天原学園最強能力者トーナメント1学期の部

 京香曰く「一学期に1回、腕利きの生徒たちが集う学内大会」ということなので、蒼介が想定していたのは、クラスメイトが学園内の施設を借りて行う小さな大会だった。


「……こりゃあ、すごいな」

「あ、あわわわ……」


 投稿日初日に京香と模擬戦を行ったステージと、同じ施設内にある別の設備。蒼介が京香と戦ったステージよりも一回り大きく、これから行われる戦いが蒼介と美月が思っている戦いとは比較にならない程荒れることを示していた。


『さーやってまいりました第25回天原学園最強能力者トーナメント1学期の部!実況解説は拡声能力を持った私、マイクマンXがお送りいたします!会場、あったまってるかーーーー!?!?!?』


 会場全体に響き渡るマイクマンXの煽りに、観客たちは次々に声をあげ歓声がステージを包み込む。会場のボルテージは最高潮に達していた。


『新年度ということも様々な命知らずや腕利きが多い今大会、いったい誰が優勝の座をもぎ取り、天原学園最強に輝くのか!25回に渡り実況を続けている私としても目が離せません!!!』


 蒼介は湧き上がる歓声の中、マイクマンXの存在について考察していた。25回全てで実況解説を行っているということはつまり、最低でも9年間この天原学園にいるということである。決して入学ハードルの低くないこの天原学園に9年間も在籍しているということは、少なくとも留年を繰り返している生徒ではないことは確実だろう。であれば教師という線が濃厚……


『さあ観客の皆さんもそろそろ我慢ができない頃かと思います!それでは第1試合を始めましょ~!』


 ということをぼーっと考えていたらいよいよ1回戦が始まるようだ。蒼介と美月は、マイクマンXの実況に合わせ、入場していく。


『記念すべき予選第1回戦!1回戦目から男女での参戦、しかし残念ながらこのステージの上では乳繰り合うなんて許されないぞ!新進気鋭の2年生真田蒼介と、1年生春日井美月ーーーー!!!!』

「「「「「わーーーーー!!!!!」」」」」


 全校生徒が集合しているんじゃないかと思う程生徒が多い。360度ほぼすべてに観客がいて、その生徒たちの観客席の一角の上方に、教師陣の席と思われる場所があった。


『対するは~、今年こそ優勝を狙って挑戦だ~!優勝候補の3年生3人組、通称トリニティサンダーだーーーー!!!!』

「「「「「わーーーーー!!!!!」」」」」

「わ、わ……」


 自分達の入場よりも、大きい声援に委縮してしまう美月。優勝候補というのも伊達ではないらしく、おそらく2年3年は全員彼らにかけているのだろう。


「そ、蒼介先輩ぃ……」


 自信が無くなってきたのか、涙目で蒼介の袖をつかむ美月。しょうがないと思いながら、蒼介は美月の頭に手を伸ばす。


「ぁ……」

「大丈夫だ。いざという時は、俺が君を守る」

「……」


 蒼介の言葉に、顔を赤らめて俯く美月。そのままゆっくりと手を離す。彼女のもう片方の腕には、一冊の本が抱えられていた。


「……なぁ、真田蒼介君だったか?」

「……はい」


 試合開始前に、蒼介の対戦相手である3年生3人組の、リーダーと思われる人が話しかけてきた。


「あんまりこういうこと言うのは良くないとわかってるんだけど……棄権しないか?この大会に出場を申請するということは何かしらの目的があるんだろうけど……こっちは3-Aの生徒3人。君が2-Aの生徒だとしても、"足手まとい"を連れて勝てる程、この大会は甘くないよ?」


 それは全て、彼の優しさからくる忠告だと言う事を気づいていた。彼らは、美月が1-Dに在籍する生徒であることを知っていた。足手まといとわざわざ卑下するようなことを言ったのは、ここで棄権してしまっても負けてしまっても君の事情を誰もが汲んで、君を誹謗したりすることはしないだろうという意味でもあった。


