十一話:レフィー

 脱衣。


つまり服を脱ぐ。




「男女別々か……」




 『男』と書かれたのれんをくぐり脱衣所で一人ごちる。


混浴ならばレフィーさんの素顔が見れたのにな。




「まぁ裸は難しいけど」




 初期装備である布の服を脱ぐと、下着のトランクス一枚の姿になった。


別段鍛えられた体というほどでもないが、年齢相応の健康的な肉体が露になる。


 アバターの体型は現実とほぼ変わらない。 多少腹をへこませたり、AからBに変わる程度の変更幅だ。




「お〜〜! 広いな」




 森に囲まれた露天風呂。


中央の大きな岩のオブジェからお湯が滝のように流れ落ち。 あたりに湯気を立ち込めさせている。 




「ふぁああ……」




 気持ちいい。


体を洗ずに肩までつかり足を延ばす。 汗や汚れはないので問題ない。


 思わず声が漏れてしまう。




 俺はシトリを湯船に浮かべ全身の力を抜くと、湯船に浮かぶようにゆっくりと目を閉じた……。






「……気に入った?」




「――!?」




 人の気配。


すぐそばから聞こえた声。


 女性の物でどこか聞覚えが……!




「ふぅ……気持ちぃ……」




「……」




 レフィーさんだ。


なぜだ? 実は男性なのか!?


 俺は目を開けるのが怖くなり、しばらく目をつぶっていた。




「……寝ちゃった?」




「いえぇええ!? 起きてます!!!!」




 近いっ! 寝ているかどうかを確かめようと、眼前で手を振るレフィーさん。


距離感近いです。 急接近したレフィーさんからいい匂いがした。


 


「はふぅ……」




「!」




 浮かんでる。


俺は意を決して目を開け隣を確認した。


 その飛び込んできた光景に目を奪われ、心臓が跳ねるように全身に血が送られたのが分かった。 リアルの俺の心臓は凄い勢いで動いているに違いない。


 だって、おっぱい様が浮かんでいるのだもの。




「……ノリオ?」




「す、すいません!」




「ん? ……シトリは?」




「あ、ああ。 あそこです!」




 レフィーさんのおっぱいと同じく湯船に浮かんで楽しんでいるシトリ。




 しかし、重鎧の下はまさかの巨乳である。 もちろん下着はつけている。 たぶん水着だと思う、青色のしましまの水着だ。 透き通るような白い肌にほんのり赤くなる胸元がセクシー。


 ちなみに、鉄仮面はつけたままだけど。




 鉄仮面に水着とか、マニアック過ぎるだろ!?




「仮面は外さないんですね……?」




「ん、忘れてた……」




「え!?」




 あっさりと。


あまりにもあっさりと脱いだ鉄仮面に、驚きの声を漏らした。


それに……。




「妖精……!」




「ん……どこ?」




 鉄仮面から妖精が生まれた。


何を言っているか分からないと思うが、目の前に巨乳の妖精がいるのだ。




 透き通るような白い肌、お湯で濡れた前髪をかき分け見える大きな瞳。


青いその瞳は妖精を探しキョロキョロと動く。 幼い顔立ちながらホリが深く、日本人離れした妖艶さを持っている。 




「ふぁ!?」




 巨乳妖精は妖精を探し立ち上がる。


鎧に守られ分からなかったレフィーさんのスレンダーでダイナマイトなボディが露になった。


 水色の水着はお尻部分にフリルがついているが、太ももが……。




(エロい!)




 プラチナブロンドの長い髪。 俺がその美しさに目を奪われているのも知らずに、レフィーさんは温泉の中を歩き浮かんでいるシトリの場所まで行くと振り返った。




「妖精……いない……」




 代わりにとシトリを抱きかかえる。


ふるえるシトリ。 ブルブルするレフィーさん。




「温泉……最高っ!」




 俺は親指を立ててシトリに拳を突き出した。




「……いない」




 


◇◆◇






 温泉から上がりギルドホームである城に帰る。


隣を歩くのは鉄仮面。 


 


「レフィーさんって、ハーフなんですか?」




「うん」




 だから喋り方に変な間があるのか。


「なんでいつも鉄仮面を?」 そう聞きたかったけど、複雑な理由だったら困るのでやめる。


もうちょっと仲良くなったら聞いてみよう。




「ノリオ。 ……この後は?」




「一度ログアウトして、ご飯食べます。 リアルで」




 トイレとかも済ませないと、健康に悪いしな。


体も少し動かしてゴハン食べて家事もやらなきゃ……。 一人暮らしはやることが多いなぁ。


 俺は次にインできるのは二時間後くらいと伝える。




「そっか。 じゃ……後で」




「はい!」




 俺はメニューを操作し、ログアウトを行う。


と、その前に一つ気になっていたことを。




「ログアウトするとシトリはどうなるんでしょう?」




「ん……設定できる。 ギルドの牧場か、預り所」




「そうなんですね」




 じゃギルドの牧場でいいな。




「……またね」




「はい、またあとで!」




 俺はシトリとレフィーさんに見送られながらログアウトを行った。




 


 ノリオが落ちた後。


レフィーは自室へと戻る途中アルマに出会う。




「あれ、ノリオ君落ちたの?」




「うん。 メシ落ち……」 




「そっか。 でも、良かったよー! レフィー人見知りだから、あんなすぐ一緒にPTしてくれると思わなかったなぁ〜〜?」




 温泉までねぇ? とニヤニヤ笑うアルマにレフィーはプイっと鉄仮面を赤く染め去っていく。




「ふふ、ほんといい子見つけちゃったなぁ〜〜♪」




 楽しそうに笑うアルマ。




「鉄仮面の卒業も近いかな?」




 去っていくレフィーを見つめるその瞳は、手のかかる妹を見る姉の眼差しを向けていた。






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