Gloria in excelsis Deo

10-1

 クリスの言ったとおり、クリスマスの準備は飾りつけやらカードのやりとりやら買い出しやらで死ぬほど忙しかったが、教会の前と祭壇の横に飾られる、赤ん坊のイエス・キリストとその親父とおふくろ――マリアとヨセフ――のフィギュアを見て、プレゼントには自分もあんな赤ちゃんの人形がほしいとねだる女の子や、帰省した大学生の息子をハグする家族なんかのおかげで、大変さはちょっと報われた。クリスはもちろんお祈りに忙しかったが、スミスのバアさんたちと手分けして、侍者の男の子たちなんかに配るジンジャーブレッドクッキーを焼いた。

 いつもより多くて明るく見える、甘い匂いのする蜜ロウソク、目立つ家族連れの姿、力の入った聖歌があっても、古くさくて働きがわるい暖房設備のせいで、教会の中はお世辞にも居心地がいいとはいえなかった。ある場所は汗が出るほど暑いのに、べつの場所はケツが凍るほど寒いって寸法だ。

 俺はちょうどいい温度を求めてあちこちうろついたあげくみつけた、一番左側の後方列に陣取っていて――気づいたら全部が終わっていた。

「――ディーン、起きなさい」

 肩を揺さぶられて目を開けると、紫の幄衣カズラを着たクリスの、苦笑をうかべた顔があった。

「……今何時?」

「午前一時を少し回ったところかな。もうみんな帰ったよ。さすがにお前をベッドまでおぶっていくのは無理だからね。……教会に来てはじめての降誕節アドベントだったから疲れたんだろう?」

 俺は居眠りの途中で起こされた気怠けだるい感じをうっとうしく思いながら立ち上がった。好奇心とお菓子につられて参加するなんていうんじゃなかった。さっさとあったかいベッドに倒れこみたい。

 さっきまで歌声が響いていたと思ったのに、今は本当に誰もいない。馬小屋の中の聖家族像の前のロウソクだけが明るい。

 外に出ると雪が降っていた。雪のせいで、夜が銀色に光っているみたいに見える。

「明日……つうかもう今日か、もミサやるんだよな?」

「そうだよ」クリスは全然疲れてないみたいだった。背筋がしゃんと伸びてる。「だけど、お前は無理に出席することはないからね」

「……いや、出るよ」俺は自分の部屋のドアを開けながら、クリスのほうをふりかえった。

「おやすみ。……あと、メリークリスマス」

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