「……安心してください、彼女は決して足手まといなんかじゃありません」


 上級生に足手まとい呼ばわりされ震えている美月の頭に蒼介は手を置き、撫でる。前髪で隠れた目からは涙がぽろぽろと落ちていた。


「……宣言します。先輩方3人相手ですが、俺はひとりでも勝てますよ」


 別に、そう敵を煽る必要も彼にとっては無かった。美月は足手まといなんかじゃないというのは、蒼介がその場にいる誰よりも理解していた。だがしかし、蒼介は許せなかった。ともにこれから戦う仲間を卑下されたのが、許せなかった。故に宣言した、「ひとりでも勝てます」と。


「……言うじゃないか!その減らず口、いつまで持つか試してやる!」


 上級生3人組、通称トリニティサンダーが構えを取る。蒼介は美月をステージ外へ退避するように指示する。美月は、頭を下げてからステージ外へと降りた。


『さあ両者準備が完了したので始めたいと思います!制限時間はなし、先に対戦相手全員のバリアー装置の耐久値をゼロにするか、ステージ外へと放り出せば勝ち!装置の耐久値がゼロ、もしくはステージ外へと出された選手は再度戦闘に参加することはできません!』


 戦闘に参加することができないというのは、学内大会におけるルールで蒼介が事前に確認していたことだ。戦闘に参加できないということはつまり、攻撃される心配が無くなると言う事。特に複数人相手であれば、蒼介にとってはその方がやりやすかった。


『さあ運命の第一戦、勝利の栄光はどちらに輝くのか!間もなく試合開始です!!!』


 マイクマンXの声と共に会場が静まり返り、試合開始のカウントを告げるブザーが短い間隔で3回流れる。そして、長いブザーと共に試合が始まった。


ビーーーーーーーーーッ!!!!!!!


「ふっ……!!!」

「くらえ……!!!」


 開始と同時に左右に回り込んできた2人。そのまま、その手からそれぞれ巨大な火球と水球を飛ばしてくる。


(トリニティサンダーって言う割には2人は雷を使わないんだな……)


 そんなことを思いながら、自身の左右から迫りくる攻撃を地面を蹴って後方に躱す。水球が火球によって蒸発させられ、その水蒸気の中を突っ切るように先ほどのリーダー格の男が雷を纏いながら突っ込んできた。


「おしまいだ!」


 先ほどの攻撃を後方に避けられることを想定しての攻撃なのだろう。水蒸気を瞬間的な水のカーテンとして使い、不意打ちを行う戦法なのだろうが。


「……」

「な、ぐっ……!?」


リーダー格の男の右拳を屈んで避ける。そのまま右手首と男の胸倉を掴み、彼の勢いを利用して火球を放ってきた男の方へと放り投げる。


「そらっ!!」

「うわっ!!!」


 勢いよく飛んできた男を受け止めることができず、2人合わせて倒れ込む。蒼介はそのまま、今度は水球を放ってきた男の方へ向かって地面を蹴る。


「くっ!」


 慌てて小さな水球を連発してくるが、蒼介はその全てを回避しながら接近し、先ほどと同じ要領で、今度は態勢を立て直そうとしている2人目掛けて放り投げる。


「ぎゃっ!?」

「がっ!?」

「あがっ!!!」


 その声と共に、3人とも重なり合って倒れる。蒼介は投げた1人が2人に直撃する前に、左手を前に突き出す。


「翼力による遠距離攻撃ってのは……こうやるんですよ」


 蒼介の言葉と共に、彼の左手に蒼介の翼力が変換された光が集まっていく。まるで岩石によって噴出を妨げられた火山のように、それが限界までチャージされる。


「……光閃こうせん


 会場内のほぼ全ての観客が、トリニティサンダーの勝利を予感していた。それは、これまでの大会の結果から見る順当な評価だったのだろう。

 それはしかしその予想は、蒼介が放ったそれによって瞬く間に塗りつぶされた。蒼介のその言葉と共に、手の平に凝縮された光が大口径のビーム砲となって前方へと放たれる。奇跡という言葉を使うのもおこがましくなる程の極大ビーム。なんとか態勢を立て直した3人が、それを見て慌ててそれぞれ自らの翼力を変換したシールドで対応する、が。凄まじい勢いと共に放たれたそれは、3人の身体を一瞬で呑み込んだ。


