三十一話:木の宝箱
【砂塵の地下迷宮】内部。
その構造は迷路状になっている。
探索。 松明の明かりは薄暗く狭い通路を照らす。 俺は砂色の壁を左に曲がり続けていた。
「ホオオオオ!」
「うっ!?」
ハイドスキルを使用し、モンスターを無視してソロ探索中。
シトリは信さんとハピさんペアに持って貰っている。
突如、ハイド中にもかかわらず一体のモンスターに襲われた。
「包帯男!?」
全身を包帯で包んだ人型モンスター。
盾とS字型の湾曲した片手剣を装備している。
コピシュと呼ばれる刀剣。 古代エジプトで用いられたとされる武器だろう。
「ホオオ」
「くっ!」
強い。
狭間は数が厄介だったが、地下迷宮はモンスター一体一体の強さが普通のダンジョンとは桁違いだ。
包帯男の不規則な剣筋。
躱しきれない。 その強烈な一撃にHPバーが大きく減少する。 防具を強化していなければ一撃で倒されていたかもしれない。
「はああああ!」
「ホオオオオ」
俺は前に出た。
速度自体はこちらのほうが速い。
不規則な攻撃も距離を潰すことで対処する。
連撃。
動いて、回って、斬りつける!
嫌がる包帯男。 盾の死角へと入ると、大きく振り回した。
「――バックスタブっ!」
必殺の一撃。
背後から紫紺のエフェクトを纏う短剣が、包帯男を捉える。
「ホオオオオ……」
光の粒子となって消えて行く包帯男を見て、俺は一つ溜息をついた。
「まだ地下一階だぞ……。 苦戦しすぎ」
階層が深くなれば当然敵も強くなる。
もちろん、PTでの探索が前提のダンジョンなので、ソロでは厳しいと感じて当たり前なのだが。
「ふむ……」
俺はメニューからマップを開いた。 入口からだいぶ左端に来ている。 自信が進んだ場所は明るく他は暗い。
自信が進んだ道以外にも、マップ上に明るくなっている場所があった。
PTメンバーの足跡。 マップ情報を共有しているのだ。
「ほんとに広いなぁ……」
他のプレイヤーに誰も会わない。
現状一階層からしらみつぶしに探索するような物好きは少数派だ。
「あれぇ〜? ノリオじゃない〜? き、奇遇ねぇ!?」
もしくはストーカーか。
「……」
「な、なによ? この私、鳳凰院一華様が声を掛けてあげてるのにっ、なんで無視するのよぉーー!」
こんなマップの端で奇遇も何もないと思うが。
ハイドしてたのによくついてこれたなぁ……。
「なんでここに?」
「新フィールドも手詰まり感が出てきたから、気分転換にね♪」
「それで後をつけてきたと?」
「そうなのぉ。 感知装備着けて〜ってあああっーー!?」
やっぱりつけてきたのか。
奇声をあげる、魔法少女。
フリフリのスカートに、ピンク色のツインテールとか、変態みたいな身なりなのに恥ずかしがっている。
顔は割と可愛い。 地下アイドルとしてならかなり人気が出そう。
まぁ妖精レフィーさんほどの神秘さは微塵もないのだけど。
「違うのよ!? ほんとうに、たまたま!!」
「はいはい」
それより感知装備ってなんだ?
ハイド見破る系の装備でもあるのか?
「あっ。 あそこっ! 宝箱よ!!」
「お。 ほんとだ」
初宝箱。
木の箱だ、長方形型で装飾は少なめ。
「木の宝箱ね〜。 まぁ序盤はほとんどこれね。 運がいいと強化石がでるくらいで他はゴミばっかり」
「へぇ……」
「もっと深くまで潜れば、宝箱もグレードアップしてくわ」
ペッタンコの胸を張り、魔法少女が得意げに説明する。
そしておもろに宝箱へと近づく。
「罠とかないの?」
「あっても大したことないわよ〜〜。 ほら、さっさと開けてどんどん行かないと時間ないわよ?」
そうだった。
地下迷宮は二時間の時間制限があるのだ。
「開けちゃおっと!」
「あ」
俺の初宝箱が!
「ふぇ!?」
そして、魔法少女は絡めとられる。
「触手モンスター!!」
トラップだ!
宝箱を開けた瞬間。 モンスターが飛び出し魔法少女をその触手で優しく絡めとった。
「はあんっ、ああっ! くぅっ、見ちゃらめぇえーー!」
残念ながら今回は小さいモンスター。
締め上げてもスカート捲れないし、ペッタンコだから食い込むおっぱいもない。
「今、助ける!」
俺は至って紳士に魔法少女を助けるのだった。
「あ、ありがと……」
一撃で触手モンスターを倒すと、小さな宝石を落とした。
通常はアイテムボックスに送られるはずのアイテム。 なぜかその場に残ってしまった。 へたりこんでいた魔法少女が立ち上がる。
「PT組んでないからね」
「組む?」
「いいの?」
「うん」
アルマたちに確認しないとだけど、たぶん大丈夫だろう。
メッセージで確認すればすぐに魔法少女へとPT申請がいったようだ。
「よろしくね! ノリオ♪」
「よろしく、ま、一華」
魔法少女って呼ぶと怒るから。
けれど、一華と呼んでも魔法少女は顔を赤くして俯いた。
馴れ馴れしかったかな?
俺たちのPTは新たな仲間を加え、地下迷宮探索を再開する。
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