6-2
「プロテスタントに改宗しない?」と俺は言った。
クリスは
「きったねーなぁもう」
「あ……悪魔みたいなことを言うんだね、お前は……」
「それって、プロテスタントが悪魔ってこと?」
「いや……そういう意味じゃない……今のはもののたとえだ……」
グラスで水を二杯飲んだところで、クリスはようやく落ちつきを取り戻し、
「どうして突然、改宗なんて話を持ち出したんだ?」
「だってさ、プロテスタントの牧師は結婚できるんだろ?」
「できるけど……。独身を通している牧師もいるよ。……お前は私に結婚してほしいのか?」
「クリスはさ、料理もけっこううまいし――兄貴たちは目玉焼きだって作らなかったんだぜ――子供にもやさしいし。神父にしとくの惜しいんだよな」
「あのねえ……」
「ほんとだよ。神父じゃなかったらね、って言ってるやつ、学校にもたくさんいるもん」
「それはべつに今に始まったことじゃないだろう」
「……っていうかさ、俺を養子にしてくれないかな、って思ったんだ」
俺はちょっと恥ずかしくなって目を伏せた。
「ほら俺……おふくろの顔あんまり覚えてないだろ。親父も出てったきりだし、兄貴たちはあんなだし……。こないだメルの家に行ってさ、ちゃんと親父とおふくろがいて子供がいて、っていうの、やっぱりなんかいいなあって思って……それで。それだけだよ」
クリスは黙っていた。俺は自分がものすごく馬鹿なことを口走ったと後悔し始めていた。
「私はお前のことが好きだし、家族だと思っているけれど、それと改宗――もとい、結婚とはべつの話だよ」クリスは静かに言った。「お前が
たぶん、おそらく、いや絶対、兄貴がうんと言うとは思えない。
俺が教会から高校に通えるようにしたときの七面倒くさい手続きを思い出したら当然そうだろう。
「それに、
「……うん」俺はしぶしぶうなずいた。「クリスはさ、神様のこと好きだもんね」
「いいや」
と返ってきたので俺は思わず椅子から転げ落ちそうになった。
当の本人はといえば面白そうにくすくす笑っている。
「昔は泣くほど嫌だったよ。今だって、そうでないとはいえない……。でもまた戻ってきたんだよ。お前がよく言う家族みたいにね。私は放蕩息子だったんだ」
「それってマジな話?」
俺はクリスの、それこそ天使みたいだってバアさん連中がよく言う顔をまじまじと見た。
……うーん、天使じゃないな。天使の実物なんて見たことないけど、ステンドグラスに描かれているやつらは、こんなふうに悪戯っぽくは笑わない。
漂っていた気まずさが失せて、なんだかわからない胸のつかえがとれた。
「それに、ディーンのほうも、なにも誰かの養子になるんじゃなくて、自分の
「誰と?」
「たとえばそれこそ、ミス・エーデルスタインと」
俺はそんなことマジで考えてもみなかった。
「――メルとはなにもねーよ!」
「そう? 彼女は知的で思慮深くて、すてきな女性だと思うけどね。お前にもいい刺激になっているみたいだし」
メル本人が聞いたら真っ赤になって口ごもりそうなことを笑顔で言ってのける。
「あーもう、これだからあんたがた大人ってのは! 青少年をからかうのやめろよな!」
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