4-3

「メルだよ」

 玄関で出迎えたクリスに俺は言った。

「メル・エーデルスタイン。英語と歴史のクラスで一緒なの話しただろ」

 図書館の帰りにどこかでコーヒーの一杯でもおごれればよかったんだが、あいにくと俺は金欠で、そういえばクリスが友達を連れてこいと言っていたのを思い出した。ふたりとも顔見知りみたいだから、メルもふつうに話せるだろう。

 そう言ったら、メルは赤くなってあわてたあと、ようやく、うんと言ったので、電話した上で連れてきたわけだ。

「メル、クリス・マクファーソン神父。俺の保護者。お互い顔は知ってんだよな」

「なんでそんなにぶっきらぼうなんだ? ――いらっしゃい、ミス・エーデルスタイン。来てくれて嬉しいよ。どうぞ入って」

 クリスは上機嫌でメルを居間に案内した。

「さっきバス停の前でバアさんたちにつかまって、さんざんからかわれたんだよ」

「あの……お邪魔します」

「そんなにかしこまらなくていいからね。今、コーヒー……よりは紅茶のほうがいいかな。ちょうど、スミス夫人の焼いてくれたスコーンがあるから。――ディーン、ちょっとキッチンへおいで」

「はあ? 俺の客なのに俺がお茶を淹れんの?」

 クリスはメルを残して俺を台所へ呼んで、

「ディーン、お前はキリスト者じゃないから、自然の衝動に従うのを止めはしないけれど、そのときでも、相手を思いやることと、結果として生じるもののことをよく考えるようにね」

「しっ……神父がそんなこと言っていいのかよ!」俺は耳まで熱くなって叫んだ。

「どうして? 私は当然のことを言ったまでだよ、お前の保護者としてね」

 クリスはいつもと変わらずにっこりした。

 ……このときばかりはクリスが悪魔に見えたよ。天使の皮をかぶった悪魔に。

「このあいだは手伝ってくれてありがとう。エーデルスタインっていう名前を聞いて、思い出したんだ。ご両親は共著で、古代ギリシャの、プルトン信仰と葬礼に関する本を出されているよね?」

「両親のことをご存知なんですか? ふたりに話したらきっと喜ぶと思います……!」

 思ったとおりというかなんというか、最初はソファーの上でカチカチに固まっていたメルも、クリスが話をふると、いつも俺と話す以上のなめらかさでしゃべり始めた。

 メルはちょっとおどおどしたところがあるけど、笑うと可愛いんだよな。バスの中でも、年寄が乗ってきたら、すぐに気づいて、まだ自分の席の前にきてもいないのに、ぴょこんと立ち上がって譲ろうとするんだ。あれはウサギがびっくりして跳ねるみたいで面白かったな。

 クリスはなにか込み入った、専門的なことをメルに聞いていて、メルも一生懸命答えている。

 ふだんは俺がメルやクリスに初心者丸出しの質問をしてばっかりだから――俺には理解できない話題で盛り上がっているふたりを見てると、嬉しさ半分、ちょっと複雑な気持ちになったことは認めるよ。

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