三十三話:お茶会
アルマが怪しく笑う。
「秘密を知られたからには、タダで帰すわけにはいかないよ〜〜?」
魔法少女、一華が大げさに驚く。
「そ、そんな。 まさか……わ、私を殺す気!?」
いや、殺さないだろ。 すぐ復活するし。
アルマが何か一華に耳打ちし、焦ったように一華は大げさに手を交差させる。
真っ赤にした顔。 一瞬目が合うと、すぐにフイッと視線をずらされる。
「よーし。 とりあえずギルドアイランドに帰ろう! 一華ちゃんも来るでしょ?」
「いいの?」
「もちろん!」
ドロップアイテムの分配もある。
今回の成果は十階層のボスから光の宝玉を手に入れたことぐらい。
「途中のボスからは出なかったけどね〜」
「ドロップ……しょぼい」
「遺物らしき物も落ちなかったですね」
ギルドアイランド。
森林エリアにあるバーベキュー場のような場所でドロップの報告会。
木製の丸テーブルを囲み、香り豊かな紅茶を楽しみながら。
ちなみに信さんとハピさんはドロップアイテムを残しどこかに消えた。 二人で手をつなぎどこかにしけこんだのだ。
ほんとラブラブだねっ!
なんか信さんの悲鳴が森の奥から聞こえたような気もするけど気のせいだろう。
「いや、木の宝箱ならかなりの収穫よ……?」
シトリについてはまだ一華にも秘密だ。
「絶好調〜♪」とノリノリでメテオを連発してたけど、MP管理とか普段しないのかね。 してたら気づきそうなものだが。
「次はもう少し深く潜ったほうがよさそうね〜」
「賛成……」
「私も参加するわよ!」
しかし、不思議な茶会だ。
黒い武侠服を着たポニーテール美人のアルマ。 ピンクツインテールに魔法少女服を着た可愛い系の一華。
鉄仮面と蒼い重装備の人――実は脱いだらハーフ系巨乳美少女のレフィーさん。 そしてタマゴと俺。
なんだかんだでハーレム状態!?
「ノリオ……反復……今日のノルマ後百五十」
「はい……」
また精霊の泉の反復クエストか。
豚狩ったり、クエストアイテム採取したり、お使いクエストだったりと。 何回も繰り返すと飽きる。
「反復? ひょっとしてそれも??」
「そうだよ〜。 私も参加しよっと!」
「じゃ、私も参加してあげるわ!」
単調な反復クエストも皆でやれば楽しいだろうか?
「終わったら……温泉」
「よおおおし! サクっと終わらせましょう!!」
反復クエストは知らないが、皆で入る温泉は楽しいに決まっている!
俺はニンジンをぶら下げられた馬の如く、ひたすら豚を狩り続けるのだった。
レフィーさんは意外と策士なのか……?
◇◆◇
眼鏡の青年は呟いた。
「これは……確定的かな?」
手に持っていたのはスキルブック。
地下迷宮深層部のボスドロップ品である。
「んん? なんのスキルブックだ?」
「たぶん新クラス、いや、上位クラスかな?」
その眼鏡の青年の発言に、集まっていたPTメンバーたちは一瞬何を言っているのか分からずきょとんとした。 そして堰を切ったように質問の嵐が飛ぶ。
「はあ!? 上位クラスだと? 説明しろ、ワンダ!!」
バーバリアンのような男が詰め寄る。
非表示にできる頭装備――二本角の生えた兜――を隠さず、顔は厳つく濃い髭面。 両腰に下げる片手斧。 獣の毛皮のマントを羽織り、バーバリアンでなければ、山賊にしか見えない男が眼鏡の青年に詰め寄った。
「シークレットクエストに関係してるんだと思うよ。 光の宝玉も恐らくね。 用途不明のアイテムなんて怪し過ぎる。 けれど、そう言ったアイテムが露店で意外と売れている現状。 先を見越して誰かがため込んでいるだけかもしれないけど、すでに情報を掴んでいる人たちもいるのかもしれないね」
「なんだとぉ……!?」
マシンガントーク。
説明好きな眼鏡の青年は厳つい髭面に詰め寄られても一切臆せず、言葉の弾丸を浴びせた。
その後、光と闇の宝玉やその他の用途不明なアイテムが露店から姿を消す。 掲示板上では怪しい噂が飛び交い、皆が上位クラスに関する情報を探っている。 その中にはボスが沸く直前に現れる鉄仮面とタマゴの噂や、豚をひたすら狩り続ける鉄仮面とタマゴの噂があった。 迷走する噂の渦に紛れて消えて行く小さな噂話であったが。
しかしとあるライブの映像により、その正体と目的が露になってしまった。
ピロロン。
「お? ダンジョン戦通知きた〜〜♪」
一人の小規模ギルドのギルドマスターのもとへダンジョン戦の通知がやって来た。
コルルオンラインでは占領したダンジョンを巡りギルド同士で対決することが一つのメインコンテンツである。 ダンジョン戦はダンジョンごとに決まった時間が定まっており、他の敵対ギルドから申請を受け付けると対戦が始まる仕組みだ。
人気のダンジョンではそれこそ毎日。
複数のギルドが同時に攻めてくることも。
「どこから……?」
「『牙の傭兵団』。 随分と大きいとこから宣戦布告がきたね!」
ピロロン。
ピロロン。
ピロロン。
「ほわっ!?」
連続するダンジョン戦通知にポニーテールの似合うスレンダー美人のギルドマスターは変な声を上げた。
「なぜっ!?」
彼女のギルドが保有するダンジョンは別段旨みのある物でもない。
複数のギルドが同時に、それこそ名の知れた大手ギルドがこぞって争うダンジョンではないのだが。
ピロロン。
さらに彼女に届くメッセージ。
内容はほとんど同じ物である。 一部ギルドメンバーに対する個人的な物も含まれていたが。
「あー、クラスチェンジの情報が漏れたみたいだね〜〜」
脅迫めいたメッセージ。
クラスチェンジに関する情報を公開しなければ、ダンジョン戦やPKの粘着をするといった悪質な物だった。
これらのメッセージを運営に送ればそれ相応の罰が送ってきたプレイヤーに下るだろう。 しかし、ポニテを揺らすギルドマスターは悪戯な笑みを向けるのみ。
「ふふ。 ちょうどいいね。 あとはファラオの心臓だけだし、今日のダンジョン戦でお披露目だよ――ノリオ君!」
ノリオ。
「はい!」
タマゴを抱える青年は元気な返事を返した。
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