4-2

「メルはさ――」

 図書館で勉強中、化学の数式があまりに理解不能で脳みそが沸騰してきたので、意識をらそうと思って、俺は対面で生物のレポートを書いているメルに話しかけた。

「将来、なんかやりたいこととかあんの」

 クソ、こんな公式考えたやつはみんな死ね。

「やっぱ大学行くんだろ? 親が大学の先生なんだっけ?」

「うん、そう……。でもまだはっきり決めてないの。両親と違って、研究したい分野がひとつに定まってるわけじゃないし……。なにか人の役に立てる仕事ができればいいなとは思うけど。今気になっているのは言語聴覚士」

 聞いたことない職業だ。

「あとは、英語の先生。わたし、しゃべるのうまくないから、なれるかどうかわからないけど……シルヴェストル先生怖いんだもん。ああいう教えかたはしたくないなって」

「たしかにやつはいけ好かない野郎だよな」

 どっかの誰かさんに似てるし。

「メルならなれるよ。アホな俺につきあってくれるくらいだしさ。なんかしゃべってたらこの問題解けそうな気がしてきた」

「そんな、わたし、化学はぜんぜん――」

 こういうの真に受けるのが面白いんだよなあ。

 もちろん、メルが教師に向いてるってのは本当。

「ディーンはどうするの? 高校卒業したら」

 卒業したらっつーか、卒業できるかどうかも考えてなかったよ。

「うーん、大学行けるかどうかわかんねーし、家の商売でもやるかなあ」

「おうちの商売って?」

「んー? 中古車屋」

「それって、相当愛想がよくて口がうまくなきゃダメみたいだよ」メルはくすくす笑った。

「悪かったね、愛想がなくて口が悪くて」

 兄貴たちも、とてもじゃないけど愛想がいいとはいえないんだが。

「ぜんぜん。わたしも最初ディーンのこと怖い人だと思ってたけど、そんなことなかったし……」

 ……やっぱりな。

「まあとにかくさ、今の俺は目の前の単位がヤバいんで手一杯なわけ。もし興味のあることを好きにやっていいっていうんなら、神学部とか面白そうだなって思うけどね」

 クリスのあの物知りぶりがどこからきてるのか知りたいし。

「――神学部? ディーン、神父さんになるの?」

 メルはどういうわけかちょっとショックを受けたみたいだった。

「ならねーよ。それこそ俺はクリスみたいに物腰柔らかでも口が回るわけでもねーし、第一、神様ってやつを信じてないし」

「それなのに教会にいるなんて、やっぱり不思議」

 まあね、俺もそう思うよ。

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