7-3
たぶんアルコールか、ことによっちゃやっぱりドラッグでも入ったパーティーだったんだろう、ハロウィンの翌日、アマンダは学校にこなかった。
バカ騒ぎの一夜が明けると、気持ちのほうも空気の抜けた風船みたいにしぼむ。あとに残されるのは大量のゴミだ。
まだすみっこにクラッカーのクズが散らばっている歴史のクラスに入ると、メルがいた。
「よう」
「……おはよ、ディーン」
今朝のメルはちょっとだけ雰囲気が違った。どこかはわからないが。
「なあ、シャンプーかなんか変えた?」
俺が言うと、メルの顔がめちゃくちゃ赤くなった。
「ええっ?! か、変えてない……けど、ど……どこか変?」
「いやべつに」
そのときチャイムが鳴って、その日メルとはほかの授業で会うこともなかった。
次の日アマンダが出てきたときは、いくら俺でもどこが変わったかハッキリわかった。
「どうしたんだよその頭?」
肩の下まであった、ご自慢の赤みがかかった金髪が、男の子みたいなショートカットになっていたからだ。
「うるっさいわね、あんたのそのデリカシーのなさが大っ嫌い!!」
アマンダがヒステリックに怒鳴り、ポーラとリズも、
「女の子がこんなふうになって学校にこなきゃいけないのがどれだけつらいかわかってんの?! これだから男は!」
「こういうときは見て見ないふりをするのがやさしさってものでしょ!」
ふたりして俺を責め立てた。
なんだよ、どうしたのかって思ったから聞いただけなのに。
「あのね、ポップコーンマシンが火を噴いたの」
彼女たちの取り巻きの子がささやいた。
「それで髪に火がついちゃって。運よく顔はなんともなかったんだけど。アマンダのお父さんは業者を訴えるって大騒ぎになっちゃって大変だったんだから」
「髪なら、ほっといたってそのうち元どおりになるだろ、そんなに気にすんなよ」
慰めようとして言ったのに、
「あんたってほんっっとサイテ――!!」
「……って、言われたんだけどさ、どう思う?」
中休みに、俺はクリスのいるカウンセリングルームを訪ねた。
アマンダはそのあと、こんな頭じゃ、今度の試合の応援に出してもらえないかもしれないと泣き出し、残りのふたりにどこかへ連れていかれたが、ポーラはずっと俺をにらんでいた。
「それはお前が悪いよ」クリスは苦笑した。
「容姿っていうのはセンシティブな話題だからね、特に女性にとっては」
「俺は元気づけようとして言っただけだよ」
「それは相手との関係性にもよるだろうね。彼女がお前のガールフレンドなら、慰められたかもしれないけどね」
冗談じゃねえ、あんなヒス女をガールフレンドにするなんて、苦労するのが目に見えてるじゃないか。
「じゃあさ、クリスはこーゆーときどうすんだよ?」
「相手が自分からなにか言ってくるのを待つか、尋ねるにしても、ほかの人がいる教室の真ん中ではしないで、ふたりのときに聞くと思うよ」
「クリスは大人だからそんな余裕ぶっこけるんだよ。だろ?」
昼にカフェテリアでメルに会ったので俺はぶちまけた。
「そうね、たかが髪だもん」
メルはくすくす笑った。
「ディーンの言うとおり、しばらくすればまた伸びてくるのに」
「だよな」
「ねえ、だけど、マクファーソン神父さんって、実際に女性とおつきあいしたことあるのかな?」
「神父になってからはゼッタイないだろうけど、その前のことはわかんないよ。あの顔だから、けっこうモテてたと思うけどね」
言われてみれば、俺はクリスのことをほとんど知らないのに気づいた。ボストンから来たってのは聞いたことがあったけど、東海岸出身なのかはわからないし、きょうだいがいるとは言っていたものの、司祭館には家族写真の一枚もない。十五世紀生まれの〈
「神父さんて、秘密主義なのね。一緒に住んでるディーンにもなにも言わないなんて」
秘密主義? クリスが?
「そうかな。聞けば教えてくれると思うけど……」
ああ、でも、ダニーのときはエクソシストだってことを黙ってたっけ。あれには理由があったわけだし……。
「まあでも、俺には他人の隠しておきたいことを嗅ぎまわる趣味はないよ。大体、隠してないのに聞いてひどい目に遭ったばっかりだからな」
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