査などされなかったのだろうか。

(そこで魔法を使ったのかな?)

 桜盛は透明化しながら、クルーザーに近づく。


 大きい。これが簡単に入港していることは、間違いなく驚きだ。

(けれど武器まで所持して、それで亡命って、よくあることなのか?)

 少なくとも茜は、かなりおかしいとわめいていたが。

 犯行グループのかなりの部分は、確かに亡命を希望しているようだった。

 だがリーダー格に、他数名は違う。

 特に朝鮮人ではない人種は、何か他の狙いを持っていたはずだ。


 その時、桜盛が後にしていたホールの方から、アナウンス用のスピーカーを通じて、声が響いてくる。

『我々は日本への亡命を希望する。館内の有線電話から警察に連絡するので、そこから連絡先を案内してもらいたい。10分後に110番にかける』

 桜盛が既に知らせていたことが、これで事実と分かったはずだ。

 1500人を人質にした、50人の武装した人間が、亡命を希望する。

 こんなことは今までに、日本ではなかったはずだ。

 茜も自分や、まして警察が判断出来ることではないと言っていたし、こういう案件は総理大臣まで話がいくのではなかろうか。

 だがそちらで時間をかけている間に、こちらはこちらの用を済ませる。


 場所が場所なので、ドローンによる偵察も始まっている。

 桜盛はクルーザーに乗り込むと、透明化の魔法も解いた。

 相手は同じ、超常の存在。

 正直なところ魔王や邪神に比べれば、反応もはるかに小さいものだ。

 だがそれはこの現在の社会を考えると、あえて魔力の放出を抑えているとも言える。


 そいつはリビングのような場所に、別に隠れるでもなく待っていた。

「ふむ、小僧か」 

 見たところは東アジア系、年齢は不思議と分からないが、おそらく20歳は超えているだろう。

 体にぴったりとしたアクションスーツを着ていて、魔力の波長を感じる。

「小僧と呼ばれるほど、若くもないと思うんだけどなあ」

 桜盛がアイテムボックスから取り出したのは、この間の鉄山との対面で、去り際に渡された物。

 同田貫正国の銘が入っている、日本刀であった。




 論理的に考えるなら、この世界に桜盛より強い人間はいない。

 なぜなら勇者世界が勇者を召喚した時、複数の世界の中で、最強の素質を持っている人間を召喚したからだ。

 そして戦乱の世界において、桜盛は様々な苦境を乗り越えてきた。

 だが地球に帰還するにあたり、ある程度弱体化はしている。

 そんな勇者の力で、目の前の女に勝てるのか。


 戦闘スタイルも、使う魔法の系統も、何も分からない相手だ。

 ただし一方的に無力化するだけなら、おそらく難しくはない。

 問題はどうにか、情報も引き出したいということなのだ。

「あんたとあの武装集団、どういう関わりがあるんだ?」

「ふむ、金ぐらいかな」

 美しい顔立ちではあるのだが、どこか仮面のようでもある。

 凄みを感じさせるその容貌は、鉄山のような老人よりも、さらに強い自我を感じさせた。


 戦闘に向いた姿で、こんな場所にいる。

 桜盛の魔力を、彼女も感知していたはずだ。

 迎え撃つというには、随分と余裕たっぷりではないか。

(相当の自信を持ってるってことだよな?)

 こちらのこういった魔法使いたちの情報を、どこからか手に入れるべきであったろうか。

 もっともその入手先は警察しかないだろうし、警察もタダではくれないと思うが。


 ただ今の会話だけで、分かったことがある。

「金で動くなら、金で裏切ることは出来ないか?」

 桜盛としては別に、全てを殺しつくす必要もないのだ。

 むしろこの女が情報を出してくれるなら、今後も関係を持ってもいい。

 おそらく後ろ暗いところのあるこの女の方が、単純な取引相手としては、桜盛に向いている。

(警察に頼れないというのが、ダークヒーローっぽいと言うか)

