10-2

 十二月二十五日クリスマスのミサには、スミスの息子さんは母親と、それからアル中のハワード爺さんを車に乗せてつれてきた。自分は仕事があるからってすぐ戻っちまったけど。

 親父さんの遺体をニックにぼろぼろにされるし、サンクスギビングもクリスマスにも仕事が入っているといい、ほんと不運な人だよな。祝日に仕事を押しつけられるのは、絶対独身だからだぜ。

 クリスは雪みたいに白いカズラをけて、今年新しく教会に迎えた人たち――幼児洗礼をした子供たちや引っ越してきた人たち(その中にニックが入っていないことを祈ろう)、それから、再び教会に戻ってきた人(ハワード爺さんみたいな)と一緒にクリスマスこの日を祝うことができて嬉しい、という説教をした。

 そのとき俺のほうをちらっと見たので、ああ、そういえば俺が教会に厄介になることになったのも去年の今頃だったと思い出した。あのときも同じくらい寒かったっけ。そんでもってもっとずっと落ちつかなかった。

「ディーン!」

 ミサが終わったあと俺を呼んだのはスミスのばあさんだった。冷えるのか、ピンクと紫の毛糸で編んだばかでかいショールにくるまっている。

「メリークリスマス、スミスさん」

 俺はパーカーのポケットから小さな包みを取り出して未亡人に渡した。

「なあに? わたしに?」

「うん」

「開けてもいい?」

「もちろん」

 ばあさんはやわらかい果物の皮でもむくみたいに、すごくていねいにラッピングをはいだ。中からちっちゃな教会が入ったスノードームが出てきたとき、彼女は甲高い声で叫んだ。

「まあまあ、なんてきれいなのかしら! ――あら、オルゴールもついているのねえ」

 ベタだが、『もろびとこぞりて』だ。

「気に入ってもらえたら嬉しいんだけど」

「気に入らないわけがないわ、あなたはなんていい子なんでしょう!」

 ちょっとかがめと手まねきされたので腰を折ったら、ばあさんは俺の両頬にキスをした。そんなことされたのはおふくろ以来だったので、俺はすごくどぎまぎした。

「こんなおばあちゃんにキスされるのは嫌だった?」スミス夫人はコロコロ笑った。

「いや、そういうわけじゃなくて……」

「そうそう、わたしからもあなたにプレゼントがあるのよ」

 ――俺に?

 ばあさんはバッグからでかい包みを出してよこした。

 開けてみるとセーターだった。くすんだブルーで、襟と袖口に黒いラインが入っている――手編みの。

「あなたいつも薄着で、寒そうでしょう、だからね。うちの子が学生時代に着ていたのを参考にしたのだけど、サイズは合うかしら」

 言われるままに当ててみると、腕の長さがちょっと足りなかった。

「……ごめん」

「全然問題ないわ。編み足せばいいんだもの。そうよねえ、あれだけ食べていれば、男の子はすぐ大きくなるわよねえ……」

 スミスさんは妙に感心したように何度もうなずいていた。

 そこへ、着替えたクリスが戻ってきた。

 俺とばあさんの表情から、プレゼント交換が終わったのを察知したんだろう、俺に向かって微笑んだ。

「さっきのスノードームだけどね、クリスも一緒に選んでくれたんだよ」

「あらあら。わたしには天使がふたりもついているってことね」

 クリスはそうかもしれないが、俺はまたべつのものだけどね。

「スミスさん、あなたと息子さんにはたいへんお世話になっていますので……」

「それはお互いさまじゃありませんか。男手ひとつで、食べ盛りの男の子のめんどうをみるのは大変ですよ、神父さま。神様のおかげで、ディーンはそりゃあ気立てのいい子でしょうけどね」

「もちろんですよ」

 そこまで断言されるとかえってケツがムズムズしてくるな。

 スミスさんはクリスにも贈り物があると言って、ひとまわり小さな包みを差し出した。

「ディーンにセーターを編んでいたら、時間が足りなくなってしまったの」

 それはきれいなグレーの、シルバーといってもいいくらいの、すごく細くてふわふわした毛糸で編んだマフラーだった。天使の髪みたいでしょう、とばあさんは言った。おふくろのたてがみの色にちょっと似ている。

「とてもすてきです――ありがとうございます、スミスさん」

 クリスは言って、そつなく、未亡人のほっぺたに、フランス人みたいに音を立てるキスをした。

「主の祝福があなたがたの上にありますように!」

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