 5秒ほど照射されたその極大ビームによって姿が消えていたトリニティサンダーの3人が、蒼介が放ち続けていた光が消える事で再び姿を見せる。3人は3人ともぐったり横たわっており、それぞれが腕に付けていたバリアー装置からは、エネルギー残量が完全に無くなったことを示すブザーが鳴り響いていた。


『……な、な……』


 実況解説も、目を疑うような事態を前に一瞬動揺の声をあげていた。しかし我に返り、観衆の声と共に実況を再開し始めた。


『なんということでしょう!!!優勝候補と謳われたトリニティサンダーをなんとたった一人で圧倒、あっという間に撃破ーーーーー!!!!!これはとんでもない大番狂わせが起きてしまったーーーーー!!!!!』

「「「「「うおおおおおおーーーーー!!!!!」」」」」


 あっという間の勝負だったにも拘らず観客がこれほどに湧いたのは、知名度のない、初出場の生徒が優勝候補と言われた生徒を倒したからに他ならなかった。番狂わせというのが、老若男女全てに分け隔てなく熱狂を与えた。


『最初からこんなに盛り上がってしまって大丈夫かーーーーー!?!?!?……はい、ええ……えぇ!?い、今入りました情報です!!!!!どうやら今回勝利した真田蒼介選手ですが、何とこの天原学園創立以来、2人目のランク『S』の生徒であるということです!!!!!』


 その実況と共に会場が再び歓声に包まれる。「まじかよ」「Sランクならあの強さにも納得だわ」「なんで女の子連れて出てるんだ?」「サイン貰いてぇよ」等観客席から声が飛び交っていたが、蒼介は我関せず、ステージ外に退避していた美月の元に駆け寄る。


「せ、先輩っ……!!!」


 興奮冷めやらぬと言った感じで蒼介を見上げている美月。蒼介は美月の頭に手を乗せると、髪が乱れないよう優しく撫でる。


「あ、う……」

「大丈夫だ。負けないさ、君の強さを証明するときが来るまではな」


 蒼介は美月を連れて控え室へと戻っていく。蒼介が戻っていくまでの間も、その会場内から歓声が消えることはなかった。




「あ、あの……先輩」

「ん?」


 これほど大きな施設だと、一度勝利すれば各出場者に1つずつ控え室が割り当てられるらしく、蒼介と美月はその大きな控え室に用意された椅子に2人きりで座っていた。


「私は……いつ、先輩にお役に……立てますか……?」


 美月は、蒼介の第1回戦の活躍を目の前で見ていた立場である。しかし、美月は観戦者であると同時に蒼介と共に参加している言わば仲間であり、本来であればステージ上で蒼介と共に戦っているはずなのだ。蒼介の指示があったとはいえ、ステージ外へ退避させられたことに少なからず思うところがあるのだろう。