 そんな可愛いものではない。


「金と言ったが、別に本当に金だけで動くわけではない」

 女はわずかだが、桜盛との間合いを広げている。

「正直ただ生きるだけならば、いくらでも金などは稼げるからな。面白い方に力を貸すのみよ」

 快楽犯罪者か。

「戦争が面白いことか?」

「戦争?」

 このあたりは質問権でも、上手く分からなかったことだ。

「最終的な目的が戦争だと伝えられてないなら、あんたも騙されていることになるぞ」

 プライドの高そうな女だけに、そこを突けば上手くこちらに取り込めるのでは。


 だが現実はそう甘くない。

「なかなか面白いことを知ってそうだな。痛めつけてから教えてもらおうか」

 どうやら戦闘は回避出来ないようである。




 ヒーロー物や大多数のスーパーロボット物で、絶対にやってはいけないことは何か。

 それはいきなり必殺技で、相手を倒してしまうことである。

 これはプロレスなどにも言えるが、観客や視聴者のいない実戦では、むしろ戦闘は速攻で終わらせるべきである。

 桜盛としてもこれまで、ヤクザ相手には瞬殺したりと、全く遠慮をしてこなかった。

 だがこの目の前の女だけは違う。

 情報を得るという目的があるだけに、殺してしまうわけにはいかない。


 だが地球の魔法というのは、どういったものがあるのか。

 勇者世界でも初見殺しというものはあった。

 それで仲間を失ったこともあるし、危うく死に掛けたものである。

(武器は……ナイフか投擲武器か? 他に呪いをかけてくるなら厄介だが)

 桜盛は自分の攻撃力は、おおよそ把握している。

 だが防御力については、耐呪の能力も含めて、まだ検証が足りない。

 一発勝負の実戦。

 ただの殺し合いだけなら、問答無用でさっさと殺している。


 しかしこの事件は、どうやらいくつもの思惑が絡んでいる。

 倒すのではなく解決すること。

 どちらかと言うと人間兵器である桜盛には、苦手なジャンルである。

 だがやらざるをえない。


「とりあえず、名前ぐらいは聞いておこうか」

「なんだ、私のことを知らないのか?」

 よりにもよって、地球ではトップレベルの能力者なのか。

「玉蘭だよ。仙姑とも呼ばれているがね」

「ユイランでシェンクーか。俺はつい最近戻ってきたばかりで、あいにく知らないな」

 ただこの名前の響きは、中華系であろうかとは思われる。


 知らないということは恐ろしいということだ。

 だがそれは、桜盛の相手にとっても、同じことのはずなのだが。

「まあ死ぬ前にゆっくりと後悔するがいい」

 そして投げられたのは、棒手裏剣のようなものであった。

 とても太い、針のようなもの。

 桜盛はそれを避けるのではなく、刀で弾いた。


 魔力の揺らぎがあり、小さく爆発する。

 おそらく回避していれば、その最も近いところで爆発していたのだろう。

 わずかな間に、玉蘭はその距離を接近戦のものにまで詰めている。

 そして腰から抜いた、短い幅広の片手剣で、攻撃をしてきた。


 実用性よりも装飾に富んだその剣は、おそらく魔法の代物だ。

 桜盛はそれも刀で防いだが、わずかに顔が歪む。

(日本刀は、俺の戦闘スタイルには合わないか)

 本来なら身体能力を増幅させ、大剣を振り回すのが桜盛のスタイルだ。

 人間サイズの敵よりは、自分をはるかに上回る巨体と、ずっと対決してきたのだ。




 わずかに間があった。

 刀は片手で持って後ろに引き、右手を前に出す。

 相手の攻撃にはなんらかの効果が付与されているだろうが、それは魔力でかき消す。

 そんな構えに対して、女は左手にもナイフを持って、両手で攻撃してくる。

 強化した右手で、そのナイフを殴った。

 衝撃によってナイフが爆発。しかし桜盛の右手は無事。

 唖然とした女に対して、膝に横からのローキックをかます。


 前から蹴らないだけ、優しいと思ってほしい。

 がくりと崩れ落ちそうになりながら、女は剣を投げてくる。

 そしてその両手には、魔力が集中していた。


 おそらく人間の肉体なら、簡単に破壊してしまう魔力の量。

 しかし桜盛も同じように、魔力を集中していた。

 手や足ではなく、集中しにくい腹部へと。

 だが絶対的な魔力量が圧倒的に違う。


 魔力は弾かれて、玉蘭の両手の指が砕けた。

 無事なのはもはや片手だけで、その場に崩れ落ちる。

「小僧……いったい何者だ」

「俺は勇者だよ」

 玉蘭の両手を片手で握り締め、壁にまでドンと叩きつける。

 思ったよりも肉体の耐久性は、それほど高くはないらしい。


「さて、およそ勝負もついたことだろうし、質問してもいいかな? その前に俺と手を組む?」

「手を組む? ここまで好きなようにされてか!」

 握られた両手を起点に、残った無事な右足で蹴り技を繰り出す。

 そのつま先からは、刃が出ていて桜盛の腹を狙う。


 それもまた、魔法障壁で食い止める。

 そこから膝で、玉蘭の右足の膝関節を砕いて、四肢がまともに使えないようにした。

 両足を潰した時点で、勝負はついたと言えるだろう。

 完全にパワー頼みの戦い方であったが、勝てばよかろうなのだ。

「さて、今度こそ質問いいかな?

