十話:侍と虎とゴハン

 それにしても疲れた。


ゲーム開始から六時間は狩りっぱなし。


 久々なのに少し無理しすぎたかなぁ。




「ふぅ……」




「ノリオ……お疲れ……?」




「っ!」




 俺の部屋から出ると入口の横にレフィーさんが立っていた。


もちろん、鉄仮面の重歩兵姿だ。




「あ、あはは。 ちょっとだけですよ?」




「……ごめん……無理させちゃった」




 表情の変化は分からないが声は申し訳なさそうだ。


ちゃんと気とか配れるんだなぁ。 狩り中は容赦がなかったけど……。




 レフィーさんはプリースト。


しかも、回復職でありながら盾役であり火力役でもある。


 何を言っているのか分からないと思うが、事実そうだ。




「……ついてきて」




「はい」




 ワンマンパーティー。


一人でPTをこなしちゃうのだ。


 そんなレフィーさんに連れられギルドアイランドを進んでいく。




「よう、レフィー。 新人か?」




「うん……」




「こんちわー。 ノリオです」




 侍。


侍が虎に餌をやっている。




「よう。 俺は信。 見ての通り侍だ、よろしくな?」




 また濃そうな人が現れた。


信さんはクラス・侍なのだろう。


 チョンマゲというわけではないが、黒髪を上で束ねている。


着流し、いや、雲の模様の入った羽織を着ている。 帯にさす刀がクールだ。


 顔が疲れ切ったサラリーマンみたいにコケているのも侍っぽい。




「こっちは相棒の虎徹。 見てくれ、この毛並み。 素晴らしいだろっ!?」




「は、はい……」




 虎徹はまさに虎といった黄金と黒の縞模様。


たてがみが長くサラっとしており、信さんが恍惚の表情で撫でている。




「……おいで」




「ぐるるる!」




「こ、虎徹ぅうう」




 レフィーさんが手を差し出すと勢いよく離れる虎徹。


あれ、信さんの守護獣相棒ですよね?




「くっ! 俺が仕事に行っている間にまた餌付けしたなっ!?」




「美味しいの……あげた」




「ぐぅうううう!」




 虎もネコ科だから、美味しい餌をあげる人のほうがなつくのかね。


そういえば、シトリは何か食べるのか? 口あったっけ?


 手に持つシトリはふるえるだけだ。




「行こ」




「は、はい……」




 虎徹もついてきてるけどいいんですか?


 


 信さんの叫びを無視してレフィーさんは歩き始めた。


草原を抜け、森に入る。 さわやかな木々の音色が聞こえてくる。 歩きやすい森の道を進んでいくと、小屋が見えてきた。




「ログハウスですか」




「うん……キャンプできる」




「いいですね!」




「ん……」




 ログハウスの近くはきちんと整地されていて、木製のイスやテーブルが置かれている。 調理台や水道もある。 ほんとにキャンプ場って感じだ。




「……ゴハンにしよ?」




「おお!?」




 ちょっと目を離した隙にテーブルに豪華な食事が。


アイテムボックスから出したのか? 作りたてのように暖かそうな湯気がたっている。




「「いただきます」」




 ここで食べても現実で腹が膨れるわけではないのだが。




「うまい!」




 美味しい食事はやっぱり癒される。


味覚や嗅覚もしっかり再現されている。 美味しい食事を食べるだけにゲームをやる人もいるらしい。 いくら食べても太らないしね!




「シトリも……」




「え、食べられるのかな?」




 虎徹はガツガツと餌を食べている。


それと同じようにシトリの前にも置いてみる。




「おお!?」




 開いた。


殻は口のように開き、体を傾け食べ始めるシトリ。


 美味しいのか、お腹が減っていたのか、飛び跳ねて喜んでいる。




「シトリ、可愛いい……欲しい……」




 表情の変わらないはずの鉄仮面が物欲しげにシトリを見つめている気がする。




「ちょうだい……?」




「ダメですよ!」




「ちぇ……」




 そもそもコルルはあげられるのか?




「無理……。 卵の状態ならできる……」 




「そうなんですか……?」




 シトリはどうなるんだろうか?


卵と言えば卵だが。 一応、孵化はしているし無理だろうな。


 そもそも手放す気もないけれど。




「あ! そいうえば、シトリのレベルが上がってなかったんですけど、どうしてでしょう?」




「ん……昇魂あげた?」




「昇魂……あっ」




 狩りのドロップで昇魂(小)と昇魂(中)を大量にゲットしてたな。


重さもないアイテムだったのでそのままアイテムボックスに入れたままだったのだけど、これが必要なのか。


 俺は試しにアイテムボックスから一つ昇魂(小)を取り出してみる。


それは淡い光を放つ魂のよう。 掌の上で浮遊するそれをしばし眺めるが何も起きない。




「どうすれば?」




「近づけて」




 言われるままシトリに昇魂(小)を近づける。




「お……」




 昇魂(小)は一度崩れ、シトリの周りを浮遊し溶け込んでいく。


シトリの体(殻)が僅かに淡く光る。




「見てみて……」




「シトリ・ステータス」




―――――――――――――――


名前:シトリ


種族:守護獣 卵型


レベル:2




HP:10


MP:10




力:1


体力:1


敏捷:1


器用:1


知力:1


精神:1


SP:0→5




スキル:【幸運Lv.1】【鼓舞Lv.1】【ふるふるLv.1】


スキルポイント:1




物理攻撃力:1


魔法攻撃力:1


クリティカル:2倍


攻撃速度:1




物理防御:0%


対火炎属性:0%


対風雷属性:0%


対水氷属性:0%


対土岩属性:0%


ダメージ軽減:0%




―――――――――――――――






「おお、上がってる!」




 昇魂(小)を一つ上げただけで、すぐ一レベル上がった。




「コルルはレベル百までだから気を付けて。 百になると……進化できる……」




「進化!」




 いいね! 憧れる響きだ。




「大きくなっちゃうから……しなくてもいいよ?」




「ええ?」




「シトリ可愛い……」




 いや、たしかに可愛いけど。


進化すれば一緒に戦えるかもしれないしなぁ……。


 させない手はないでしょー。


 シトリも進化したいのか、抗議するようにふるえながら飛び跳ねている。




「温泉……入る?」




「温泉? あるんですか??」




「うん。 ウチのギルド自慢のアクティビティだって……アルマが無理して造った……」




 温泉かぁ。 いいなぁ。


一人暮らしになって狭い浴室でしかお風呂入ってなかったからな。


 実家の時は風呂好きの両親の影響でよく温泉とかスーパー銭湯にいったものだけど。




「あ……シトリ、温泉タマゴになっちゃう?」




「なりませんよ!?」




 レフィーさんは冗談だったのか鉄仮面の前に手をやり笑っている。




 鉄仮面でボケるのはやめてほしい。


一瞬ガチなのかと思っちゃうから!


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