「安心してくれ、美月。俺は、君が強い能力者であるということを知っている。その君がより良い環境を送るようにするためにも、まずは必要な舞台を用意するんだ」

「それは……」

「大丈夫だ。君の力を使う舞台は、俺が用意する。君はそれをその力で完膚なきまでに捻じ伏せればいい。時が来るまで、俺のことを信じてくれないか?」

「……!は、はい……!」


 蒼介の言葉に感動したのか首をぶんぶんと縦に振る美月。「俺のことを信じてくれないか?」、その言葉を、美月は噛み締めていた。


「お邪魔するぞー」


 蒼介と美月だけだった空間に、勝手知ったると言わんばかりに入ってきたのは、京香、花楓、そして杏奈だった。


「そーちゃん、さっきの試合見てたよー!」

「お前ら……控え室に勝手に入って大丈夫なのか?」

「出場者のクラスメイトか家族なら自由に入ってもいいんだよ。にしてもお前、まさかトリニティスターに勝っちまうなんてなぁ」


 蒼介の対面に座る花楓と京香。杏奈は当然とばかりに蒼介の隣に座る。長テーブルの片側真ん中に座る蒼介に対し、1年である杏奈と美月が挟む形となった。


「当然です、兄さんがあのような有象無象に負けるなどありませんから」


 無い胸を反らせながら自信満々にそう言う杏奈。


「はいはい、わかったから」

「杏奈ちゃん、本当にそーちゃん大好きだよね~」

「兄のことを嫌いな妹がいるはずがありません。妹というのは、いつになっても兄のことを愛しているものです」

「その自信はどっから来んだよ……」


 杏奈に呆れ顔を向ける京香。しかし杏奈は自分の発言に一切の迷いがないのか、特に恥ずかしがる様子もない。


「……え、っと……あの……み、皆さんは……?」


 一瞬にして控え室が知らない人物だらけになった影響か、すっかり委縮してしまった美月。美月の緊張を感じたのか、いつも通りの優しい声で話しかける花楓。


「私は桐嶋花楓!花楓って名前で呼んでくれていいからね~」

「アタシは薬師寺京香。アタシも名前でいいぞ」

「私たちはそーちゃんのクラスメイトなんだ~」

「か、花楓先輩、と……京香、先輩……」


 名前を確かめるようにそう呟く美月。続いて、杏奈の自己紹介が始まる。


「羽鳥杏奈です。兄さんと苗字も血も同じではないですが、真田蒼介兄さんの妹です」

「あ、杏奈さん……」

「……?」


 杏奈は、蒼介を挟んで向かいに座っている美月の顔を凝視する。何か気に障るようなことをしたのかとびくびくしている美月。


「……もう一度名前を呼んでもらっても?」

「……ぇ?えっと……あ、杏奈……さん……」


 杏奈の眼つきがより悪くなる。赤と青の瞳に貫かんとするほどに見つめられ身体を強張らせてしまう。


「……貴女は、兄さんによって1-Aにクラス替えをさせられる人です」

「……え?えっと……それは、まだ決まったわけじゃなくて……」

「いえ決まっています。兄さんがそう言ったのですからそうなります」


 卑屈な美月の発言を一蹴する杏奈。杏奈は続けて言葉を紡ぐ。


「1-Aに来るのならば、杏奈と美月はクラスメイトということになります」

「……?」


 突然の呼び捨てではあるが特に気にしないのか発言を許容する美月。


「ならば、美月はこれから杏奈と共に3年間を生きる学友ということです。学友ですよ?学ぶ友と書いて学友です。ならば、杏奈達は友達同士、それなのにさん付けというのは……友というには淡泊すぎる関係では?」

「……!」


 杏奈の言葉にはっとさせられる美月。それは、美月が杏奈の言葉に「確かに」と思っている何よりの証拠であった。


「わかったならば呼び方を改めるべきです。杏奈は貴女のことを美月と呼びます。なので美月も、私を呼び捨てくらいで呼んでくれないと」

「あ、ぁ……え、っと……」


 美月は口ごもる。自分なんかのことを友と呼んでくれる杏奈のことは嬉しいが、呼び捨てにするには少々馴れ馴れしいのではないか、という葛藤だった。そしてしばらくの間を置いて、口を開く。


