六話:バトル
アルマの誘いにYESと答える。
一瞬。 光に包まれたと思ったら、まったく違う場所に立っていた。
「う?」
目の前にいる美人。
控えめな胸に美脚と美尻の持ち主――アルマだ。
それはいいのだが、他のこの人だかりはなんだ?
「おお! それが新しい守護獣!? ほんとにタマゴだな!」
「ねぇねぇ、どんな能力なの?? 教えてよっーー」
質問の嵐が……。
シトリ目当ての人たちに囲まれている。
くっ、誰だッッ! 今尻を触った奴がいたぞ!?
「はいはいー。 質問は後にして~~。 相手も来たみたいだから」
男性プレイヤーにもセクハラ警告みたいの欲しいんだけど。
男女差別だ!!
「おうおう! 逃げなかったみたいだなぁ!? ぞろぞろ金魚のフンみたいに集まりやがってよぉ~」
魔法陣が光り輝き、その場所に集団が現れた。
恐らくコールで転移してきたのか。 俺もあんな感じだったのかなぁ。
集団の中心で叫ぶ人物。
ゴテゴテしたプレート装備に身を包み、後ろで縛った金髪が鼻につく。
手に持つのはキラリと輝く白銀の大盾、腰には長い剣を。
見るからに強そうな装備を身に着けた男が偉そうに罵っていた。
「三本牙のエンブレム、『牙の傭兵団』かぁ。 たしかに大手ではあるな」
「誰でも入れるとこだけどな」
「どっちが金魚のフンかにゃ」
一触即発。 なにやら怪しい雰囲気だ。
場所も円形闘技場のようだし。
観客席つきの立派な闘技場。 周りを囲む壁と床は砂地、余分な物は無くただ戦いに集中できる場所。 古代ローマの闘技場のような静謐な雰囲気を持っている。
「バトルは一対一、全損、アイテム使用不可。 戦いはライブするが文句はねぇよなぁ~~?」
「問題ないよー」
闘技場の中心ではアルマと男が会話を進める。
剣を抜き挑発するように盾を鳴らす男。
対してアルマは気楽に、余裕の笑みを浮かべている。
「ライブ……?」
「ライブは動画の生中継のこと。 ダンジョン戦や闘技場のバトルを流したりする。 趣味で日常動画を上げたりもするね。 ……恐らくあいつはライブの知名度を上げるために掲示板を利用したのかな?」
シトリを興味深そうに観察していた眼鏡の青年。
ボソリと呟いた疑問に早口で答えてくれた。
「おっ……」
それと同時。
バトルが始まったようで観客席に転移させられた。
「クラスはナイトかスレイヤーかな。 プレート装備にHP上昇系OP積み。 盾と剣のテンプレダンジョン戦用キャラ」
眼鏡の青年の解説が続く。 説明好きなのかね。
観客席に移るとアルマと男のHPバーが見えるようになった。
「それに対して……アルマさんは面白いね」
アルマは大鎌を取り出し構える。
細身の彼女が大きな鎌を担ぐように構えるのは変な感じだ。
ゲームならではのアンバランスさ。
「クロース装備、つまりは布装備なんだけどね。 火力特化のメイジぐらいしか使わない紙防御だよ。 ……よっぽどディフェンスに自信があるのか、あるいは……」
アルマの装備は出会った時と同じ、いや、手甲をつけてるか。 本当に最低限の防具だけ。
あとポニーテールを結ぶリボンが変わった?
