12-2

 しばらくぶりにニックの野郎が姿をみせたのは、それから数日後のことだった。たまたまやつが電話をしてきたときに俺がトイレに行っていたせいで、クリスが電話をとっちまったからだ(着信画面に表示されたやつの登録名について、俺はあとでクリスに怒られた)。

 出先でやつがほかの教会に行けるわけもなく、また聖別されたワインを飲み干したあとで、

「ここしばらくのあいだに何事もなかったといいが」と聞いた。

 クリスが夢魔と魔女の話をかいつまんで話し、ご丁寧にも、

「あなたのご忠告のおかげです、ノーランさん」と言ったので、高慢ちきな吸血鬼野郎は得意そうににやりとした。

「それはよかった。実をいうと気が気でなかったんだ、“清酒さけに度を越した喧嘩あらそいに、そなたの真白い肩のきずがついたか、あるいにあの若者が燃えて、そなたの唇に歯で消えぬしるしをつけたかと――”」

「うるさい、もうあんたのバイロン気取りには騙されないぜ、この野郎」

 俺が歯をむき出すと、ニックは片眉を上げた。

「残念。ホラティウスだ」

「……へぼブラッディ詩人め」

「そりゃそうさ、偉大な詩人は全員アイルランド人だからな」

「ねえクリス、もし大学行けるんなら神学部か哲学科かなと思ってたんだけど、いつかこいつの鼻をへし折ってやれるなら、文学部もいいかもな」

「奨学金をもらえるくらい勉強したらね」

 クリスはあきれ半分て感じで微笑んだ。

「哲学は醜悪で曖昧、法と医学は愚か者向きだ、だが三つの中で最も卑しいのは神学、不愉快で雑で卑劣で邪悪だ。経済学部でMBAをとってコンサルティング・ファームに就職して、ご神託を垂れたまうんだな、デルフォイよろしく」

「そうだね、あんたを見てるとつくづくそう思うよ」

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