「あ、杏奈………………ちゃん」

「……」


 杏奈は再び美月を凝視する。何かとんでもないことをしてしまったのかとびくびくしている美月だったが、やがて杏奈は諦めたように口を開く。


「……ま、ここが妥協点と言うことにしましょう。これから交流を深めれば、呼び方もいずれ変わるはずです」

「えっと……よろしく、ね……杏奈、ちゃん」

「……ええ。よろしくお願いします、美月」


 杏奈と美月が新たに友情の花を咲かせたところを、微笑ましそうに他3人は眺めていた。


『あーっとここでバリアー装置のブザーが鳴ったー!!!!』


 新たな繋がりが生まれた控え室に、今度はモニターから流れる実況解説が響く。


「あ、第3試合も終わったみたいだね~」

「つっても結果なんてわかりきってるけどなー」


 自らの背後に映っている様子に興味がないのか、花楓と京香はモニターを見る事すらしなかった。


「そうなのか?」

「3回戦は鳳先輩だろ?無理無理、対戦相手が誰だろうと基本勝てねーよ」


 見る必要すらないと机の上の残り少ないお菓子をかじる京香。モニターに映っていた光景は、まさに彼女が言うとおりのものだった。


『強い、強い、強すぎるーーーーー!!!!!これが6回に渡り優勝を続けてきた生徒会長の実力だーーーーー!!!!!』


 モニターに映っていたのは、天原学園生徒会長である鳳花桜と、その対戦相手と思われる選手だった。リプレイと思われる映像が、すぐさま流れ始める。


「……これは……」


 第1回戦の戦いも、間違いなく蒼介の一方的な展開による勝利、と言って差し支えない内容だっただろう。しかしながら、それは最早一方的という表現すら生ぬるい光景だった。

 試合開始と同時に、氷の礫を複数生み出してそれを飛ばす。夥しい量の氷の礫だったがそれが花桜の身体に直撃することはなく、全て彼女が生み出したステージ上を加工した岩壁に阻まれた。そしてその直後、対戦相手の身体を強烈な突風が包み込む。打ち上げられたその選手は空中で身動きを取ることができず、そのまま風と共に舞い上げられた、砕かれた岩壁群が直撃し、あっという間にぼろ雑巾のように力なく地面にたたきつけられ、試合が終わった。


『艷災の名はやはり伊達ではない!!!!!今年も優勝を我が物としてしまうのかーーーーー!?!?!?」

「……」


 唖然としている美月。自分はこれから、とんでもない存在に挑もうとしている。それを理解させられていた。


「……お前がどの程度までいくかはアタシもわかんねーけどよ」


 花桜の試合が終わり次の試合に実況解説が移ったタイミングで、京香は口を開く。


「やめるなら今だぞ?悪いけど、アタシはお前が鳳先輩に勝てるとは思えない」

「……私も。そーちゃんなら負けるわけないって思いたいけど、私も鳳先輩には勝てなかったから……その……」


 京香も花楓も、花桜の勝利を絶対的なものだと思っているようだった。それほどまでに、彼女には絶対的な力があるということなのだろう。


「……勝ちますよ」


 そんな二人とは全く異なる意見を、隣に座る杏奈は抱いていた。


「例え兄さんが1人で戦っても勝ちます。お二人があの人の勝利を信じて止まないのは、お二人が本気の兄さんを知らないからです」

「それはお前も……」

「杏奈が仮にあの人の真の力を知っていても。兄さんが勝つと断言します」


 きっぱりとそう言い切る杏奈。どうしてこれほどまでに杏奈が断言するのかは知らなかったが、それでも花楓と京香は杏奈の言葉に動揺を隠せなかった。


「……あーもう、わかったわかった。蒼介が勝つ、これでいいんだろ?」


 蒼介のことでは頑固すぎる杏奈に根負けしたのか、京香は諦めたようにそう言う。


「……幼馴染の私が、そーちゃんの勝ちを疑っちゃだめだよね」


 そして花楓もまた、蒼介の勝利に賭ける。


「ふふん……分かればいいんです」


 その二人の勝利予想鞍替えに、杏奈は満足気だった。ただ一人、美月だけは、その胸に本を抱えたまま俯いていた。本のタイトルは『ultimate magic fantasy』と書かれていた。

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