 そう言った桜盛に対して、手足を封じられた玉蘭は、口を開けて噛み付いてこようとした。

 だが桜盛は膝を腹に入れて、完全に動きを封じる。


 うつぶせになった玉蘭に対して、桜盛はその左手を開かせた状態で床につけさせる。

「あんまり好きじゃないんだが、こちらも無駄に時間をかけられないんでね」

 勇者世界でも禁忌とされていた、他者を隷属させる魔法。

 もっともあちらであれば、聖女の力によってどうにか解呪出来るようなものであったが。

「お前は俺に危害を加えようとしない。復唱して」

「何を」

 まだ抵抗する玉蘭に対して、桜盛は彼女自身が持っていた棒手裏剣を、彼女の上腕に刺す。

 ちなみにこれは似ているが、日本の棒手裏剣ではなかったりする。


 真の意味のフェミニストである桜盛は、男女平等パンチによって、肋骨などをぺきぺきと折っていった。

 それによって隷属と誓約の魔法によって、玉蘭を拘束することに成功。

 桜盛に危害を加えない。桜盛に危害を加えるよう他人を使わない。桜盛を陥れない。桜盛に嘘をつかない。

 複雑な誓約は、むしろ効果が薄いものだ。

 なので分かりやすく、桜盛は玉蘭を縛る誓約の魔法を使った。




 一方的な戦いは終わった。

「小僧よ、お主、本当に一体何者だ」

 どうやら地球においても、桜盛は規格外の戦力ではあるらしい。

「答えてやってもいいんだが、今はそういうタイミングじゃないからな」

 桜盛は質問権でいまいち分からなかったことを、この女から引き出す必要がある。


「今、お前にかけたのは、誓約の力だ。ただし呪いも加えてあるから、逆らったら激痛が走るし、下手に解除しようとすれば死ぬからな」

 その脅しに対し、玉蘭はまだ余裕を失っていないようであった。

「それで、何を尋ねる。あるいは私の体が目当てか?」

 そう言ってジッパーを下げ、胸元の谷間を見せて誘惑してくる。

 目が幸せになるが、今は緊急事態である。


 情欲を落ち着かせる魔法がある。

 桜盛はこれを「セイジタイム」などと呼んでいるが。

「この武装集団、いったい何が目的なんだ? 日本への亡命を希望するとか言ってるけど、狙いがそれだけじゃないだろ」

「ほう、どうやって気づいた?」

「力ずくでな。それで最終的な目的はなんなんだ?」

「知らんよ。私もそこまでは知ったことではないからな」

 そう言っている玉蘭は、手足をゆっくりと伸ばしている。

 さっき折ったはずの指などが、もう治癒していた。


 桜盛も魔法の治癒で傷は治るが、この玉蘭という女のような自然治癒の早さはない。

 とても気になるが、今は事件の解決が優先だ。

「北朝鮮と日本人と中国人が混じっているみたいだが、他の国籍もいるよな?」

「国籍だけならベトナムとミャンマーだな」

「亡命を本気で希望しているのと、それ以外の狙いがある人間がいるので、間違いはないか?」

「そうだの。それは確かのようだぞ」

 ややこしいことになっている。


 あれだけの装備を揃えているなら、むしろどこかの国の正式な軍隊か、などとも桜盛は思ったのだ。

 しかし装備は揃えていても、それぞれの思惑が違う。

「まあ目的は知らんが、推測出来ないこともない」

 殺しあった相手に、そして呪縛した相手に、玉蘭はにんまりと笑った。

「運び込んだ爆薬は、たった三回で終わらせるような量ではなかったぞ」

 なるほど推測だけであれば、質問権には引っかからないのか。

「とりあえず、ちょっと来てもらおうか。俺だけじゃどうにも判断がつかないし」

「今からこの船を出れば、ドローンに気づかれるのではないか?」

「それは俺の力を使う」

 透明化の魔法は、他人に対しても使えるのだ。




 桜盛はそこそこ腹芸も出来るが、現状を理解するには、前提となる知識が足りない。

 なので武装グループに、北朝鮮の人間以外もいることは、警察に教えた。

 それとあとは、どうやらそれ以外の目的があるらしいことも。

 ただ情報の伝達は向こうにやったとしても、助言を得ることは控えた。