◇◆◇
「ふん! そんな見かけ倒しの装備しやがって……。 大恥かかせてやるよ!!」
「ふふ、よろしくね?」
カウントダウン。
二人が言い終えるやバトルは始まる。
先手を切ったのは盾を持つ男。
盾を前で構え彼我の距離を一気に詰める。
突進の勢いを利用し突き技を繰り出した。
「シッ!!」
「ふっ!」
アルマは器用に大鎌を使い突きをいなす。
突きを躱された男は動揺した様子はなく、むしろ下品な笑みを浮かべ剣を振るい始める。
「はっはああ! そんなゴミ武器でいつまで耐えられるかなぁあ!!」
怒涛の連撃。
剣を振り回し、アルマが離れれば盾を押し出し距離を潰す。
距離を詰め手数でアルマに攻撃させないつもりなのか。
意外と堅実な戦い方の男。
大鎌と手甲で防ぎきれないダメージがアルマに溜まっていく。
「ん?」
それと同じく、アルマの背中に赤いエフェクトが溜まっていった。
円を描き文様が浮かび上がる。 それとは別にアルマの体を淡い赤い光が包む。
「アルマさんはクラス・バーサーカー。 特性としてHPが減るとダメージが上昇する、体を包む光がそれの状態。 背中のエフェクトは装備かな? 効果はなんだろう……」
無敵かな? と、青年の早口解説が進む中。
バトルが動き始める。
「ぐっ!」
「はああ!」
拳打。
大鎌を防御に使い、拳と蹴りを喰らわせる。
映画の中国拳法を思い出させるような。
独特の動きから繰り出される最小の攻撃。
男の隙を的確に射貫く。
「うぜぇ! 効くかよ、そんな攻撃!!」
激昂する男の言葉通り。
男のHPバーの減りは鈍い。
しかし、手数で押す算段だった男の攻勢はピタリと止まる。
バトルは互いに牽制し合う読み合いに。
「ちっ!」
男の突き出した盾を蹴りアルマが距離を取る。
それは逃げるための距離ではなく、大鎌の攻撃のための距離だ。
「フューリーレイジ!」
アルマの詠唱。
大鎌から怒りを現した紅のエフェクトが発生する。
三種目のエフェクト。
まるで赤いコートを纏うようなアルマが大鎌を構えた。
「シールドレイジ!」
対して男は盾を構え、詠唱する。
盾から発生した青いエフェクトに全身が包まれた。
盾の影で構える剣が、アルマの攻撃後の隙を狙い碧の輝きを集める。 カウンターを狙っているのだ。
観客席の喧騒は消え。
一瞬の静寂の中、アルマは疾駆する。
「んっ――――」
斜め下に構えた大鎌が振るわれる。
男は腰を落とし盾を構えて、次に来るであろう衝撃に備える。
盾で隠した顔は歪に笑みを作る。
(この攻撃を凌げば――俺の勝ちだ!)
大型武器は攻撃後の隙が大きい。
その隙を狙い必殺を繰り出す算段か。
「?」
こない。
「クレッセント・リッパー」
男がそう思った次の瞬間には、アルマの穏やかな死を告げる詠唱が耳朶に届いた。
「――がっ!?」
男の胸を突き抜ける紅に光る刃。 致命打を表す閃光が走っている。
盾は抜けられていない。 背後からの一撃だ。
「バ、馬鹿なぁ……!」
HPバーの消失と共に男は粒子となって砕け散る。
コルルオンラインにおける死亡エフェクト。
バトルの勝者が決定した瞬間だ。
「ふふ、意外とおもしろかったよ? 大手ギルドの田中さん」
◇◆◇
大鎌の軌跡が宙に円を描く。
紅の斬撃は男のプレート装備を易々と貫き、その胸に紅の刃を生やした。
男の死亡と共に闘技場に歓声が響く。
かなりの数の人が観戦していたらしい。 天にも届く大歓声だ!
「おお!」
俺もその一人となって感嘆の声を上げる。
終わってみれば一撃。 大鎌による攻撃は一撃だけだった。
「無敵利用の大技狙いかとおもったけど……威力強化、超攻撃型か」
眼鏡の青年も興味深そうに見つめていた。
敗者の男の連れたちは慌ててスクロールを広げ消え去る。
勝者のアルマには人々が駆け寄り、賛辞と次の対戦の申し込みが贈られる。
「それでその守護獣だけど!」
「君可愛いね……。 どうかな俺たちのギルド『マッスラウ』に入らないかヤラナイカ?」
「やだ、この子。 凄いブルブルしてる……!」
さらに俺までかこまれてしまう。
ふるふる震えるシトリに、筋肉男に迫られブルブル震える俺。
「ノリオ君お待たせ! ちゃんと、見ててくれた? お姉さんかっこよかったでしょ~~」
「は、はい!」
声をかけてくれたアルマに俺は全力で駆け寄る。
まるでアパートで留守番させられた飼い犬が帰ってきた飼い主に甘えるように全力で。 アルマの背中に隠れる。
「ふふ、いい子ね。 ……そういう訳だから、ウチの子にちょっかい出さないでね?」
ウチの子?
アルマの一言に、集まっていた人たちが苦虫を噛み潰したように去っていく。
熱烈な視線を送る筋肉も去っていく。 その姿に俺はホッと胸を撫でおろす。
「無所属だと勧誘が大変よ~? 新守護獣なんて持ってたら特にね」
大鎌と手甲を外したアルマ。
どうやらもう対戦はやらないようだ。
「よかったらウチに入る? まったり自由なギルドだから、気楽でいいわよ??」
ギルドか。 勧誘され続けるのも面倒だし、アルマもいい人だし、美人だし……。
ニコリと手を差し出したアルマ。
俺は簡単にその手を取ってしまった。
「良かった! 歓迎するよ、ノリオ君。 ギルド『暁の月』へようこそ!!」
+++++++++++++++++++++++++++++++++++
アルマからギルドへ勧誘されました。
ギルド『暁の月』へ入団しますか?
YES/NO
+++++++++++++++++++++++++++++++++++
俺は届いたメッセージにYESと、答えた。
まったり自由なギルドにいる、【鉄仮面】の廃人様に出会うとも知らずに……。
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