二二話 ジャイド

『ゴブリンリーダー・残忍なジャイド(覚醒状態・狂乱)』




 覚醒クエストに来たら敵のボスが覚醒した件について。




 漆黒の宝玉を体に埋め込んだジャイドは緑色だった体色が漆黒に変わり、目の周りから波紋状に赤く線が浮き出る。 声にならない声を上げ、苦しみながら変化していく。


 


 なんだか聞いていた覚醒クエストと違う。


ちょろっとお使いクエストと討伐クエストをやったら終わりだと聞いていたのに。


こんな本格的なボスバトルとは聞いていないぞ?




「なんだありゃ!?」




「知らないわよっ!」




 慌てるゲンジとシャーリィ。


 それより、変身中に一発魔法をぶちかますのはどうだろう?


やっぱり、無粋だろうか。




「……くるぞ!」




 俯き涎をだらだらと垂らしていたジャイド。


顔を半分あげその真っ赤に充血した瞳をこちらに向けた。


 その瞳に移るのは殺意。


ただただ、殺意の塊をぶつけてくる。




「ギィアアアアアアアアア!!」




 禍々しい黒のエフェクトが迸る。


奇声を上げて突撃するジャイドは影のようにソレを纏う。


 


 繰り出される長槍の薙ぎ払い。


ゲンジは両手に持つ長剣で防ぐ。




「うああああっ!?」




「ゲンジっ!!」




 しかし、バキリと折れた長剣。


地面に激しく吹き飛ばされたゲンジ。 シャーリィは叫び、ミオはヒールライトの詠唱を始める。 




「――シッ!!」




 一瞬。


ジャイドの背後をとったシオンは両手に持つ短剣を振るう。


紫紺のエフェクトを伴うその一撃は、確実にジャイドの首元を捉えた。




 しかし、首は刎ね飛ばない。


ゲームであるが故に、必殺の一撃はボスへとダメージを与えるに止まる。




「ギィヤアアアアアア!!」




「クッ!」




 ボスの長槍による連突がシオンを襲う。


力任せな刺突が、猛烈なスピードで繰り出された。


 完全には避けきれない。 暴風のような連続攻撃に、シオンもまた吹き飛ばされた。




「――バックスタブ!!」




 俺は隙をつきジェイドの背後から【バックスタブ】を繰り出す。


 


 ミオのおかげでHPは全開。 スタミナゲージも戻った。 最大レベル二十まで上げた現状最強の一撃をジェイドへとお見舞いする。




「ぬあ!?」




 確実に背中へと命中させたはずの攻撃は、何かに弾かれたかのように手ごたえがない。


それでも構わず二度三度と斬りつける。




「ギャギャ!!」




「っ!」




 長槍の薙ぎ払い。


雄叫びを上げ、ジャイドの連撃が俺を襲う。


 嵐のような突きの連続攻撃。


回避以外の選択肢はない。 一撃でも貰えば危険だ。




 眉間がチリリと疼く。




「ぐっ、ぅ、くあっ!!」




 体を限界まで捻り躱し、腰を下げ膝を抜き躱す。


 態勢の限界。 


転がるように逃げてしまった俺に、ジャイドの突き刺しが迫る。




「ファイヤーピラー!!」




 地面に現れた魔法陣から発する炎柱がジャイドのを包み込む。


シャーリィのスキルに、ボスが一瞬ひるむ。




「ギャギャ!!」




「おらぁああ!!」




 折れた長剣の代わりに、片手剣を持つゲンジが突撃。


二度三度と斬りつけるが、やはり手ごたえがないのか顔をしかめバックステップで下がった。




「だめだ! まったく効いてる気がしねぇ!!」




「魔法の方が効きそうよ!」




 たしかに、炎柱は嫌そうに払いのけていた。


物理攻撃は何かに弾かれるように手ごたえがない。 あの影のような黒いオーラが怪しいのだけど。




「……神聖魔法を使います。 時間をください!」




 杖を手に一つ後退したミオ。


 神聖魔法。 どんな物か分からないが、時間がかかるらしい。




「おう!」




「……まかせろ」




「持ちこたえるよっ!」




 仲間の答えにミオは大きく息を吸い込み緩やかに息を吐く。 そして穏やかに詠唱を始めた。




「ふぅ……。 やるしかないな!」




 俺もまた一歩前に進みミオの前に。


ふるえるシトリは頑張れと、一つ二つ跳ねていた。




「ギャギャ……!」




 対峙するジャイドが詠唱を始めたミオを鋭く睨みつける。




『こっちだ!!』




 ゲンジのタウントスキル。


俺たちを無視して突撃しようとしていたジャイドを引き付ける。




「……防御に徹しろよ?」




「わかってる!!」




 ゲンジに一言かけたシオンは進み、俺もその後に続く。




「――躱せっ!」




 ジャイドの薙ぎ払い。


大きく躱せばまた連続攻撃に防戦一方になる。




 だから俺は――前に飛んだ。






「――はああああ!」




 強化された敏捷をもって一気に懐に。


 長柄武器相手に距離をとったら不利だ。 超接近戦。 短剣の小回りを活かして、至近距離で戦い続ける作戦だ。




「くっ!」




 攻撃自体はやっぱり手ごたえはない。 けれど暴風のような連続突きも来ることはない。




「ブレイズランス!」




「シャドウチェイン」




「ギャッ!?」




 炎の槍と漆黒の刃。


体の周りをハエの如く動く俺に、腕を振りかぶり叩きつけようとしていたジャイドへと放たれる。




「バックスタブ!」




 裏へ。


あまり効果はないが、俺も隙を突き攻撃を喰らわせる。




「ギャギャギャーー!!」




 俺たちは攻め立てる。


ジャイドの聞くに堪えない叫び声と、美しく紡がれる詠唱を聞きながら。


 


 長文詠唱を続けていたミオの足元に輝く魔法陣が浮かび上がる。


それはどこか不安定、けれど、杖を振り上げたミオは全力で唱えた。




『ジャッジメント!!』




 降り注ぐ無数の光の線。


その一つ一つがジャイドへと当たる度、爆発が起こる。




「――ギャッッ!?」




 ジャイドが纏っていた影が掻き消え、その顔を苦しみに歪める。




「いまだ!」




 ゲンジは叫び突進する。


ここが勝機だと雄叫びを上げて。


 ジャイドへと攻め立てる。






「バックスタブ!!」




 突き出した短剣。


防がれる感覚は無く、ジャイドの背を捉える。




「ギャッ……」




 水を得た魚のように連続を攻撃を繰り出し俺たち。


ついにはジャイドは長槍を落とし、光の粒子となって消えて行く。


 その後には黒い禍々しい宝玉が残されていた。




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