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 To:regina_fortune₋telling@gmail.com

 Title:貴店の顧客に関するお尋ね

 Subject:

 デメトリオウ様


 私はロックウォール高校でカウンセラーをしているマクファーソンと申します。

 貴店の情報をホームページより拝見しメールをお送りします。


 このたび、ある女子生徒の保護者より、

 貴店を訪れた後に精神的に不安定になる兆候がみられたと相談を受けております。


 エーデルスタインの名前が貴店の顧客情報にある、

 もしくは貴女に心当たりがおありでしたら、

 一度お電話でお話を伺いたく、

 電話番号をお知らせくださるようお願いいたします。


 C.McPherson


◇◆◇◆◇◆


 To:c.mcpherson@rockwall.ac.us

 Title:Re:貴店の顧客に関するお尋ね

 Subject:

 親愛なるマクファーソン様


 ご連絡いただけて光栄です。


 大変残念ですが、貴方もカウンセラーだとおっしゃるなら、

 お会いしたこともないかたに、

 顧客クライアントの情報を電話で明かすことなどしないとおわかりでしょう。


 ですが、貴方と貴方の大事な生徒さんがお困りということでしたら、

 こちらもビジネスですから、

 できる限りのご協力をするにやぶさかではないと申し添えます。


 Regina.D


◇◆◇◆◇◆


 To:regina_fortune₋telling@gmail.com

 Title:Re:Re:貴店の顧客に関するお尋ね

 Subject:

 協力と、その方法というのは?


◇◆◇◆◇◆


 To:c.mcpherson@rockwall.ac.us

 Title:Re:Re:Re:貴店の顧客に関するお尋ね

 Subject:

 貴方がおひとりで、

 こちらの指定する場所においでいただけるということでしたら、

 喜んでお話しいたします。


 別に女性とふたりきりになったからといって、

 貴方の貞潔には何の影響もないでしょうし、

 それよりも大切なものが貴方にはおありであろうと私は確信しています。


◇◆◇◆◇◆


「行かないよね?」

 モニターをのぞきこんでいたディーンが心配そうに聞いた。

「いくらメルのためだったとしてもさ……」

「行くつもりはないよ」私は答えた。

 こちらには魔女の魔法に対する防衛手段がほぼ無いといっていい。メルの関心がディーンに向いていて、私への注意が散漫おろそかになっていたのは不幸中の幸いといえるかもしれない。

「彼女はこちらに協力する気はないみたいだし――取引するつもりはあるんだろうけど、髪の毛一本、血の一滴でも渡したが最後……ええと、こういうときはなんていうんだっけ?」

「ケツの毛までむしられる?」

「そうそれだ。おまけに私が神父だというのもバレている。それなのに、こちらには使えるカードがほとんどない。本名かどうかもわからない名前、いるのかいないのかわからない店、ミス・エーデルスタインの日記にあった容姿の記述と、メルが渡した品物で、彼女が“なにか”をしたらしいということだけ……」

 〈セレンディピティ〉の店主は、占い師の女性が店にいたことすら覚えていなかった。

「それって、素手で世界チャンピオンと殴り合うみたいなもんじゃない? 俺には魔女の術は効かないんだろ? 俺に行かせてくれたらなんとかできるかもしれないよ」

 どうやら彼は『ヘンリー五世』の猟犬グレイハウンドのように勇み立っているみたいだった。

「お前をこの種の危険には巻き込みたくないんだよ。彼女のいう、“それよりも大切なもの”がどこまでを指すのかわからないんだからね……」

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