 またも屋内に戻って、桜盛が連絡したのは、鉄山の番号であった。


 犯人たちから離れた事務所には、テレビなどがあった。

 それによると内閣の人間は集まり、緊急対策本部を作ったらしい。

 武装グループが既に人を殺していることや、桜盛がグループのメンバーを殺したところまでは、桜盛は警察に伝えている。

 そして鉄山に話したところ、返ってきた答えは望ましくないものであった。

『自爆テロでも目指しているんじゃないか?』

 宗教的な裏づけもなしに、そんなことをしでかすことが出来るのか。

『1500人の人質は多すぎる。管理するにはその10分の一でもまだ多い』

「あと日本人に中国人までいるんだけど」

『中国か……待った。官邸から連絡が入った』

 鉄山はその人脈を活かして、情報収集をしてくれている。


 向こうから溜息があったが、桜盛が知りたいのは正確な情報である。

『北朝鮮からのミサイルが、本州の太平洋側にまで飛んでいったらしい。そんで北朝鮮は、亡命を認めれば実力行使に出るとかも言ってるぞ』

「何か重要な情報でも持ってるのかな……」

 桜盛も質問権を使ったが、上手く質問が目的を推測出来ていなければ、正確な答えは返ってこないものである。

 このあたりAIによる質問の回答に似ているかもsしれない。


 武装グループの中に、色々な思惑が渦巻いているのだ。

 その中で外に向かって告げられたのは、亡命の希望だけである。

 今のところ強硬突撃は、さすがに官邸も考えていないらしい。

 1500人の人質がいて、完全武装のグループが50人もいれば、自棄になればどれだけの被害が出るか。

 もっとも既に五人は、桜盛が片付けているのだが。

「せめてリーダーが何者か分かれば、対策も考えられるのにな」

 そう桜盛が呟いたことに対し、質問権が反応した。

 最初は答えが返ってこなかったのに、今はその正確な正体が、二人以上に共有されたことになるのか。


 そしてその正体は意外なものであった。

「マジか……。ってことは……」

『おい、どうした?』

「いや、犯行グループのリーダーの正体が分かったんだが……」

 それを伝え聞いて、鉄山もさすがに驚いた。

『政権が吹っ飛ぶな……。いや、それどころじゃなくなるか』

「北朝鮮に関してはどうだろう?」

『そっちは無視されるんじゃないか。今までも散々、ミサイルは撃ってきているからな』

「そうなのかなあ……」 

 さすがにこの事態であると、自衛隊も防衛出動の準備は整えているらしい。

 北朝鮮からのミサイルが、本土内に着弾するなら、反撃も考えられる。

 ただ北朝鮮は核ミサイルを持っている。

 桜盛は自分とあと一人ぐらいならともかく、それ以上を核から守れるかは、さすがに自信がない。

 単なる破壊力以外にも、放射線被爆の可能性もあるのだ。


 そこまでの事態には、さすがにならないとは思う。

 北朝鮮という国は、基本的に武力をハッタリでしか使わないのだ。

『日本が潰れたら、北朝鮮も潰れるからな』

「核の反撃で?」

『いや、ここだけの話だが、日本から北朝鮮には、普通に資金が流れてるんだ。これで中国から物資を買ってるから、下手に日本が潰れると、北朝鮮も潰れる』

「敵に塩を送ってると?」

『完全に自棄になったら、北朝鮮も中国も、武力行使は充分に考えられるからな。いや、待てよ、中国か』

 そして鉄山は、しばし考え込む。


 桜盛としては、どういった答えが出てくるのか、それは自分には分からないことだから、鉄山を頼るしかない。

 その鉄山からは、また驚くべきことが伝えられた。

『中国の人民解放軍に、動きがあるみたいだな』

「はあ!? まさか日本に攻めてくるとか!?」

『いや、日本じゃないんだが』

 鉄山の言葉には、苦いものが混じっている。

『これは台湾有事じゃないのかな』

 事態は沈静化の気配を見せていない。

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