十二話:狭間
フリースペースに新たに追加されたスクリーンショット。
俺はそれを見つめポツリと呟いた。
「これはイカン……」
題名は『シトリと素顔のレフィーさん(水着姿)』
シトリにおっぱい様をのっけるレフィーさん。 完全にやばい。 本人がここを訪れることはまずないが、倫理として。
だって隠し撮りだもの……。
「気づいたら撮っていた。 本当に済まないと思っている!」
だがしかし、スクリーンショットは消去しないがな!
万一誰かに見られたら、コルルを撮っただけだと言い張ろう……。
俺は本日二度目のログインを意気揚々と、最初の時とは違った胸の高鳴りを感じながら、電脳の滝を登り光の世界へと溶け込んでいく……。
◇◆◇
これは盗撮をした罰だろうか?
「キエエエエエエ!!」
「ぬあっ!?」
耳をつんざくような咆哮。
俺は数多のモンスターに囲まれようとしている。
正確には多方向から押し寄せるモンスターを釣っているのだが。
「おかわりキター!」
「ん……!」
待ち構えるギルド『暁の月』の面々。
その中心に大鎌を構えるアルマがいる。
紅に発光する大鎌から一直線に紅の斬線が放たれた。
「クリムゾン・スラッシュ!」
アルマの一撃を機に、いくつものスキルが放たれる。
それは多くのモンスターを巻き込む砲撃であったり、燃え盛る弓の雨や氷の魔法の嵐であったりと、多種多様な攻撃が俺の横と上を通り過ぎていく。
「おっけー! あらかた片付いたね。 じゃ、予定通りに別れてくよー!」
「「「おお!」」」
現在、『暁の月』はギルハン中であった。
コルルオンライン最難関のダンジョンである『狭間の刻』にて。
ゲーム初日で来るようなダンジョンではないらしいのだが……。
「いい働きだぞ! ノリオ」
「はいー」
相棒の虎徹と共に参加中の信さん。
アルマもシュララと一緒だ。
俺もシトリと参加している。
何故かレフィーさんはコルルを連れていないが。
「大丈夫? ノリオ君。 嫌だったら嫌って言っていいのよ?」
「大丈夫です、ハピさん」
俺のことを心配してくれる唯一の人。
Happyさんだ。 ハピでいいと言われているのでハピさんと呼んでいる。
おっとり系美人のお姉さん。 信さんの彼女さんらしい。
「今回は随分と西側にきちゃったね〜〜」
「うん」
『狭間の刻』通称、狭間はフィールド型のダンジョンだ。
階層型のダンジョンと違って大きな一つのフィールドで構成されている。
フィールドは毎回異なり、出発点もランダムなのだとか。
一つのダンジョンを全てのプレイヤーで攻略する。
貢献度に応じてギルドポイントや個人ポイントが貰える。
八時間に一度行われるイベントダンジョンだ。
「まっ。 やるこたぁ、変わんねぇだろ?」
「うむ! ギルドポイント稼ぐよぉ!!」
「おぉ!」
「おー」
「はい!」
ギルドによって狭間の目的は変わってくる。
ギルドアイランドの購入、建物や施設のアップグレードに必要なギルドポイント稼ぎ。
通常では手に入らないレアアイテムの獲得。 ギルドメンバーのレベル上げ、などなど……。
『狭間の刻』自体のメインクエストは中央にいるボスの討伐らしいけど、未だに一度も倒されたことがないらしい。
『暁の月』は個々のメンバーで目的は様々。
ここでしか採取できないアイテムを採取するために奔走するメンバーもいれば。
メインクエストクリアの為に他のギルドのヘルプに行く人たちも。
「ライフフォース、ウインドフォース、エナジーフォース」
「ハイウェイスター」
レフィーさんのバフとバードであるハピさんのバフが掛かる。
バードはギターやマイクなど、音を武器とするクラスだ。
範囲魔法が得意。 個人的には吟遊詩人のほうが呼び方は好きなのだけど。
移動速度アップのバフが二重で掛かり、めちゃくちゃ足が速い。
オーガレイダーたちと違い遠距離攻撃やデバフを喰らう場合もある。
釣り役は意外と大変なのだ。
「ぬああああ!!」
新調した装備を使うこともなく、ひたすら釣り。
「ゲッ!」
「ブレッシング」
蜘蛛型のモンスターの糸。
一気に移動速度が遅くなるが、ヤバいと思った瞬間にはレフィーさんがデバフ解除のスキルを使っている。
「森を抜けるまで、ノリオは下がってろ!」
「おっす!」
代わりにと信さんが前に出る。
『押しとおる!!』
侍の鎧。
武者鎧と西洋甲冑を足して二で割ったような、普通とは少し違う鎧。
大太刀を構えヘイトスキル・タウントを発動させた。
「シィー! シィー!」
迫りくる蜘蛛型モンスター。 地を這うように大群が迫る。 大過ぎてちょっとキモイ……。
発射される白いネバネバが信さんに絡みつく。 それと同時、大太刀と信さんの体を空色のエフェクトが包んだ。
「燕返し――飛燕!!」
クラス・侍は近接防御クラスの一つであり、カウンターを得意としている。
白いネバネバのお返しとばかりに、振るわれた大太刀から空色の斬撃が返された。
「はぁああ!」
「ん!」
アルマとレフィーさんが敵の数を減らし、ハピさんの歌が戦場に流れる。
歌の効果で火力アップした二人はどんどん蜘蛛を蹴散らしていく。
俺も戦闘に加わろうと思うのだが……。
「ぐっ……!」
手に持つ武器はオーガレイダーのレアドロップ。
『レイダーダーク』 黒色の反りの入った短剣で扱いやすく軽い。
見た目も能力も木の棒とは比較にならないほどの武器なのだが。
いかんせんリーチが短い。
「シィー!!」
「っ!」
バックスタブを狙うも、蜘蛛の反撃にあいかけ地面を転がり難を逃れる。
「くっそぉ!!」
正面からの攻撃もまた、鋭い爪の攻撃と噛みつきに攻めきれない。
「やばっ……!」
無理をした。 鋭い爪と噛みつきをギリギリで躱し、反撃する作戦に出たのだが。
蜘蛛の糸を忘れていた。 尻。 正確には腹の先の糸いぼから繰り出された白いネバネバに俺は引っかかる。 体を拘束する糸。 ギラリと光る蜘蛛の赤い瞳。
「シィーー!」
ああ、死んだ。
そう思った瞬間。 颯爽と助けが現れた。
「キヒヒ!!」
「ぐるる!」
シュララと虎徹だ。
アルマさんと信さんのコルル。
シュララの太い足が蜘蛛を押さえつけ、虎徹の鋭い爪が切り裂いた。
絶妙のコンビネーションを見せ、颯爽と去っていく二匹。
「助かった……」
けれど、情けない。
尻もちをついたままの姿で俺は天を仰ぐ。
「え?」
そしてあり得ない光景に、情けなく叫んだ。
「ちょっ。 ――ええええええええ!?」
「なんだぁ!?」
「……ノリオ?」
俺の叫びに驚く信さんとレフィーさん。
そんなか蜘蛛を大鎌で切り裂いたアルマは天を見つめ驚いた様子もなく呟いた。
「おっ。 今回は早いね! 本気で攻略するのかな〜〜?」
空から落ちる巨大建築物。
それが塔型ダンジョンであると気づいたのは、目の前に轟音と衝撃と共に落下してきてからだった。
「さて、どうしようか?」
その問いを発するアルマの顔は、すでに答えの決まっている笑みを浮かべていた。
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