Halloween

7-1

 高校生活には気が狂いそうになる場面がいっぱいあるけど、ハロウィンもそのひとつだった。

 実際にその日がくる一か月以上も前から、街はオレンジと黒のカラーリングに染まり、いたるところが大小のジャック・オー・ランタンやらガイコツやら黒猫やらに占拠される。

 もちろん学校も例外じゃない。

 その日が土日じゃなけりゃ(もしそうならその前の日)、どんな仮装をして学校に来ようがお咎めナシだ。スパイダーマンでもロキでもフレディ――俺が言ってるのは歌手じゃないほうね――でもなんでも。

 だけど俺は当日もふつうのカッコで学校に行った。だってシャレにならないだろ、俺がよりにもよって狼男とか吸血鬼のコスプレするなんて?

「狼男ならいいと思うけどね。万が一なにかあっても、ほかの人はすごくリアルな仮装だと思うだけだろうし」とクリスは言ったが、

「プライドの問題だよ。俺ははなりたくないんだ。最近じゃヒュー・ジャックマンがだいぶイメージアップに貢献してくれたけどさ」

 完全に陽が落ちる前には、近所の子供たちが、ハニービーやミイラ男やフェアリー・ゴッドマザーのスパンコールつきのドレス姿でお菓子をねだりにくるんだろう。今日だけは、もし外出するんなら法衣スータンはやめとけと俺はクリスに言っておいた。あんたの容姿じゃ神父のコスプレにしかみえないからって。

 みんなが浮かれ騒いでいるこんな日はまさに稼ぎどきだったし、今頃どこでなにをしてるか知らないが、たぶんニックにとっても食べ放題のビュッフェみたいなものじゃないかと思う。

 教師ですらなにかの仮装――コウモリのピアスとかちょっとしたものから囚人服まで――をしてくる日は、正直あまりまともな授業にはならない。だからだろうか、今日はメルの姿はなかった。

「ディーン、あんたってばノリが悪いのね」

 居残っていた机から顔を上げると、目の前に三人の魔女が立っていた。

 魔女っていっても、想像するようなイボだらけのカギ鼻のババアじゃなく『WICHED』のほう。お揃いの黒のサテンのケープとスカートに、クモの巣のレースを貼りつけたとんがり帽子、黒いバラのヘッドドレス、ラインストーンと十字架をジャラジャラくっつけたチョーカーと、ちょっとずつ個性を出していたが、アマンダのスカートが一番短かった。

「『マクベス』みたいだな」

 と俺は言った。

「あんたの口からシェイクスピアが出てくるのを聞くなんて、たぶん終末が近いのね」

 ポーラがいかにも驚いたみたいに言った。そういやポーラは演劇部だったっけ。

「最近よくあんたメルみたいなガリ勉ブレインと一緒にいるよね。なにかに目覚めたワケ?」

「べつにいいだろ。勉強教えてもらってるだけだよ」

「ウソ。信じらんない!」「あんたが?!」

 言ってやつらはゲラゲラ笑った。

「大学行くつもりなの? どこ? 何部?」

「まだ決めてないけど」

 なにがおかしいのかまた笑われた。

 こいつらはモノホンの魔女じゃないけど、意地悪ウィケッドなのはまちがいない。

「ねー、ディーンってさ、スポーツ推薦とれるくらいなのにさ、どうしてどこのクラブにも入らないの?」

 三人の中じゃわりと俺に好意的なリズが言った。中腰で机に頬杖つくもんだから、ケープのすきまから胸が見えそうだ。

「うるせーな、俺はクラブ活動には興味ねーの!」

 これは負け惜しみとかじゃなく本当。ほんとに心が躍るのは月夜に丘を駆けることと、子供のとき以来連れてってもらったことがないけど、国立公園で鹿エルクを追うことだ。それに比べたら、狼人間にとっては、人間がアマチュアでやってる陸上とかバスケなんてのは、子供の追いかけっことかボール遊びにしか思えない。

「ねえ、今夜、アマンダの家でハロウィン・パーティーやるんだけど来ない? 運動系のクラブの子はみんな来るよ。仮装してるのが条件だけど。あんたでもゾンビくらいならいけるでしょ?」

 うえっ、冗談じゃねえよ! 俺は思わず震えた。ドラッグ・パーティーも死人もごめんだ。

「行かねーよ。帰ったらガキのおりしなきゃならないし」

 俺は教科書とノートをまとめて立ち上がった。

「ええ、あんた子供いたの?! そのトシで?!」

「違う、俺のじゃなくて近所のだよ!」

 ――まったく、女どもときたらなに考えてんのかわかんねえよ。

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