Thanksgiving Day
8-1
俺が一年で一番好きなのは十一月の第四木曜だ。学校は休みだし、なにより飯が腹いっぱい食える!
今年の
「クランベリーソースをいちからつくるなんて、人生で二度目だよ」
手にミトンをはめて、スミスのばあさんと一緒にキッチンから出てきたクリスは、肉の焼ける香ばしい匂いとベリーのソースの甘い匂いがして、おまけにふりふりひらひらの花柄のエプロンをしていたので、俺は爆笑した。
「そう、去年はね、レオーニ神父さまがいらっしゃらなかったでしょ。それであなたは
「……すみません」クリスは顔を赤くした。一応気にしてはいるみたいだ。
似合ってると思うけどな。
「いいのよ、だって去年は息子がいたでしょ、でも今年は勤務だっていうから。ええ、市民を守る大切な仕事をしているんだもの、文句を言ったら
スミス夫人がテーブルに皿を並べていく。コーンブレッドと栗を詰めた七面鳥のローストとクランベリーソース(もちろん付け合わせの野菜も)、山盛りのベイクトビーンズ、マッシュポテトにはグレービーソースで、バターのいい匂いがするニンジンのグラッセ、それからチーズがたっぷりかかった、エビとマッシュルームのグラタン!
「それに、ディーンがきてくれたから」俺のほうを向いてにっこりする。
遅くに生まれたひとり息子しかいないスミス未亡人にとっちゃ、俺もクリスも息子というより孫みたいなものだ。
「
ふた言目にはその話になるので、俺は苦笑いするしかない。スミスさんが家を出て、親父さんが死んだあとも同居しようとしないのは、これが原因なんじゃないかと思っている。
そのうち矛先が俺に向かないか心配だ。俺がメルを司祭館につれてきたときに、根掘り葉掘り聞きたがったバアさん連中の先頭にいたんだもんな。
「ねえもう食べてもいい? 俺すっごく腹が減っ……ぺこぺこなんだけど」
「もちろんよ。さ、席について」
クリスがエプロンを脱いで目配せする。お行儀よくしろと言われているので、いきなりがっついたりはしない。
クリスとスミスのばあさんが両手を組んでお祈りの格好になったので、俺も真似をする。
「父よ、あなたのいつくしみに感謝してこの食事をいただきます。ここに用意されたものを祝福し、私たちの心と体を支える
とクリスが先導して、ばあさんも一緒に「アーメン」と唱える。
俺にはこの感謝のお祈りってのがよくわからない。神様が食いぶちを与えてくれることに感謝するっていうんなら、俺の家が飯を食えたのはそこに盗める車があったからだし、スミスさんの飯のタネは(俺んちみたいな)犯罪者のおかげってことになる。もちろん、善良なばあさんの心臓を止めるわけにはいかないので口には出さない。
「ディーンはほんとうによく食べるのねえ」
俺がひとりでアップルパイのホール四分の三(+バニラアイス)を平らげたのを見て、スミス夫人は頬に片手を当てた。
「……ゴメン、息子さんに残しておきたかった?」
「いいのよ。パイなんかまた焼けばいいんだもの。そうじゃなくて……ふふふ」
「……?」俺はスプーンをくわえたまま首をかしげた。
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